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庇護欲VS嗜虐心③

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「ん......!」

 彼女の可憐な唇から溢れ出た、艶っぽい声。

 まさか俺に舌を這わされるとは、やっぱり全く想像していなかったのだろう。
 信じられないものでも見るような視線を俺に向け、真っ赤な顔のまま震えるその様は、俺の中の雄の部分を刺激した。
 
「な......な......何を......!!」

 たぶん彼女は、何をしやがるんだ的な事を言いたかったのだろう。
 だから俺はニコッと無邪気に見えるように微笑み、しれっと答えた。

「何って......消毒?
 ご主人様が、怪我したって言うから」

 他意なんてまるでありませんよ、とでも言うように満面の笑みを浮かべると、彼女はますます困惑したように、さっき俺が咥えた指先を凝視した。

 さすがに少し、やり過ぎただろうか?
 異性として意識はされたいけれど、あんまり警戒されるのはちょっと困るんだよなぁ......。

 そう思ったから話題を変える為、買ってきたお弁当の包みを彼女に向かい差し出した。

「はい、千尋さん。
 二人で食べようと思って、買ってきたんだ。
 せっかく作ってくれようとしたみたいだけど、さすがにそれはちょっと食べられなさそうだしね?」 

 バラエティ番組の撮影のため行ったテレビ局の近くにある、洋食屋。
 美味いと噂では聞いていたし、持ち帰りもやっているとの事だったから、買ってきてみた。
 自分ひとりだとこんな面倒な真似は絶対にしないところだが、彼女が幸せそうに食べる姿を見るのは癒される。
 あと単純に、小柄で華奢な体つきの割によく食べるらしきこの人の笑顔が、また見たかった。
 
 基本的にどちらかというと俺は、誰かにこんな風に尽くしたりするようなタイプの男では無かったはずだ。
 だけど千尋さんが喜んでくれそうな事は何でもしてあげたいし、もっとこの人に近付きたいなって思う。
 ......物理的にも、心理的にも。

 我ながらこんなのは、柄じゃないなと思うけれど。
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