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menu.7 愛のふくらみパンケーキ(7)
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日没後、奏太のマンションに戻ってきた二人は、合鍵を持っているためいつでも出入りが自由な嘉一と裕吾に迎えられた。
「お帰りなさ~い。夕飯作っ……」
裕吾の迎える声は、自分よりも頭一つほど高い位置にある修一の姿を見てかき消えた。
「なんだぁ? どした……、って、髪切ったんかあんた!」
嘉一も、仰天したように修一に言う。
横でふてくされたように頬を膨らませている奏太をよそに、修一は清々しそうに笑っていた。
髪を切る前はどこか鬱蒼とした退廃的な色気があったが、今は健康的な色気の中に健全な溌剌さが多分に含まれているように見える。
「本当は鬱陶しくてたまらなかったんだ。元々これぐらいの髪の短さだったのに、伸ばすことを強制させられていたから」
一番長い箇所の毛先は肩甲骨の上部ほどの高さだったのを、バッサリと切ってしまったのだ。眉ほどの長さになった前髪は半分を残して後ろに流し、トップはウルフカットのようになっている。襟足はすっきりと切られていて、うなじが全て露わになっていた。ベリーショートの部類に入るだろう。
【prism-Butterfly】で早速一つ目の〝自分の好きにしたいこと〟として、散髪を望んだのだ。それを受け、紫苑が彼女の行きつけの美容室の空き状況を確認してくれた。たまたま当日予約が取れたので彼女と奏太に付き添われてその美容室に行ったのだ。
最初奏太は短髪にしたいという修一の考えを勿体ながっていたが、紫苑にチョップを食らい泣く泣く諦めることになった。
その光景に修一は楽しそうに笑っていたので、奏太もその場は引いたのが。
「……次は絶! 対!! 俺が髪型選ぶからね!!」
ぎゃんっ! という勢いで吠える奏太を無視し、嘉一は笑いながら拳で軽く修一の肩を小突いた。
「よく似合ってんじゃんあんた。昨日までの鬱々してて鬱陶しいのよりゃ何倍もイイぜ」
「……ありがとう」
嘉一と裕吾は、昨日の鍋会の後、修一がどのような生活を送らされていたのかを、かいつまんで教えられていた。
そして今日、美容室での待ち時間で奏太から解放されたというメールを受信してもいた。だからそう言えたのだ。
ううううう……と嘆く奏太に修一は笑う。
「なんだ? 奏太は髪の長短で俺に対する態度を変えるような奴だったのか?」
面白そうに笑っている彼に、奏太はぬぐぐ……と呻く。
そんな奏太に嘉一は容赦なく「うがい手洗い!」と洗面所の方を指さす。
ため息と共に奏太は洗面台に向かった。その後ろに修一が続く。
「……」
残った二人は同時にため息をついた。
「……ああいう風に笑えるヤツだったんだな、あの人」
「ね」
二人が作っておいてくれた夕飯を平らげ、片付けが終わると二人はルームシェアしている隣の部屋に帰っていった。
交代でシャワーを浴びた後、奏太と修一はリビングのソファーで並んで座る。
テレビのバラエティの音声が流れる中、不意にとすん、と奏太の肩にもたれかかる感覚があった。
修一だった。
「……どしたの?」
珍しく自分から触れてきたことに奏太は感動を覚えながら訊ねる。
修一はゆるりと目つきを和らげながら、ぽつぽつと話し始めた。
「……不思議なものだな。奏太と出会ってから、たった1ヶ月かそこらで俺の人生は再び変わった」
「……うん」
「とても考えられないことだったよ」
「……そっかぁ」
「……奏太は、今でも俺のことが欲しいのか?」
え、と奏太の声が漏れる。修一は姿勢を起こして、じっと奏太を見つめる。
「……俺が側にいたとしても、おそらくお前の配信者としてのブランドを傷つけることにしかならない存在だろう。ヤクザの愛人経験がある元警官の男なぞ、ファンに知られれば反転アンチが大量に発生しかねない案件だ。ただでさえ、お前にはガチ恋勢もいるだろうしな」
「……否定は出来ないなぁ」
そのガチ恋勢がストーカーになったせいで、奏太たち三人はこのマンションに引っ越してきたのだ。
ちなみにそのストーカー事件は、奏太だけでなく嘉一と裕吾それぞれの厄介ガチ恋勢が個別にストーカーになったため、三人まとめて引っ越しすることになったという経緯がある。
「……それでも、お前は俺を選ぶというのか?」
「お帰りなさ~い。夕飯作っ……」
裕吾の迎える声は、自分よりも頭一つほど高い位置にある修一の姿を見てかき消えた。
「なんだぁ? どした……、って、髪切ったんかあんた!」
嘉一も、仰天したように修一に言う。
横でふてくされたように頬を膨らませている奏太をよそに、修一は清々しそうに笑っていた。
髪を切る前はどこか鬱蒼とした退廃的な色気があったが、今は健康的な色気の中に健全な溌剌さが多分に含まれているように見える。
「本当は鬱陶しくてたまらなかったんだ。元々これぐらいの髪の短さだったのに、伸ばすことを強制させられていたから」
一番長い箇所の毛先は肩甲骨の上部ほどの高さだったのを、バッサリと切ってしまったのだ。眉ほどの長さになった前髪は半分を残して後ろに流し、トップはウルフカットのようになっている。襟足はすっきりと切られていて、うなじが全て露わになっていた。ベリーショートの部類に入るだろう。
【prism-Butterfly】で早速一つ目の〝自分の好きにしたいこと〟として、散髪を望んだのだ。それを受け、紫苑が彼女の行きつけの美容室の空き状況を確認してくれた。たまたま当日予約が取れたので彼女と奏太に付き添われてその美容室に行ったのだ。
最初奏太は短髪にしたいという修一の考えを勿体ながっていたが、紫苑にチョップを食らい泣く泣く諦めることになった。
その光景に修一は楽しそうに笑っていたので、奏太もその場は引いたのが。
「……次は絶! 対!! 俺が髪型選ぶからね!!」
ぎゃんっ! という勢いで吠える奏太を無視し、嘉一は笑いながら拳で軽く修一の肩を小突いた。
「よく似合ってんじゃんあんた。昨日までの鬱々してて鬱陶しいのよりゃ何倍もイイぜ」
「……ありがとう」
嘉一と裕吾は、昨日の鍋会の後、修一がどのような生活を送らされていたのかを、かいつまんで教えられていた。
そして今日、美容室での待ち時間で奏太から解放されたというメールを受信してもいた。だからそう言えたのだ。
ううううう……と嘆く奏太に修一は笑う。
「なんだ? 奏太は髪の長短で俺に対する態度を変えるような奴だったのか?」
面白そうに笑っている彼に、奏太はぬぐぐ……と呻く。
そんな奏太に嘉一は容赦なく「うがい手洗い!」と洗面所の方を指さす。
ため息と共に奏太は洗面台に向かった。その後ろに修一が続く。
「……」
残った二人は同時にため息をついた。
「……ああいう風に笑えるヤツだったんだな、あの人」
「ね」
二人が作っておいてくれた夕飯を平らげ、片付けが終わると二人はルームシェアしている隣の部屋に帰っていった。
交代でシャワーを浴びた後、奏太と修一はリビングのソファーで並んで座る。
テレビのバラエティの音声が流れる中、不意にとすん、と奏太の肩にもたれかかる感覚があった。
修一だった。
「……どしたの?」
珍しく自分から触れてきたことに奏太は感動を覚えながら訊ねる。
修一はゆるりと目つきを和らげながら、ぽつぽつと話し始めた。
「……不思議なものだな。奏太と出会ってから、たった1ヶ月かそこらで俺の人生は再び変わった」
「……うん」
「とても考えられないことだったよ」
「……そっかぁ」
「……奏太は、今でも俺のことが欲しいのか?」
え、と奏太の声が漏れる。修一は姿勢を起こして、じっと奏太を見つめる。
「……俺が側にいたとしても、おそらくお前の配信者としてのブランドを傷つけることにしかならない存在だろう。ヤクザの愛人経験がある元警官の男なぞ、ファンに知られれば反転アンチが大量に発生しかねない案件だ。ただでさえ、お前にはガチ恋勢もいるだろうしな」
「……否定は出来ないなぁ」
そのガチ恋勢がストーカーになったせいで、奏太たち三人はこのマンションに引っ越してきたのだ。
ちなみにそのストーカー事件は、奏太だけでなく嘉一と裕吾それぞれの厄介ガチ恋勢が個別にストーカーになったため、三人まとめて引っ越しすることになったという経緯がある。
「……それでも、お前は俺を選ぶというのか?」
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