4 / 45
4
しおりを挟む「お嬢様、おはようございます。」
「ソフィア、おはよう。」
十五歳とは思えぬ、洗練された美しい微笑みを溢す彼女は、ソフィアが誠心誠意仕える、ハワード公爵家の長女シャーロットだ。
王子妃候補として、王宮に通うこと五年。シャーロットは、日々王子妃候補らしく素晴らしい淑女に成長しており、そんな彼女に仕えられる事こそが、ソフィアの誇りだった。
「ふふふ。」
急に笑いだしたシャーロットをソフィアは少し怪訝そうに見た。
「どうされましたか?」
「さっき、ハロルドが来たのよ。」
ソフィアが言葉を失っていると、シャーロットは「珍しいでしょう。」と笑った。ハロルドは、シャーロットの父の執事だ。シャーロットの所へ来ることは殆ど無い。
「そしたら、何て言ったと思う?〈ソフィアは、ミルフィーユが苦手なので食べさせないで頂けると助かります。〉って言ったの。」
シャーロットは可笑しそうに笑っているが、ソフィアは絶句した。ソフィアはシャーロットからの要望で、一緒にお茶をする機会も多く、その時にスイーツが出される。ハロルドはそこでソフィアがミルフィーユを食べる機会を無くし、ハロルドからの誘いにソフィアが頷く可能性を上げようとしているのだ。
ソフィアが「ミルフィーユは苦手ではありません。」と伝える前に、シャーロットが「ハロルドとソフィアは同期だものね。仲良しなのね。」とふわふわ笑った。王子妃候補でありながら、純粋なところがあるお嬢様へ、ソフィアは事実を伝えることが出来なかった。
◇◇◇
「ソフィア。」
今日も飽きもせず帰り道で待ち伏せていたハロルドから、一輪の薔薇を嫌々ながら受け取る。
「ハロルド。貴方、ルール違反ですよ。」
いつも以上に冷たい視線で見据えられても、ハロルドは嬉しそうに笑った。
「ルール違反?」
ハロルドはとぼけた顔をしており、そこがまた癪に障る。
五年前、ハロルドからの熱烈なアプローチが始まった時、昼夜問わずハロルドからの接触があり、ソフィアはハロルドファンのメイド達からやっかみを受けた。それが暫く続き、静かに激怒したソフィアは淡々と、ハロルドの主であるハワード公爵へ業務妨害をされていると告げた。
公爵はハロルドに厳重注意し・・・・・・もっとも、ハロルドには響いていなかったが・・・、業務時間中の接触は禁じられ、時間外のアプローチも、常識の範囲内で、最低限の時間で、ソフィアの意向を最優先すること、と定められた。ソフィアは、アプローチ自体、禁止にしてほしかったのだが、ハロルドが公爵を言いくるめたのだろう。結局、アプローチ禁止には出来なかった。
それ以降の五年間、ハロルドは決められたことを守り、一日に一回、帰り道に話しかけるだけになった。あの帰り道の待ち伏せも、ハロルドにしてみれば相当我慢しているのだ。シャーロットに接触することなんて今までに一度もなかったのに。
「業務時間中にアプローチはしない、という決まりです。」
お嬢様に変なことを言ったでしょう、とギロリと睨み付けると、ハロルドは思い出したように笑った。
「ソフィアには、接触していないじゃないか。」
「お嬢様にも業務以外、接触しないで下さい。」
ハロルドは、にんまりと笑った。
「ソフィア、もしかして嫉妬?」
「違います。」
いつものように一刀両断されたハロルドは、やはりいつものように嬉しそうに笑っていた。
43
あなたにおすすめの小説
幸せアプリ
青の雀
恋愛
結婚間近の同棲していた恋人に捨てられ、契約直前の仕事を同期男性に盗られたその日はまさに厄日かと思われた。
帰宅して、風呂上りにスマホでサーフィンしていたら、見覚えのないアプリがインストールされている!
すぐに削除するつもりが……、次第にアプリの指示通り行動していたら、幸せが手に入るようになりました♡
シナモンと葡萄酒と白銀の魔杖
柳葉うら
恋愛
リーツェル王国の王都の片隅に、夜の間だけ現れるカフェがある。
名前はカフェ銀月亭。店主のエーファは元・氷晶の賢者こと王国最高峰の魔法使い。彼女が早過ぎる引退後に開いた、一風変わった店だ。
エーファは看板フェンリルのシリウスと一緒に店をきりもりするかたわら、大切な「お嬢様」を国外追放した忌々しい王太子に復讐するべく暗躍している。
ある日、エーファと年が近く顔見知りの騎士団長のランベルト・フォン・ロシュフォールが店を訪れた。
エーファの行動を訝しんだランベルトは、見張りのために毎日来るようになる。それに気づいたエーファだが、ランベルトから情報を引き出すためにわざと彼に近づき――腹の探り合いが始まった。
警戒し合っていた二人が、交流を重ねていく間に恋に落ちてしまうお話です。
エーファがカフェで出すスパイスが効いたお菓子やホットワイン、そして頼もしいモフモフ相棒の活躍もお楽しみください。
※アドベントカレンダーとして毎日更新する予定ですので応援いただけますと嬉しいです
二年後、可愛かった彼の変貌に興ざめ(偽者でしょう?)
岬 空弥
恋愛
二歳年下のユーレットに人目惚れした侯爵家の一人娘エリシア。自分の気持ちを素直に伝えてくる彼女に戸惑いながらも、次第に彼女に好意を持つようになって行くユーレット。しかし大人になりきれない不器用な彼の言動は周りに誤解を与えるようなものばかりだった。ある日、そんなユーレットの態度を誤解した幼馴染のリーシャによって二人の関係は壊されてしまう。
エリシアの卒業式の日、意を決したユーレットは言った。「俺が卒業したら絶対迎えに行く。だから待っていてほしい」
二年の時は、彼らを成長させたはずなのだが・・・。
契約結婚の相手が優しすぎて困ります
みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。
愛する人は、貴方だけ
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。
天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。
公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。
平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。
やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。
銀鷲と銀の腕章
河原巽
恋愛
生まれ持った髪色のせいで両親に疎まれ屋敷を飛び出した元子爵令嬢カレンは王城の食堂職員に何故か採用されてしまい、修道院で出会ったソフィアと共に働くことに。
仕事を通じて知り合った第二騎士団長カッツェ、副団長レグデンバーとの交流を経るうち、彼らとソフィアの間に微妙な関係が生まれていることに気付いてしまう。カレンは第三者として静観しているつもりだったけれど……実は大きな企みの渦中にしっかりと巻き込まれていた。
意思を持って生きることに不慣れな中、母との確執や初めて抱く感情に揺り動かされながら自分の存在を確立しようとする元令嬢のお話。恋愛の進行はゆっくりめです。
全48話、約18万字。毎日18時に4話ずつ更新。別サイトにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる