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第一章 カラハダル大森林 異世界転移 編
30.『一焼』に付す-Ⅳ
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無属性初級魔法『ライト』の光が辺りを煌々と照らす中、ある一点のみ性質の違う光があった。
光の中心に佇む武は、自身の腕や足を見て成功したことを悟る。
武の体はアポロ色に燃え盛る衣に包まれ、その体組織の全ても確かな実体を持ったアポロ色の精霊の魔力へと置き換わっている。
その姿は傍から見ればまるで太陽の化身のようであっただろう。
「よかった。成功したみたいだ」
まだ数度しか経験したことのないその行為が成功したことに、ひとまず安心する武であったが、その後方にいる三人は少し違った反応を示していた。
助けに来てくれた少年がいきなり炎に包まれるというなかなかに衝撃的な絵面を見せられたソフィアたち三人であったが、驚愕はしたものの悲鳴が上がることは無く、広がっていたのはどちらかというと安堵の感情であった。
なぜなら三人は、特にソフィアなぞはその事象が何なのかを知っているからだ。
「あれは……精霊化!?」
「やっぱり、そうだよな」
『精霊化』とは精霊と一体となり、その体を変質させることで精霊の魔力を"そのままの性質"で扱うための技術だ。
ソフィア自身習得を目指している技術であるため、その難易度については隣の二人よりもよく知っている。
少なくとも、生半可な意志や魔力制御の技術で扱える力ではないのだ。
しかしその分魔物に対する効果も絶大であり、精霊化の状態から放たれる"名付き"の魔法は『精霊化魔法』と呼ばれ、普通の魔法とは一線を画す効果を魔物に対してもたらす。
この技術を扱える者たちのことをこの世界では『精霊術師』と呼び、そう呼ばれる者たちは例外なくその武功で名を馳せていた。
そのため、三人の間には安堵が広がっていたのだが――
「でも確か"名付き"の魔法は使えないって言ってたわよね……。精霊化すれば魔法無しでも中型種の魔物くらいなら簡単に倒せるのソフィア?」
その言葉で広がっていた安堵が不安へと変わる。
「そういえば言ってたね……。私も使えるわけじゃないから詳しくはわからないけど、いろんな能力が軒並み強化されるらしいし……」
きっと大丈夫なのだと、そう信じることしかソフィアたちには出来ない。
一方の武はまだ御しきれない体内の感覚に冷や汗を流していた。
体内で暴れ狂う魔力は今の武では長い時間は制御していられないのだ。
持ってあと三十秒といったところだろうか。
「さて、やるか」
武はそう口にするや否や、魔物たちに対して左腕を前にした半身になり、両足を開いて地面へと強く押し付けて固定する。
右肘を後ろに引いて力を溜め、拳に魔力を集中させる。
武が目標である魔物たちを見据えると外殻の厚い大土竜が前に出て炎の弾を率先して受けていた。
(やっぱりこの魔物たちには知性があるんじゃないか?)
そんな考えが武の頭をよぎるが、目の前で起きた変化に思考が逸れる。
キュウの残していた炎の輪が魔力を失って消滅し、雀蜂型が魔法の射撃体勢に入るために羽を動かして浮遊し始めたのだ。
辺りに暴風が吹き荒れるが、どうやらそれが原因で蜜蜂型は地面にしがみついて動けなくなっているようで、大土竜もこの暴風の中では簡単には動けないようだ。
「――好都合だ」
現状武は精霊化の維持に全力を割いているためポルテジオを展開することはできない。
わざわざ攻撃の数を減らしてくれるというならありがたいことなのだ。
魔力の充填を終え、今一度武は魔物たちを見据える。
先ほど一度逸れた思考が戻ってくると同時に、自身の行おうとしている行為に正当性はあるのかという疑問が湧き出てくる。
――知性があるということは"生物"なのではないのか。
――このただ殺すためだけの行為を自分に許してもいいのだろうか。
武は逡巡するがそれも一瞬の後には答えが出た。
(そうだ。狩猟と何も本質は変わらないじゃないか……)
雀蜂型も魔力の凝縮を終えたようで、今にも魔法を放ってこようとしている。
武は静かに心の中で決意した。
――僕が"生きる"ために"殺す"んだ
だからこそ、武はこう呟いたのだ。
「――ごめんね」
脚から腰へ、腰から背中を伝い肩、腕、そして拳へと力を伝播させ前へと突き出す。
先ほど武はアイラに「"名付き"の魔法を使えない」と答えた。
これはありのまま事実ではあるのだが、別に魔物を倒せる魔法が使えないわけではないのだ。
下手に不安を煽ることになるぐらいならその事実を伝えた方が良かったのだが、武は質問に馬鹿正直に答えてしまったのである。
完全に武の失態であったが、当の武は説明をしている暇もなかったので実際に見せることで理解してもらうことにしたのだ。
やることは武の使える他の魔法と何も変わらない。
属性化した魔力を勢いに乗せて解き放つだけだ。
ただ違う点があるとすれば――
魔力が"高純度な精霊の魔力"であることと、使用する魔力の量が文字通り"桁違い"であることだろうか。
武の拳からはまさに解き放たれたかのようにアポロ色の炎が放射状に飛び出し、前方を焼き尽くしていく。
武たちの視界はアポロ色の炎に埋め尽くされ、まるで炎の壁か形成されたかのように見えただろう。
雀蜂型の放った漆黒の魔法は一瞬の抵抗を見せたものの"焼き尽くされ"消滅し、魔物たちに関しては呑み込まれた瞬間灰も残さず燃え尽きた。
炎はその勢いを止めることなく前方を放射状に焼き尽くし、しばらくすると跡形もなく消え去る。
武の放ったその炎は実に千メートル程を駆け抜け、後には赤熱して融解した地面だけが残っていた。
あまりの光景にアイラとサキトは言葉を失っていたが、ソフィアだけはその目を輝かせて言葉を紡いだ。
「これが……精霊化の力……!」
こうして武のリベンジマッチはほとんどその場を動くことなく、まさに完全勝利という形で決着がついたのであった。
――森と武の頬に一筋の跡を残して。
光の中心に佇む武は、自身の腕や足を見て成功したことを悟る。
武の体はアポロ色に燃え盛る衣に包まれ、その体組織の全ても確かな実体を持ったアポロ色の精霊の魔力へと置き換わっている。
その姿は傍から見ればまるで太陽の化身のようであっただろう。
「よかった。成功したみたいだ」
まだ数度しか経験したことのないその行為が成功したことに、ひとまず安心する武であったが、その後方にいる三人は少し違った反応を示していた。
助けに来てくれた少年がいきなり炎に包まれるというなかなかに衝撃的な絵面を見せられたソフィアたち三人であったが、驚愕はしたものの悲鳴が上がることは無く、広がっていたのはどちらかというと安堵の感情であった。
なぜなら三人は、特にソフィアなぞはその事象が何なのかを知っているからだ。
「あれは……精霊化!?」
「やっぱり、そうだよな」
『精霊化』とは精霊と一体となり、その体を変質させることで精霊の魔力を"そのままの性質"で扱うための技術だ。
ソフィア自身習得を目指している技術であるため、その難易度については隣の二人よりもよく知っている。
少なくとも、生半可な意志や魔力制御の技術で扱える力ではないのだ。
しかしその分魔物に対する効果も絶大であり、精霊化の状態から放たれる"名付き"の魔法は『精霊化魔法』と呼ばれ、普通の魔法とは一線を画す効果を魔物に対してもたらす。
この技術を扱える者たちのことをこの世界では『精霊術師』と呼び、そう呼ばれる者たちは例外なくその武功で名を馳せていた。
そのため、三人の間には安堵が広がっていたのだが――
「でも確か"名付き"の魔法は使えないって言ってたわよね……。精霊化すれば魔法無しでも中型種の魔物くらいなら簡単に倒せるのソフィア?」
その言葉で広がっていた安堵が不安へと変わる。
「そういえば言ってたね……。私も使えるわけじゃないから詳しくはわからないけど、いろんな能力が軒並み強化されるらしいし……」
きっと大丈夫なのだと、そう信じることしかソフィアたちには出来ない。
一方の武はまだ御しきれない体内の感覚に冷や汗を流していた。
体内で暴れ狂う魔力は今の武では長い時間は制御していられないのだ。
持ってあと三十秒といったところだろうか。
「さて、やるか」
武はそう口にするや否や、魔物たちに対して左腕を前にした半身になり、両足を開いて地面へと強く押し付けて固定する。
右肘を後ろに引いて力を溜め、拳に魔力を集中させる。
武が目標である魔物たちを見据えると外殻の厚い大土竜が前に出て炎の弾を率先して受けていた。
(やっぱりこの魔物たちには知性があるんじゃないか?)
そんな考えが武の頭をよぎるが、目の前で起きた変化に思考が逸れる。
キュウの残していた炎の輪が魔力を失って消滅し、雀蜂型が魔法の射撃体勢に入るために羽を動かして浮遊し始めたのだ。
辺りに暴風が吹き荒れるが、どうやらそれが原因で蜜蜂型は地面にしがみついて動けなくなっているようで、大土竜もこの暴風の中では簡単には動けないようだ。
「――好都合だ」
現状武は精霊化の維持に全力を割いているためポルテジオを展開することはできない。
わざわざ攻撃の数を減らしてくれるというならありがたいことなのだ。
魔力の充填を終え、今一度武は魔物たちを見据える。
先ほど一度逸れた思考が戻ってくると同時に、自身の行おうとしている行為に正当性はあるのかという疑問が湧き出てくる。
――知性があるということは"生物"なのではないのか。
――このただ殺すためだけの行為を自分に許してもいいのだろうか。
武は逡巡するがそれも一瞬の後には答えが出た。
(そうだ。狩猟と何も本質は変わらないじゃないか……)
雀蜂型も魔力の凝縮を終えたようで、今にも魔法を放ってこようとしている。
武は静かに心の中で決意した。
――僕が"生きる"ために"殺す"んだ
だからこそ、武はこう呟いたのだ。
「――ごめんね」
脚から腰へ、腰から背中を伝い肩、腕、そして拳へと力を伝播させ前へと突き出す。
先ほど武はアイラに「"名付き"の魔法を使えない」と答えた。
これはありのまま事実ではあるのだが、別に魔物を倒せる魔法が使えないわけではないのだ。
下手に不安を煽ることになるぐらいならその事実を伝えた方が良かったのだが、武は質問に馬鹿正直に答えてしまったのである。
完全に武の失態であったが、当の武は説明をしている暇もなかったので実際に見せることで理解してもらうことにしたのだ。
やることは武の使える他の魔法と何も変わらない。
属性化した魔力を勢いに乗せて解き放つだけだ。
ただ違う点があるとすれば――
魔力が"高純度な精霊の魔力"であることと、使用する魔力の量が文字通り"桁違い"であることだろうか。
武の拳からはまさに解き放たれたかのようにアポロ色の炎が放射状に飛び出し、前方を焼き尽くしていく。
武たちの視界はアポロ色の炎に埋め尽くされ、まるで炎の壁か形成されたかのように見えただろう。
雀蜂型の放った漆黒の魔法は一瞬の抵抗を見せたものの"焼き尽くされ"消滅し、魔物たちに関しては呑み込まれた瞬間灰も残さず燃え尽きた。
炎はその勢いを止めることなく前方を放射状に焼き尽くし、しばらくすると跡形もなく消え去る。
武の放ったその炎は実に千メートル程を駆け抜け、後には赤熱して融解した地面だけが残っていた。
あまりの光景にアイラとサキトは言葉を失っていたが、ソフィアだけはその目を輝かせて言葉を紡いだ。
「これが……精霊化の力……!」
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――森と武の頬に一筋の跡を残して。
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