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本編5章
キリヤが帰ってきた!
しおりを挟むキリヤが戻らず1週間がすぎた。
結界は維持されてるから生きている…とは思うけど、ここまで帰ってこないとなにがあったんじゃと不安になってくる。
生きてる=無事と簡単には思えないからだ。
キリヤが俺を誘拐した犯人だとバレた可能性だってなくはない、そうなったら多分キリヤは俺の居場所を吐くまで拷問を受けることになるかもしれない。
この一週間ですっかり頭の中はキリヤでいっぱいになって、悪い方向へ考えてしまうから不眠症にもなってしまった。
食料もそろそろ底がつきそうだし、どうしたらいいんだろうか。
1人で狩に出かけるにはあまりにも危険な状態、昨日も外の様子を少しだけ伺ってみたけど、なぎ倒された大木、鋭利な刃物かなにかで切られたような魔物の死体、正直ここのところの森の中の異変は気になってしかたない。
ベッドの上で膝を抱えて座って、ため息が自然ともれる。
「はぁ…」
俺の置かれた状況は危険なんだと思う。
キリヤが生きてるかぎり結界は無事とはいえ、食料や飲み物が尽きたら飢え死にするしかない。
キリヤのことも心配だし、自分のことも心配だし、このままじゃまたループするんだろうなとも思う。
「このままループは嫌だな…」
ぽつりと零れた本音、ループはもう慣れてしまったけど、それでも、なんとなく嫌だった。
このままループしてキリヤがどうなったかもわからないままだなんて。
うんうん唸ってるとガタッと物音が聞こえて、はっと顔を上げた。
誰か来た?そんなまさか…、だってここさキリヤの結界で認識阻害されてるはずなのに。
誰かが侵入してくることは無いはずだ。
ドッドッドッと心臓が痛いくらいに暴れだして、息を潜めながら音を立てないように慎重に物音がした方へ様子を見に歩いていくと、傷だらけで玄関で倒れ込んでるキリヤの姿が視界に飛び込んできた。
背筋が凍るような感じがした、キリヤが死んだ?生きてる?どっち?
冷や汗が溢れ出して、急いでそばに駆け寄るとキリヤを仰向けにして心臓の音を確かめる。
とくん、とくん、と音が聞こえてきて「よかった、生きてる」と呟き、じわりと涙が溢れ出した。
しっかりしろ、俺!
傷ついてるキリヤの傷を癒すのが大事だ、泣いてる場合じゃない!
癒し魔法習得しててよかった、ただ、俺の6歳児の魔力だと何回使えるかわからないけど。
キリヤの服を脱がして深く傷ついてるのは胸か、やばいやばい、出血の量がえぐい。
慌てるな、落ち着け、落ち着かないと助けれるものも助けれないだろ!
パシンと頬を叩いて気合を入れて、胸の深く抉られた傷の部分に手を添えて治癒魔法をかける。
「ふぅ…、大丈夫、キリヤは助ける、絶対に」
なんで俺はまだ6歳なんだ、も少し大人だったらと歯痒くて唇を噛み締める。
助けろ、絶対に死なせるな、でも、なんだキリヤがこんな深手を負ってるんだ?
誰にやられた、なににやられた?
泣くな、泣くな、まだ死んでない、震える手、溢れる涙に必死に言い聞かせて自分を鼓舞しながら治癒魔法をかけ続けると徐々に傷が塞がっていく。
致命傷になりかねない傷だけでも癒せれば助かるはずだ、大丈夫、傷は塞がってきてる。
助かる、絶対助ける!
どれくらい治癒魔法をしていたのか、わからないけど、魔力が切れてきたのか、頭がクラクラしてきた。
目の前が明滅してから真っ暗に染って俺は意識を失ってしまった。
揺蕩う意識の中、心地いい温もりを感じて擦り寄ると「はっ…」と息を呑む音が聞こえた。
それでも、俺は重い瞼をあげることなんてできなくて、そのまま擦り寄ってまた意識を手放した。
そうして、どれくらい眠ったのか、ようやく目が覚めれば目の前に胸が見えて、顔を上げるとキリヤが眠っていた。
どうやら俺はキリヤに抱っこされながら寝ていたらしい。
というか、傷は大丈夫なのか?と、はっと飛び起きてキリヤの体の傷を慌てて確認するとすっかり綺麗に消えていて、ほっと胸をなでおろしたところで頭を抱えられキリヤのほうに抱き寄せられた。
「え?」
「ユーリまだ寝ていろ、俺を治すのに魔力枯渇させたんだ」
「うん…、キリヤが無事でよかった…」
「心配かけてすまなかった」
「ほんとだよ、もう…」
とく、とくと聞こえる心音に涙が出てきた。
温もりも心音も匂いもキリヤが生きてる証だ、よかった、本当に。
震える手を背中にまわしてしがみつくとキリヤが優しい手つきで俺の頭を撫でてきた。
「俺は生きてる、無事だ、ユーリのおかげで助かった」
「うん…」
「少し気になることがあって調べていたら、戻るのに時間がかかってしまった、ユーリが無事でよかった」
「気になること?」
「ああ、最近森の中の様子がおかしくてな、追っ手の可能性も考えたが…どうやらそうでもないらしい」
「………追っ手…」
「ユーリはまだ捜索されている、忽然と姿を消したんだ、当然のことだろう?」
「…そっか、俺の事まだ探してるんだ」
「だが、今回の件は違うようだ、魔物が凶暴化していた、その原因はまだ不明、突き止めようと思ったんだがな…」
「無理しないで…ね?キリヤになんかあったら、俺やだよ」
大きな瞳をうるませてキリヤを見れば、キリヤの耳が真っ赤に染まって、なんだか可愛い。
感情のコントロールやっぱり難しいのかな、俺も体に引っ張られてすぐ泣くし。
じーっと見てると照れたのか、目を覆われて「見ないでくれ、恥ずかしい」だって、なんだそれ、可愛いかよ。
こうなってくると俺の悪戯心というか、探究心というか、刺激されて身を乗り出してキリヤの耳元にふっと息を吹きかけた。
「なっ!?!?ユーリ!!やめないか!」
「あははっ、キリヤ真っ赤、可愛い」
ますます赤くなったキリヤに睨まれても可愛いだけでケラケラ笑ってると、手を掴まれて押し倒された。
キリヤごしに見える天井にあれ?って首を傾げて、俺ってもしかして危機的状況?いや、まさかな、俺まだ6歳だし、そんなことあるわけないよな?
不安で瞳が揺れ動いてキリヤを見つめると、キリヤが意地悪く笑って、服の下に手が滑り込んできて───────思いっきり擽られた!
擽られて笑いすぎて息が苦しくて、息も絶え絶えになって涙目でキリヤを見るとなんだかキリヤがまた真っ赤になって狼狽えてるから、あれだ、きっと、ふざけて擽ったらえろくなっちゃったみたいなやつ。
「ぜぇはぁ…はぁ、はぁ…キリヤひどい…」
「す、すまない…」
うん、完全にそれだな、目を合わせてくんないし、虚空を見てるし、でも、俺は俺で一瞬、ほんの一瞬だけ、えろいことされんの?って思った襲われ慣れてる俺をぶん殴りたい気分なわけで。
なんか気まずい雰囲気が流れて誤魔化すように俺はキリヤに抱きついて、また眠ることにした。
「キリヤおやすみ!」
「あ、あぁ、おやすみ」
キリヤもそう返してくれて、俺はゆっくりと瞼を閉じて眠りについた。
謎の痕跡の正体は、キリヤの話によると魔物の凶暴化が原因だったらしいけど、問題はそれだけじゃなかった。
キリヤが戻ってきてからしばらく月日は流れて、俺は7歳になった頃だ。
森の魔物はどんどん凶暴化してついに食料のための魔物狩りも俺一人では手に負えなくなった。
それだけならまだキリヤがいるし問題がないのだが、それだけじゃなかった。
あきらかに結界のそばまで人が来たのがわかる痕跡が残されていたこと、結界がどこにあるのか調べてるような?そんな痕跡が最近は増えたんだ。
それについてキリヤと話して住む場所を移すべきかと考えている、下手に動いて謎の相手と遭遇しても困るしというのはあった。
キリヤはまだこの国が誇る最強の騎士様になったわけではない、キリヤだってまだまだ子供だから。
となると、下手に動くのも危険だし、俺が外に出るのはもっと危険だ。
俺を探しての事だったら結界の中にさえいれば俺は認識阻害で俺の存在そのものが消えてる状態にある。
そうなると、俺はますます外に出ることができなくなっていった。
外に出れば追跡者(仮)に俺を認識させてしまうことになるし、俺が結界の中にいる間は俺の事を忘れてくれる、これのおかげで俺は自分の捜索から1年どうにか逃げ続けてるんだ。
俺はキリヤに連れてこられた日から覚悟を決めている、どこまでも逃げて逃げて逃げると。
キリヤの前で惨い死に方はしないと、そう決めたんだから外に出られない不便くらいどうってことない。
キリヤはそんな俺を心配して騎士団長に修行の旅に出ると嘘をついたらしい。
家に王都に一切帰らないようにするために、俺とずっと一緒にいるために。
結界周辺の様子がおかしい以上、俺のそばを離れるのは得策じゃないと言っていたけど、俺のせいでキリヤの自由まで奪われるのは申し訳ない気持ちになる。
それをキリヤに伝えたら、笑いながら「俺のわがままで、ここまで連れてきたんだ、気にするな、ユーリさもっと俺にわがまま言ってくれてもいいんだぞ?」だって、俺の推しは今日も尊かった。
思い出すだけで、ふわりと笑った顔とか、本当に可愛くてかっこよくて俺の推しの子供時代と長くいれるの幸せだ、くふくふ笑ってると薪割りから戻ってきたキリヤが俺を背後から抱きしめてきた。
「キリヤおかえり」
「ただいま、ユーリ機嫌がいいな、なにかいいことでもあったのか?」
「ううん、キリヤはいつでもかっこいいなって思い出して笑ってただけだよ」
そう笑いかければ、キリヤがぐぅと低く唸って「ユーリ、その笑顔は反則だ、やめてくれ、俺の理性がもたなくなる」とか言われたら、さすがにまだ子供!と思わず叫んでたよね。
それを聞いたキリヤがクスクス笑いだして、耳元で意地悪く囁いてきた。
「子供じゃなくなったらいいのか?」
「うっ、うるさい!キリヤのばか!」
俺は恥ずかしすぎてキリヤの追求から逃れるように、するりと腕から抜け出して、振り向いて舌を出してアッカンベーってやるとキリヤが「ユーリ可愛いな」
って微笑ましそうに言うもんだから、ムスッと俺は不貞腐れることしかできなかった。
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