なんか短編集的な

鳩の唐揚げ

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痛覚

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「いっ…たぁぁ…。」

絶対みんな感じたことのある痛みが、僕の足の小指を襲った。

凄く痛い。

でも、僕がぶつけたわけじゃない。
名前も知らない誰かが、箪笥に小指をぶつけたらしい。


僕は最近、不思議な痛みに悩まされている。
その痛みは急にくる。
何もしていないのに、急に包丁で指を切ったかのような痛みに襲われたり、さっきのように足の小指が急に痛くなったり。
時には一週間、得体の知れない腹痛に襲われたこともある。

「もう、勘弁してくれぇ!」

僕は足の小指を抑えながらそう叫んだ。
この痛みはなんだろう。
まるで、誰かと痛覚が繋がったかのような痛み。
凄く不思議な痛み。

最初はこの痛みがなんなのか疑問に思ったが、日が経つにつれて、気にしなくなっていった。

今日は、急に足首が痛くなった。
どうやら、足を挫いたらしい。
かと思いきや、今度は頭が痛くなった。

「…あぁ、こいつ転んだな。」

しかも何もないところで。
だんだんと、相手がどんな行動をしてその痛みを感じているのかわかるようになってきた。
小指を箪笥にぶつけたり、何もないところで転んだり、この人はいわゆるドジっ子というやつなのだろう。
側から見たら可愛らしく見えるのかもしれないが、こちらとしたらやめて頂きたい。
もうちょっと気をつけて生活してほしいものだ。

そして、僕はこの痛みの持ち主が女性だということに気づく。
また、得体の知れない腹痛に襲われた。
きっと、そういうことなのだろう。


不思議な痛みに悩まされるようになってから、数ヶ月後、少し違う痛みを感じた。
胸が締め付けられるような、痛い…いや、苦しい感覚。悲しい感覚。

僕はこの痛みに覚えがあった。
それは高校生の時、片思いだった先輩が卒業していった時に感じた痛みだ。
その時僕は、結局最後まで想いを告げる事が出来なかった。

彼女のその痛みは日に日に強くなっていった。

もう、耐えられなくなっていた。
気づくと僕は、家から飛び出していた。

この痛みは、今彼女が受けている痛み。
これは、心の痛みだ。


最初は急に襲ってくる痛みに、苛立ちしか感じていなかった。
でも、その痛みを感じているうちに、この痛みの持ち主の事が気になるようになっていった。
この覚えのある心の痛みを感じた時、彼女に親近感が湧いたのだ。

そして彼女は僕の中でとても近い存在になった。
だから、この心の痛みが日に日に強くなっていくのを、ただ感じているだけではいられなかった。

僕は、ただひたすらに走った。
街灯が照らす夜の町を走り続けた。
心の痛みが強くなる方向へ。

だんだんと、心の痛みが強くなっていく中、僕は違う痛みに襲われた。
鈍い痛みが、僕の足首に伝わった。

痛い。それでも僕は、走り続けるのをやめなかった。


自然と僕の瞳には涙が溜まっていた。


僕の涙腺が限界を迎えた時、目の前には目を真っ赤にした女性が座り込んでいた。
その女性が履いている靴は、片方のヒールが折れていて、足首が真っ赤に腫れていた。

「やっと、見つけた。」

僕は、無意識にそう呟いていた。
彼女は涙を浮かべたその顔を僕に向けた途端、少し安心したような表情をした。

僕が彼女の痛みを感じていた様に、彼女も僕の痛みを感じていたらしい。

「そっか、君だったんだね。」

そう言ったその女性は、見覚えのある人だった。

何故痛覚が繋がったのか、わかった様な気がした。

今、なのかも知れない。
今言わなければ、またこの気持ちを言えずに終わってしまう。

僕は、勇気を振り絞って。自分の気持ちを告げた。

「高校生の頃から、貴方が好きでした。」

彼女の痛みで流した涙でぐちゃぐちゃになった顔でそういった僕に、彼女は笑みを浮かべながらこう言った。

「それ、今言う?…まぁ、でも、気づいてたよ。ずっと待ってたんだから。」

そして僕たちは、2人で痛みを背負いながら、夜の町を歩いていった。

心の痛みは、だんだんと消えていった。
代わりに暖かな温もりが、僕の心を暖めていった。


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