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番外編:奥さまの日常。1
しおりを挟む「奥さま。マーガレット様へのお土産は決まりましたか?」
アルバートと結婚して三ヶ月。未だに『奥さま呼び』に慣れていないアレクサンドラは、反応が遅れてしまう。一拍遅れて、専属侍女ジェニーの方を振り返る。
「ええ。この一番大きな詰め合わせにするわ。」
アレクサンドラは焼き菓子が十種類近く入った箱を指差した。
「・・・マーガレット様のお家は、クリストファー様と二人暮らしですよね。多すぎませんか?」
「クリストファーも甘いものが好きだから良いのよ。」
アレクサンドラもマーガレット達も、辺境に来て一年以上経っている。アレクサンドラは、辺境伯であるアルバートに嫁ぎ、自身も領地経営だけでなく、新しい事業にも手を出しているので、金銭面では不自由していない。
しかし、マーガレット達は、平民として暮らしている。マーガレットもクリストファーも、何も嫌がることなく、伸び伸びと平民暮らしを楽しんでいるが、アレクサンドラは会う度についつい美味しいものを差し入れたくなってしまう。
「行きましょうか。」
詰め合わせを店員に包んでもらい、また馬車に乗り込もうとするアレクサンドラだが、派手なメイクに真っ黒なドレスを身に付けた女性がそれを阻んだ。
「貴女が、王太子に婚約破棄された悪役令嬢かしら?」
真っ赤なルージュが塗られた唇が弧を描いた。
◇◇◇
すぐに護衛達が割って入り、ジェニーもアレクサンドラの前に出て、背に庇うように立つ。だがアレクサンドラは、それを制止し、護衛も、ジェニーも渋々横にずれた。
「ふふふ。名前を尋ねたい時は、まず自分の名前から、と教わらなかったのかしら。」
アレクサンドラが、美しく微笑むと、相手はギリッと歯を鳴らし、表情が怒りで染まった。
「んまぁ!私のことをご存じ無いなんて!」
「少なくとも、国にとって重要な立場の貴族とその家族は、私の頭の中に入っております。これでも、元王太子妃候補でしたので。」
相手は怒りに震えているようだが、名前を答える様子がない。ジェニーが小声で「ジャクソン伯爵家のご令嬢、エリザベス様です。」と耳打ちした。
「ああ、国への借金が年々増加しているジャクソン伯爵家ですね。」
アレクサンドラがそう答えると、エリザベスは手に力を込めすぎて、持っていた扇をぱきりと折ってしまう。
「自分より爵位の高い相手には、自分から声を掛けてはならない。そんな基本的な貴族の理すら理解していない方とお話する時間はありませんわ。失礼します。」
この国では辺境伯は公爵家と同等の爵位となる。アレクサンドラがくるりとエリザベスに背を向ける。するとエリザベスの叫び声が聞こえる。
「・・・っ!私がお話ししたいのはアルバート様のことですわ!」
アレクサンドラの唯一の弱味、アルバートの名前を出され、アレクサンドラはまたエリザベスの方を向いた。エリザベスは、またにんまりと笑っていた。
◇◇◇
『冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。』本日より公開しております。
是非お読みください!
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