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第一章 カラハダル大森林 異世界転移 編
38.急転-Ⅲ
しおりを挟む「へぇ、じゃあ半年より前の記憶がほとんど残ってないっていう事なのね」
「うん。だからこの家の周辺の事以外ほとんど知らなくって、だから聞く話全てが新鮮で面白いんだ」
「普通に日常の事を話してるだけなんだけどな」
晩御飯も終え、今はアイラとサキトの二人と他愛のない話を楽しんでいる。
おじいちゃんは何やらソフィアに話があるそうで二人で別室に行っている。
時間がかかっているのは先程の手紙の件に加え、確かソフィアの曾祖父とおじいちゃんが友人だとか言っていたので、その辺りの話もしているのではないだろうか。
暇を持て余したので、アイラとサキトの二人に自分がこの森に来てからの事を話していた。
嘘をつくのは忍びないが、もういっその事こういう設定にしておいた方が話が楽だろうという事で、半年より前の記憶がほとんど無いということにしたのだ。
この世界についての記憶という考え方をすればあながち嘘でもないし、聞く話全てが新鮮というのは本当の事なので、許してもらいたいところだ。
「銀将様との関係も、精霊化なんてことが出来るのに"名付き"の魔法が使えないなんて不自然な状態なのもなんとなく納得がいったわ……」
どうやら良いように解釈してくれたようだ。
「あはは……。それにしてもおじいちゃんとソフィアは結構時間かかってるね」
若干の後ろめたさを誤魔化すために無理やり話を変えてみると、タイミングよく二人が戻ってきた。
「おお、おかえり二人とも。話はもう終わったの?」
「うむ、終わったぞい。そんでもって今からはタケル、おぬしに話があるのじゃ」
話し方はいつもの通りだが、いつになく真剣なその顔につい身構えてしまう。
「別の部屋に移る?」
「いや、サキトのボウズとアイラの嬢ちゃんにも関係のある話じゃからここで大丈夫じゃ」
唐突におじいちゃんの口から名前の出た二人は完全に油断していたようで、慌てて居住まいを正す。
一拍呼吸を置いた後、おじいちゃんは口を開いた。
「のぅタケル、確か前におぬしは"誰かを護れるような生き方をしたい"と言うておったの?」
「うん」
以前特訓の休憩中に何か将来やりたいことはあるのかと質問をされた時に、そんな漠然とした答えを返したのであった。
「今もその気持ちに変わりはないかのぅ?」
「――うん、ないよ。そのために半年間頑張ってきたし……。まあまだまだ力不足だけどね」
この目標の実現がとても難しくて大変なことなのだと、自分は身をもって知っている。
依然として力不足ではあるが、この意志を失ってしまったら、自分には何も残らないのだ。
「まず簡潔に言うぞタケル。――軍人になる気はあるか?」
「……軍人?」
「そうじゃ。それが一番タケルの夢に沿うた職業じゃとわしは思うておるし、何よりわしはタケルにその"夢"を叶えて欲しい。前にも言うたことがあると思うが、タケルの力はきっと多くの人を救うことができるのじゃ」
「でも、軍人ってそんななろうと思ってなれるようなものなの?」
いきなり軍人にならないかと言われても、正直判断材料が少なすぎる。
別におじいちゃんを疑っているわけではない。
きっとおじいちゃんの言う通り、軍人というのが自分の目標に一番あった職業なのだろう。
だが、だからと言っておいそれと返事を返せるようなことではない。
そんな自分の考えを読んだかのように、おじいちゃんが返答してくる。
「それについても今から説明をするからよく聞いておるんじゃ。まずわしの言う軍人とは国の正規軍の兵士のことじゃ。主な仕事は各街や村落の治安維持や、魔物の討伐じゃ」
この辺りは軍人という言葉の響きからなんとなく想像は出来た。
おじいちゃんは更に言葉を続ける。
「この正規軍というのは、帝都にある軍属大学院と呼ばれる学校――そこのソフィア嬢ちゃんたちが目指しておる学校じゃな。そこを卒業するのが基本的な入り方じゃ。他にも色々方法はあるが、まあわしとしては卒業するのが色々と一番良いと思うのぅ」
――待てよ、この話の流れはまさか……。
「正直わしの昔の伝手を使えば、そのまま軍に所属させることも無理ではないのじゃが、タケルはまだまだ伸びしろがあるし、少々知識不足なところも否めん。じゃから結果的に軍人になるかどうかはともかくとして、軍属大学院に通ってみるのが良いと思うのじゃが、どうじゃ?」
案の定であった。
正直、とても嬉しいし、とてもありがたい話だ。
色々な事を学びたい気持ちもあれば、この世界の様々な場所を見て回りたいという気持ちもある。
だが――
「でも、お金とかかかっちゃうし……」
「大丈夫じゃよ。なまじ昔の功績のおかげで金なら使いきれぬほどあるでの。孫一人の学費を払うくらい訳無いぞい」
――違う、気にしているのはそこじゃないだろ。
「でも、試験とかあるんでしょ? 今からじゃ……」
「それも大丈夫じゃよ。わしの伝手を頼れば、タケル程度の実力があれば十分入れる。きちんと試験を受けて入学しようとしておる者たちの居る前で、こんな裏口入学の話をしてしまってすまんがのぅ。許しておくれの」
「い、いや! タケルはシエラも使えて精霊化もできるッスから、絶対普通に試験受けても合格してるッスよ!」
おじいちゃんの諭すような口調に、サキトの賛同が加わるが、そうではないのだ。
――本当に気にしているのは……。
「でも、でもそれじゃあ……僕が、ここから居なくなったら――」
――おじいちゃんは、また一人に……。
口に出そうとしたその想いは、大きなごつごつとした手が自分の頭を少々乱暴に撫でたことで遮られた。
「――まったくそんなことを気にしおってからに……。本当に優しい子じゃよタケルは……。その優しさをより多くの人にも振り分けてやってはくれんかいのぅ? なぁ、タケル」
違う、これは優しさなどではない。
この期に及んで何を隠す必要があるのだ。
はっきりと言えば良いのだ。
――"おじいちゃんと離れるのが不安なんだ"って……。
しかし、おじいちゃんはそんな本心も見抜いているかのように言葉を続けた。
「これからわしが隣で見ていてやることは難しくなるが、何も心配することなぞ無い。友人も出来たではないか。それにのぅタケル。多くの人を救ってほしいのもわしの本心じゃが、他にもあるんじゃ」
「他にも……?」
「これも前に言うた事があると思うが、ひょっとしたらいつかタケルにとって本当に辛い出来事が起こるかもしれん。人生なにが起こるかわからんからのぅ。そんな時にタケルの生きる糧になる"輝く思い出"を作ってきて欲しいのじゃよ」
「輝く……思い出……」
「この無駄に広い森は、タケルが思い出を作るには些か"狭すぎる"とわしは思うのじゃ。人と会って、話して、世界を見て、感じて、おぬしにとっての輝くものを見つけてこい! タケル!」
おじいちゃんの静かだが力の籠った声が脳を揺らし、全身が粟立つのがわかる。
ここまで言われて、ここまでお膳立てされて、拒否する気にはもうなれなかった。
いつまでも一人で歩き出すことに怖気づいて居てはだめなのだ。
「――わかった。僕、その軍属大学院ってのに行ってみる……いや、行かせてください」
「うむ。では決まりじゃの! 明日ソフィア嬢ちゃんたちと共に出発するのじゃ」
「え!? そんな急なの!?」
「ほほほ。実行は早い方が良いからのぅ」
そう言っていつもより豪快めに笑うおじいちゃんは、気のせいかもしれないが、どこか寂しさを紛らわしているようにも感じた。
こうして、半ば諦めていた学生生活が予期せぬタイミングで舞い戻ってきたのだった。
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