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失恋
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「彼、ってことは。……その相手はもしかして、男ですか?」
自身の失言に気付き、あわてて言い繕おうとした。
なのにそれより早く、柳瀬君はゾッとするほど冷たい笑みを浮かべて告げたのだ。
「なんだ、そっか。……田中さんも、こっち側の人間だったんですね」
それから彼は乱暴に僕の後頭部を掴み、引き寄せてキスをした。
突然のことに驚き、最初僕は意味が分からなかった。だけど田中としての僕のことまで、セフレとして利用しようとしているのだとすぐに気付いた。
少しくらいは太郎として、彼と心が通じ合えたのじゃないかと勘違いしていた。
だけど、あんな出会い方をしたのだ。……この男が遊び人だっていうことなんて、最初から嫌っていうくらい分かっていたはずなのに。
僕の体を、心を、この男はどこまで弄べば気が済むと言うのだろう? ……そんなの、冗談じゃない。
無理やり舌をねじ込まれだけれど僕は彼の体を突き飛ばし、拒絶の言葉を口にした。
「本当に最低だな、君は。……今夜のことは、忘れてやる。だけどもう二度とこんな真似、僕にしないでくれ」
そのまま唖然とする柳瀬君を放置したまま車を降りて、ちょうど通りかかったタクシーに向かい手をあげた。
そしてもう振り返ることなくタクシーへと乗り込み、溢れそうになる涙を必死にこらえてただ流ていく夜景を見つめた。
***
その翌日。僕は意地とプライドを総動員して、何事もなかったかのように柳瀬君に対して振る舞った。
そして彼は僕に終始謝りたそうにしているのに気付きながらも、あえてスルーし続けた。
だってそれだけのことを、彼はしたと思うから。
なのにその一方で、彼との関係をこれで終わりにしたくないと考える女々しくて情けない自分にも気付いていた。
そのためその日は土曜日ではなかったけれど、またしても僕は若返りの薬に手を出してしまった。
田中としての関係は、これまでどおり上司と部下として。……だけど太郎として、セフレの関係を続けることを選んだのだ。
きっとこんな道を選んだら、地獄みたいな結末しか待ち受けていないと僕自身、嫌というほど理解していたけれど。
いつものように若者向けの服に身を包み、バーへと向かう。
とはいえ今日は金曜日だから、空振りの可能性も高い。
……むしろ僕以外と遊ぶために、彼がバーにいなければいいのにとすら願った。
だけどその期待は、あっさり裏切られてしまった。
バーの扉を開けるとそこには、仲睦まじく抱き合うふたりの男性の姿。
ひとりは以前僕のことを睨み付けた、あのアイドルみたいにキレイな顔をした男の子。
そしてもうひとりは、柳瀬君だった。
なんだ、そうか。……やっぱり太郎も、彼に遊ばれていただけだったんじゃないか。
絶望に打ちひしがれる僕に向かい、勝ち誇ったような笑みを浮かべて男が声をかけた。
「あれ? 君、来たんだ。でも、残念だったね。これから俺たち、ホテルに行くところだから」
このままUターンをして、逃げ出そうかとも思った。
だけどなけなしのプライドをかき集め、無理やりほほ笑んで告げた。
「……そうなんだ。楽しんできてね」
「……太郎は、それでいいわけ?」
咎めるように柳瀬君に聞かれたけれど、僕に彼らを止める権利なんてない。
だって僕と彼の関係は、ただのセフレに過ぎないのだから。
「別に、問題ないと思うけど。でも、そうだなぁ。……僕も今夜は誰か、遊んでくれる人を探さないとだね」
口をついて出たのは、泣きたくなるくらい最低な言葉だった。
するとその会話を聞いていたらしい別の男が、僕の肩に手を置いた。
「なになに、喧嘩? 俺ずっと君のこと、いいなって思ってたんだよね。だから今夜、どう?」
何度か見かけたことがある男だったから、きっとこの店の常連客なのだろう。
当てつけみたいに笑みを返すと、柳瀬君は眉間に深いしわを寄せた。
だけど、君にそんな顔をする権利はないよ。……そっちはそっちで、楽しめばいい。
「もう行こう、聖君。……ね?」
「うん、そうだな。じゃあ、太郎。……またな」
ただのセフレだと思っているからこそ、こんな状況であっても『またな』などという言葉を口にすることが出来るのだろう。
それが痛いくらいよく分かっていたから、思わずクスクスと笑い出してしまった。……もうこんなの、笑うしかなかった。
「うん、またね聖」
もう彼の方を振り向くことなく、背を向けたままひらひらと手を振った。
「ねぇ、お兄さん名前は?」
「祐介だよ。君はたしか、太郎君だっけ?」
わざと媚びた声で、男に聞く。少しくらいは妬いてくれるだろうかと、わずかな期待を込めて。
なのに柳瀬君ももう僕への興味なんて失ってしまったのか、そのまま店を出ていってしまった。
勧められるがままワインを煽ると、枯れ果てたはずの涙がまた溢れてきた。
「俺らも、行こっか? 慰めてあげるからさぁ」
ニヤニヤと笑いながら手を握られ、ぞわりと悪寒が走った。
そのため男の手を避け、そのまま席を立った。
「ごめんなさい。やっぱり、僕……」
「はぁ? ここまで来て、それはないんじゃない? ほら、行くよ」
「嫌だ、離してよ。離して……!」
半ば強引に手を引かれ、腰を抱かれた。
そのため男の手を振り払おうとしたタイミングで、再びバーの扉が開いた。
自身の失言に気付き、あわてて言い繕おうとした。
なのにそれより早く、柳瀬君はゾッとするほど冷たい笑みを浮かべて告げたのだ。
「なんだ、そっか。……田中さんも、こっち側の人間だったんですね」
それから彼は乱暴に僕の後頭部を掴み、引き寄せてキスをした。
突然のことに驚き、最初僕は意味が分からなかった。だけど田中としての僕のことまで、セフレとして利用しようとしているのだとすぐに気付いた。
少しくらいは太郎として、彼と心が通じ合えたのじゃないかと勘違いしていた。
だけど、あんな出会い方をしたのだ。……この男が遊び人だっていうことなんて、最初から嫌っていうくらい分かっていたはずなのに。
僕の体を、心を、この男はどこまで弄べば気が済むと言うのだろう? ……そんなの、冗談じゃない。
無理やり舌をねじ込まれだけれど僕は彼の体を突き飛ばし、拒絶の言葉を口にした。
「本当に最低だな、君は。……今夜のことは、忘れてやる。だけどもう二度とこんな真似、僕にしないでくれ」
そのまま唖然とする柳瀬君を放置したまま車を降りて、ちょうど通りかかったタクシーに向かい手をあげた。
そしてもう振り返ることなくタクシーへと乗り込み、溢れそうになる涙を必死にこらえてただ流ていく夜景を見つめた。
***
その翌日。僕は意地とプライドを総動員して、何事もなかったかのように柳瀬君に対して振る舞った。
そして彼は僕に終始謝りたそうにしているのに気付きながらも、あえてスルーし続けた。
だってそれだけのことを、彼はしたと思うから。
なのにその一方で、彼との関係をこれで終わりにしたくないと考える女々しくて情けない自分にも気付いていた。
そのためその日は土曜日ではなかったけれど、またしても僕は若返りの薬に手を出してしまった。
田中としての関係は、これまでどおり上司と部下として。……だけど太郎として、セフレの関係を続けることを選んだのだ。
きっとこんな道を選んだら、地獄みたいな結末しか待ち受けていないと僕自身、嫌というほど理解していたけれど。
いつものように若者向けの服に身を包み、バーへと向かう。
とはいえ今日は金曜日だから、空振りの可能性も高い。
……むしろ僕以外と遊ぶために、彼がバーにいなければいいのにとすら願った。
だけどその期待は、あっさり裏切られてしまった。
バーの扉を開けるとそこには、仲睦まじく抱き合うふたりの男性の姿。
ひとりは以前僕のことを睨み付けた、あのアイドルみたいにキレイな顔をした男の子。
そしてもうひとりは、柳瀬君だった。
なんだ、そうか。……やっぱり太郎も、彼に遊ばれていただけだったんじゃないか。
絶望に打ちひしがれる僕に向かい、勝ち誇ったような笑みを浮かべて男が声をかけた。
「あれ? 君、来たんだ。でも、残念だったね。これから俺たち、ホテルに行くところだから」
このままUターンをして、逃げ出そうかとも思った。
だけどなけなしのプライドをかき集め、無理やりほほ笑んで告げた。
「……そうなんだ。楽しんできてね」
「……太郎は、それでいいわけ?」
咎めるように柳瀬君に聞かれたけれど、僕に彼らを止める権利なんてない。
だって僕と彼の関係は、ただのセフレに過ぎないのだから。
「別に、問題ないと思うけど。でも、そうだなぁ。……僕も今夜は誰か、遊んでくれる人を探さないとだね」
口をついて出たのは、泣きたくなるくらい最低な言葉だった。
するとその会話を聞いていたらしい別の男が、僕の肩に手を置いた。
「なになに、喧嘩? 俺ずっと君のこと、いいなって思ってたんだよね。だから今夜、どう?」
何度か見かけたことがある男だったから、きっとこの店の常連客なのだろう。
当てつけみたいに笑みを返すと、柳瀬君は眉間に深いしわを寄せた。
だけど、君にそんな顔をする権利はないよ。……そっちはそっちで、楽しめばいい。
「もう行こう、聖君。……ね?」
「うん、そうだな。じゃあ、太郎。……またな」
ただのセフレだと思っているからこそ、こんな状況であっても『またな』などという言葉を口にすることが出来るのだろう。
それが痛いくらいよく分かっていたから、思わずクスクスと笑い出してしまった。……もうこんなの、笑うしかなかった。
「うん、またね聖」
もう彼の方を振り向くことなく、背を向けたままひらひらと手を振った。
「ねぇ、お兄さん名前は?」
「祐介だよ。君はたしか、太郎君だっけ?」
わざと媚びた声で、男に聞く。少しくらいは妬いてくれるだろうかと、わずかな期待を込めて。
なのに柳瀬君ももう僕への興味なんて失ってしまったのか、そのまま店を出ていってしまった。
勧められるがままワインを煽ると、枯れ果てたはずの涙がまた溢れてきた。
「俺らも、行こっか? 慰めてあげるからさぁ」
ニヤニヤと笑いながら手を握られ、ぞわりと悪寒が走った。
そのため男の手を避け、そのまま席を立った。
「ごめんなさい。やっぱり、僕……」
「はぁ? ここまで来て、それはないんじゃない? ほら、行くよ」
「嫌だ、離してよ。離して……!」
半ば強引に手を引かれ、腰を抱かれた。
そのため男の手を振り払おうとしたタイミングで、再びバーの扉が開いた。
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