アポロの護り人 ―異世界夢追成長記―

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第一章 カラハダル大森林 異世界転移 編

29.『一焼』に付す-Ⅲ

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 魔物たちがピカレスの香りを忌避して少し離れているのを確認して、展開していたポルテジオを一度全て消し去る。
 ずっと防御の処理をしていた脳を一度クールダウンさせるという意味合いもあるが、他にも狙いはあった。

 後ろの三人がポルテジオが消えたことに対して若干動揺していたので、一声かけておく。

「大丈夫。わざと消しただけだから」

 それを聞いて幾分か和らいだようではあるが、やはり不安なものは不安なようだ。

(やっぱりまだ、おじいちゃんみたいにはいかないな……)

 あの背中はまだまだ遠いようだ。
 そんな事を考えているとピカレスの香りが弱まったようで、右斜め前方と左斜め後方にいる大土竜が突撃体勢をとり、上空に散開していた蜜蜂型の魔物のうちの二体が発射体勢に入ったのを感覚が告げる。
 小癪にもバツ印のように十字砲火クロスファイアを組んでいる。
 ポルテジオが全て消失したのを好機ととったのだろう。

(まあこれが狙いで消してたんだけどね。というか完全に狙いを僕に絞ってるな……)

 目的の達成の第一歩として、まずは攻撃してきてもらう必要があった。
 何故か四体しか攻撃を仕掛けてきていないが、寧ろ好都合だ。
 迫りくる攻撃に対して、目的のために取捨選択をする。
 まず第一の目的は魔物自身に呪いが効くのかの確認だ。

(そのためには――)

 二体の大土竜と前方上空から飛んでくる針は感覚頼りのポルテジオで防ぐ。
 この感覚頼りのポルテジオはまだ今の自分では攻撃に対して垂直にしか展開できない。
 つまり、敵の攻撃を完全に止めることしか出来ないのだ。

 だが、自分の意思で操作できるポルテジオを使えば――

(――こういうことだって出来るんだ!)

 右斜め後方から飛んでくる針に対して右手を向けて、斜めにポルテジオを展開して"跳弾"させる。
 左手の指や掌を動かして針の進行方向にもう一つ展開したポルテジオの角度を調整してさらに跳弾させる。
 ポルテジオは"垂直方向以外の力をほとんど受け流す"。
 これをうまく利用すれば跳弾させたものの力をほぼ殺すことなく進行方向を変えることができる。
 腕や指は別に動かさなくても良いのだが、動かしたほうが操作のイメージがしやすい。
 歌手などが歌う時に手を使うのと同じ理論だ。
 たぶん。

 果たして跳弾した針は見事に――

「グォォォッ!」

 右斜め前方にいる大土竜の腹に突き刺さったのである。
 大土竜は針が跳弾して自身のところに飛んでくるなんて思ってもいなかったようで、全く避ける動作すらしなかった。
 何故か腹部の外殻が無くなっていたため、針の進行を阻むものは無く、そのまま腹の奥まで行ったようである。
 しかし、腹部から血が出てこない事から見るに、やはり魔物は生物では無いのかもしれない。
 また、一向に呪印が出てくる様子もない。

「やっぱり効かないか……。これで動きを止められれば世話無いんだけどなぁ……」

 すると、また別々の方向から残りの大土竜と蜜蜂型の魔物が前後左右からの十字砲火クロスファイアを組んできた。
 どうやらタイミングをずらせば攻撃が通るとでも思っているようだ。

「――上等だ」

 その程度の小細工で突破させるほど甘い意志ちからではないということを教えてやろうじゃないか。

 正面から来る蜜蜂型の針をポルテジオで受け止め、左右から突進してくる大土竜たちも同様に――

(いや、もう"誘導"をはじめた方が良いか)

 左右から突進してくる大土竜達の前にポルテジオを雀蜂型の魔物側に滑っていくように斜めに配置して、それに三つずつポルテジオを繋げるように追従させることで横長の壁を作る。
 突進の勢いそのままにポルテジオに衝突した大土竜たちは、そのまま力を壁に沿って流されて前方へと向かい、勢い余って雀蜂型の前で転がる。

「後ろっ!」

 後方にいた蜜蜂型が放った針が迫っていることに対する警告が聞こえるが、もちろんそれも計算尽くだ。
 まだ自分の手元には操作可能なポルテジオが一つ残っている。

 後頭部の寸前まで飛んできていた針が斜め上方向に跳弾するようにポルテジオを展開する。
 狙い通りに跳弾した針の向かう先は正面上空にいる蜜蜂型の魔物の右羽。
 しかし読まれていたようで、蜜蜂型の魔物はそれを回避しようとした。
 予想以上に対応されるのが早かったが、一度見せた手札だ。
 読まれていてもしかたがないだろう。

(でもこっちだって読まれることくらい織込み済みだ!)

「キューーーー!」

 キュウが白桃色の炎の玉――いや、弾を撃ち出す。
 弾は豪速で前進し、回避を試みている蜜蜂型の魔物の左羽の根本を撃ち抜き、羽を焼き切る。
 飛行能力を失い地面に落ちる最中、続けざまにキュウが放ち続ける炎の弾が蜜蜂型の体に何度も命中するが、外殻を削りはしたものの突破するには至らない。

「結構硬いんだな。最上級魔法とやらが必要な理由はこれか……。誘導が終わりきるまで足止めしといてくれキュウ」

「キュウッ!」

 返事をするなりキュウは肩から飛び出して宙に浮き、自身の周りを囲むように複数の炎の弾を生み出す。
 炎の弾はキュウの周りを速度を増しながら回転し、一つの輪となった。
 輪からは炎の弾が機関銃の如く連射され、体勢を整えかけていた大土竜たちに襲いかかる。
 外殻を貫通することはないが、精霊の魔法を嫌った二体の大土竜たちは長い爪を盾にすることで弾を防ぎ、その場に張り付けになる。

 これで動き回る八体のうち四体は雀蜂型の方に誘導できた。
 後は――

(後方の四体だ)

 思考を休ませる間もなく左斜め後方に居た大土竜がまたしても突進をしかけてきているのを感覚が告げる。
 前方の魔物はキュウに任せて、後方の魔物の対処に移る。
 
 まずは突進してきている大土竜の足元にポルテジオでジャンプ台を用意してやる。
 狙いに違わずジャンプ台へと足を踏み入れた大土竜はそのまま上を滑って、なんとも情けない体勢で自分たちの頭上を飛んでいく。

(どうだ……抗えまい)

 狙い通り上手くいったことに思わずニヤついてしまう。
 あの状況に陥った時の心境を自分は"身をもって"よく知っているからだ。
 キュウの足止めしている大土竜たちの上も飛び越えて、その奥で魔力探知の魔力を捕食していた雀蜂型の魔物に激突した。

(あと三体!)

 先に攻撃を仕掛けてきた蜜蜂型二体が針の装填を終えたようだが、飛び回るだけで撃ってくる気配がない。
 三体目の装填が終わるのを待っているのかもしれない。
 そんな推測をしていると、キュウの足止めしている大土竜たちの後ろに隠れている、腹部の外殻の無い大土竜が動き出すのを魔力探知が捉える。

「時間無いんだから大人しくしててくれ!」

 動こうとした大土竜の足元の地面にポルテジオを展開し、片足だけ落ちるようにポルテジオ経由の魔法で落とし穴を作る。
 唐突に地面が無くなったことで大土竜はバランスを崩し、その場に倒れた。

 魔物には魔法が効かないわけではない。
 確かに大土竜の爪などのような特殊部位以外に当てればそれ相応のダメージは通るが、ダメージを与える以外にも魔法には使い道がある。
 魔法によって生み出された物は捕食されたり、分解されたりはするが、魔法によって起こった"自然現象"まではどうにもされないのだ。
 魔物を倒せるほどの自然現象などなかなか起こせるものではないが、足止めくらいならば簡単に出来る。
 この程度の穴では足止めできても十数秒であろうが、今はそれで十分だ。

 ポルテジオを一度消し、後方上空からこちらに狙いを定めている三体の蜜蜂型の背後にそれぞれ一つずつポルテジオを展開させる。
 それに気が付かずに針を放った瞬間に、羽の付け根にだけ当たるように斜め上から圧縮した突風を当てると、外殻に阻まれて体を貫くことはないが、蜜蜂型たちの体を見事に雀蜂型の前に叩きつけることができた。
 飛んできた針を全て防ぎきったところで正面に向き直る。

(これで再装填までは敵側の飛び道具の心配はしなくてもいい)

 下準備は整った。
 あとは安全確認をすれば完全に準備が整う。

「キュウ! 次の段階に移るぞ!」

「キュキュウッ!」

 合図を聞いて、キュウが今まで二体の大土竜に集中して撃っていた炎の弾をやたらめったらに前方へと乱射し始める。
 弾幕が薄くなった分時間が経てば突破されるだろうが、今は少しの時間で十分だ。
 キュウが時間を稼いでくれている間に、前方に人などが居ないかを確認するために魔力探知の範囲をさらに広げる。

「――大丈夫だ。今ならいける」

 前方に生物の気配は無い。
 脅かして違う場所に追い出す手間が省けた。

「来い! キュウ!」

「キュウッ!」

 名前を呼ばれたキュウは、これから行う行為にある程度の時間が必要であることを知っているため、絶えず弾を打ち出している炎の輪に多めの魔力を供給し、今暫く弾を吐き出し続けるようにしてからこちらに飛んでくる。

 キュウが肩に乗ったのを確認して、一呼吸置いた後、"祝詞のりと"を口にする。

「――『太陽の精霊化ドゥフ・アポロヌス|』」

 瞬間、景色がアポロ色に染まった。

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