【完結】王太子妃候補の悪役令嬢は、どうしても野獣辺境伯を手に入れたい

たまこ

文字の大きさ
44 / 64

番外編:奥さまの日常。1

しおりを挟む



「奥さま。マーガレット様へのお土産は決まりましたか?」


 アルバートと結婚して三ヶ月。未だに『奥さま呼び』に慣れていないアレクサンドラは、反応が遅れてしまう。一拍遅れて、専属侍女ジェニーの方を振り返る。



「ええ。この一番大きな詰め合わせにするわ。」


 アレクサンドラは焼き菓子が十種類近く入った箱を指差した。


「・・・マーガレット様のお家は、クリストファー様と二人暮らしですよね。多すぎませんか?」



「クリストファーも甘いものが好きだから良いのよ。」


 アレクサンドラもマーガレット達も、辺境に来て一年以上経っている。アレクサンドラは、辺境伯であるアルバートに嫁ぎ、自身も領地経営だけでなく、新しい事業にも手を出しているので、金銭面では不自由していない。



 しかし、マーガレット達は、平民として暮らしている。マーガレットもクリストファーも、何も嫌がることなく、伸び伸びと平民暮らしを楽しんでいるが、アレクサンドラは会う度についつい美味しいものを差し入れたくなってしまう。




「行きましょうか。」



 詰め合わせを店員に包んでもらい、また馬車に乗り込もうとするアレクサンドラだが、派手なメイクに真っ黒なドレスを身に付けた女性がそれを阻んだ。




「貴女が、王太子に婚約破棄された悪役令嬢かしら?」


 真っ赤なルージュが塗られた唇が弧を描いた。




◇◇◇




 すぐに護衛達が割って入り、ジェニーもアレクサンドラの前に出て、背に庇うように立つ。だがアレクサンドラは、それを制止し、護衛も、ジェニーも渋々横にずれた。




「ふふふ。名前を尋ねたい時は、まず自分の名前から、と教わらなかったのかしら。」

 アレクサンドラが、美しく微笑むと、相手はギリッと歯を鳴らし、表情が怒りで染まった。



「んまぁ!私のことをご存じ無いなんて!」




「少なくとも、国にとって重要な立場の貴族とその家族は、私の頭の中に入っております。これでも、元王太子妃候補でしたので。」


 相手は怒りに震えているようだが、名前を答える様子がない。ジェニーが小声で「ジャクソン伯爵家のご令嬢、エリザベス様です。」と耳打ちした。




「ああ、国への借金が年々増加しているジャクソン伯爵家ですね。」

 アレクサンドラがそう答えると、エリザベスは手に力を込めすぎて、持っていた扇をぱきりと折ってしまう。




「自分より爵位の高い相手には、自分から声を掛けてはならない。そんな基本的な貴族の理すら理解していない方とお話する時間はありませんわ。失礼します。」


 この国では辺境伯は公爵家と同等の爵位となる。アレクサンドラがくるりとエリザベスに背を向ける。するとエリザベスの叫び声が聞こえる。





「・・・っ!私がお話ししたいのはアルバート様のことですわ!」


 アレクサンドラの唯一の弱味、アルバートの名前を出され、アレクサンドラはまたエリザベスの方を向いた。エリザベスは、またにんまりと笑っていた。







◇◇◇




『冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。』本日より公開しております。

 是非お読みください!
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

お前との婚約は、ここで破棄する!

ねむたん
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」  華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。  一瞬の静寂の後、会場がどよめく。  私は心の中でため息をついた。

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」 私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。 アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。 これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。 だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。 もういい加減、妹から離れたい。 そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。 だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。

【完結】婚約破棄された令嬢の毒はいかがでしょうか

まさかの
恋愛
皇太子の未来の王妃だったカナリアは突如として、父親の罪によって婚約破棄をされてしまった。 己の命が助かる方法は、友好国の悪評のある第二王子と婚約すること。 カナリアはその提案をのんだが、最初の夜会で毒を盛られてしまった。 誰も味方がいない状況で心がすり減っていくが、婚約者のシリウスだけは他の者たちとは違った。 ある時、シリウスの悪評の原因に気付いたカナリアの手でシリウスは穏やかな性格を取り戻したのだった。 シリウスはカナリアへ愛を囁き、カナリアもまた少しずつ彼の愛を受け入れていく。 そんな時に、義姉のヒルダがカナリアへ多くの嫌がらせを行い、女の戦いが始まる。 嫁いできただけの女と甘く見ている者たちに分からせよう。 カナリア・ノートメアシュトラーセがどんな女かを──。 小説家になろう、エブリスタ、アルファポリス、カクヨムで投稿しています。

逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?

魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。 彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。 国外追放の系に処された。 そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。 新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。 しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。 夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。 ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。 そして学校を卒業したら大陸中を巡る! そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、 鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……? 「君を愛している」 一体なにがどうなってるの!?

心がきゅんする契約結婚~貴方の(君の)元婚約者って、一体どんな人だったんですか?~

待鳥園子
恋愛
若き侯爵ジョサイアは結婚式直前、愛し合っていたはずの婚約者に駆け落ちされてしまった。 急遽の結婚相手にと縁談がきた伯爵令嬢レニエラは、以前夜会中に婚約破棄されてしまった曰く付きの令嬢として知られていた。 間に合わせで自分と結婚することになった彼に同情したレニエラは「私を愛して欲しいなどと、大それたことは望んでおりません」とキッパリと宣言。 元々結婚せずに一人生きていくため実業家になろうとしていたので、これは一年間だけの契約結婚にしようとジョサイアに持ち掛ける。 愛していないはずの契約妻なのに、異様な熱量でレニエラを大事にしてくれる夫ジョサイア。それは、彼の元婚約者が何かおかしかったのではないかと、次第にレニエラは疑い出すのだが……。 また傷付くのが怖くて先回りして強がりを言ってしまう意地っ張り妻が、元婚約者に妙な常識を植え付けられ愛し方が完全におかしい夫に溺愛される物語。

愛する人のためにできること。

恋愛
彼があの娘を愛するというのなら、私は彼の幸せのために手を尽くしましょう。 それが、私の、生きる意味。

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

⚪︎
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

悪役令嬢が行方不明!?

mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。 ※初めての悪役令嬢物です。

処理中です...