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第二章 軍属大学院 入学 編
47.二日目の門出-Ⅲ
しおりを挟む「で、依頼って何なのサキト?」
クルブ村を出て数分したところで、自分の隣を涼しい顔で走るサキトに質問を投げかける。
かく言う自分も身体強化の効果でこの程度なら全く疲れないのに加え、服の空調機能も相まって走っているとは思えない程に快適だ。
ソフィアとアイラも見る限り余裕そうに走っている。
街道の周りは相も変わらず見渡す限りの大草原が広がり、所々には春らしく花なども咲いており、色々な種類の花が雑多に咲き乱れている様は、これはこれで乙なものである。
キュウはいつも通りシャツから頭と前足だけ出してゆったりと景色を眺め、テッチは自分たちと並走し、ロンドは何故かテッチの頭の上に乗っている。
「ああ、そういえばそうだったな。依頼って言うのはまあその名の通り頼まれ事なわけなんだけど……あれ? なんて言えばいいんだ?」
得意気な顔で話し始めていたサキトは最終的には首を傾げ始めた。
「サキト……あんたねぇ……。仕方ないわね。私が説明してあげるわ」
相変わらず首を傾げているサキトに変わって、アイラが説明を買って出てくれた。
「依頼って言っても色々あるんだけど、私たちみたいな軍人を目指す者や軍人たちにとってはもっぱら武力と金銭や物品との交換交渉の事を"依頼"って言うの。魔物の討伐だったり、夜盗とかからの護衛だったりね」
やはりお金稼ぎができるようだ。
バイトに似たようなものなのだろう。
「ふむふむ。今回のはどんなのだったの?」
「今回のはなんか村から少し離れた所で中型種っぽい魔物の姿を見たかもしれないって村人がいたらしくって、それの確認と可能なら討伐もしてほしいって依頼だったのよ」
一拍呼吸を置いてアイラは続ける。
「時間がある時なら全然受けるんだけど、生憎私たちは今結構急いでるし、そもそも討伐に関する依頼は何かあった時に危険すぎるから、私たちみたいな高等学院生が個人で受けない方が良いのよ。依頼の内容も曖昧だし……。あんたが広範囲を索敵出来るとは言え、すぐに見つかるとも限らないから断ったってわけよ。森での事もあるから中型種が一匹でいるとも限らないし……」
アイラの言にソフィアが続く。
「クルブ村みたいな小さな村とかには軍が常駐することは無くって、定期的に軍が巡回に来るんです。でもその軍の方々が巡回に来たのがつい最近だったらしくって、次に来るまで何日かかるかわからないらしいんですよね……。なので、明日には帝都に到着してる予定の私たちが依頼状を軍に渡すってことで片が付いたんです」
「なるほど……。ねえ、ちょっとみんな一回止まって貰ってもいい?」
「ん? どうした?」
不思議そうにしながらも三人は立ち止まり、テッチもそれに合わせて止まったので、魔力探知の範囲を最大まで広げる。
本当に中型種がいるのなら、正直放っておくのは忍びない。
(せめて、僕の探知できる範囲にいるなら……)
自分の探知範囲程度ならば数分あれば辿りつけるはずなので、それほどの遅れにはならないだろう。
広げていくほどに大まかな地形の情報や動く動物たちの様子が大量に脳に流れ込んでくる。
恐らくクルブ村と思われる場所も探知範囲に入った。
プライバシー侵害もさることながら情報量も半端では無いので探知範囲から外したいのは山々なのだが、最大範囲の探知中の今、一部分だけを指定して魔力を拡散しないというのは非常に難しいので今回の侵害は勘弁願いたい。
目を閉じて脂汗を流す自分の様子を見てか、ソフィアたちが心配気な声をかけてくる。
「だ、大丈夫ですかタケルくん?」
「もしかして走るペース早かったか!?」
「いや、さっきまで全然余裕そうだったわよ……?」
何だか申し訳ないが、もうすぐ終わるのでもう少しだけ待ってもらおう。
そうして一分ほどで探知も終わったので、範囲をもとに戻して目を開けて一息つく。
「――っふぅ……。ごめんごめん。ちょっと最大範囲まで探知してたんだ」
「なるほど、それでちょっと苦しそうだったんですね。最大範囲ってどれくらいの範囲ですか?」
「五千五百くらいだよ」
「ごっ!? だっ、大丈夫なんですか!? 具合は悪くないですか!? 眩暈とかしませんか!?」
ソフィアが取り乱した様子で若干過保護ではと思うほどに心配をしてくる。
「お、落ち着いてソフィア! 少し疲れるけど別に大丈夫だから! 普通に会話できてるでしょ? ね?」
「ほ、本当に大丈夫なんですか……?」
(そこまで心配されるほどの事なのか?)
そんな内心の疑問に偶然アイラが答えをくれる。
「五千五百ってあんたそれ……軍の大規模な魔道具でやるレベルよ……。出来る奴なんてそうそう居ないけど、制限の下手な奴がもしもやったら一発で廃人になるわよ……」
「え……そうなの……?」
「まあ俺がやったらそうなる自信はあるな!」
「なんの自信よ……まあ私も絶対にやりたくはないけど……」
(そ、そんな怖い行為だったのか……)
若干肝が冷えたが、特に今までそれほど危険に感じた事が無いのも事実だ。
(まあ危ないと思ったらすぐやめれば大丈夫だよな……たぶん)
「それで? 何かわかったの?」
アイラがそんな質問をしてくる。
そういえばそうであった。
進行方向の斜め前方を指さしながらそれに答える。
「うん。あっちに三千三百メートル行った辺りに魔物が一匹いるんだけど、たぶんこのまま進んで行けばどっちみち発見してたかな」
それを聞いてサキトが嬉しそうに喋り出す。
「おっ! じゅあそいつ討伐しに行こうぜ! 街道付近だから倒しておいた方が良いし! なっ! 良いよな!」
「落ち着きなさいよサキト。別に私だって魔物を野放しにしたいわけじゃないんだから、見つけたなら倒すに決まってるじゃないの……。行くでしょソフィア?」
「はい! 魔物は討伐しておくに越したことはないですからね! 見つけたのは小型種ですかタケルくん?」
「ごめん。千メートルくらいまで近づかないとそこまではわからないんだ……」
「なんで落ち込んでるのよ……。普通千メートルでもわからないからね?」
「それより早く行こうぜ! このままだと本当に体が鈍っちまう!」
そう言ってサキトは待ちきれないとばかりに走り出してしまった。
(実はサキトって戦闘狂か何かなのか?)
そんな疑問もよそにサキトはぐんぐんと離れて行ってしまうので、急いで追いかけ始める。
「ちょっとサキト! どうしたのよあんた! ちょっと待ちなさいって!」
「サキトくん! 一人で行っちゃダメですよ!」
(家を出た時の僕ってこんな感じだったのかもなぁ……)
そんな事を思い出しながら追いかけるのであった。
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