上 下
13 / 151

チヒロハ、コンランシタ①

しおりを挟む
「......な......に......?」

 戸惑いながらも、震える声で途切れ途切れに聞いた。
 だけど彼はまたクスリと笑い、その手を離す事無く答えた。

「んー......何となく?
 俺さぁ......なんか千尋さんに、俄然興味が湧いてきたみたい」

 そのままグッと手首を引かれ、ふらついた拍子に彼の腕の中へ。
 その状況にびっくりし過ぎたせいで、何の反応も返す事が出来ぬまま、彼に抱き締められてしまった。

 久し振りに感じる、男性らしい肌の感触とぬくもり。
 我に返るとそれに激しく動揺し、慌てて彼から身を離した。

「......何もしないんじゃ、無かったんですか?」

 自分の体を庇うみたいに両手で抱き締め、じとりと睨み付けた。
 すると男はニヤリと笑い、しれっと言いやがったのだ。

「そのつもり......だったんだけどね。
 千尋さんがあまりにも無防備に、俺に接するから」

 男性だとは思えないくらい、艶かしい色香。
 それに危うく見惚れそうになったけれど、そこでふとある事・・・に気付いた。

「なんで、私の名前......?」

 そうだ。変な意味ではなく一夜限りの関係だと思ったから、私は彼に対して名前を名乗ったりしていない。
 それに私だって、この人の名前すら知らないのだ。

「契約書に、書いてあったんだよね。
 この部屋の所有者の、名義。
 あなた、藤堂《とうどう》 千尋《ちひろ》さんでしょ?」

 にっこりと邪気のない笑みを浮かべ、彼が言った。

 なるほど、そういう事ね。
 その理由は、分かった。分かったけれど。
 ......いくら私が金無し、宿無し、色気無しの三無い女だとしても、今夜ここにこのまま泊まるのはまずくないか?
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

幼馴染み

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:13

穢れた、記憶の消去者

ミステリー / 完結 24h.ポイント:639pt お気に入り:46

婚約解消されたネコミミ悪役令息はなぜか王子に溺愛される

BL / 完結 24h.ポイント:170pt お気に入り:755

性教育2・・・息子が「見たい」と言った私の部分(彼女と私編)

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:177pt お気に入り:21

処理中です...