アポロの護り人 ―異世界夢追成長記―

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第二章 軍属大学院 入学 編

48.大雑把に繊細に-Ⅰ

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 走る速度を上げて、サキトの後方に追い付く。
 この速度で今日の目的地まで走れと言われたら流石に無理だとは思うが、感知した魔物の場所までくらいならば大丈夫であろう。
 すぐ後ろを走るソフィアとアイラも最初こそサキトを呼び止めていたが、今は特に何も口にはしない。

(別に怒ってるわけじゃなさそうだし、案外よくある事なのかもな)

 そんなことを考えながら走っていると、サキトが声をかけてきた。

「なあタケル! 魔物はそろそろ捉えたか?」

「ん? うん、あと八百くらいかな。小型種だよ」

 楽し気なサキトは「小型種か……」と呟くと、後ろの二人に確認をとる。

「なあ、俺がやって良いよな?」

「はいはい。やりたきゃやりなさいよ……」

「間違っても呪い傷なんて受けちゃダメですよ!」

「わかってるわかってる!」

 そんな風に三人が会話をしているうちに、身体強化した視力でならば魔物を目視ではっきりと捉えられる距離にまで近づいていた。

「あれは……犬?」

 二百メートル程先にテッチよりもさらに一回り大きい犬のような魔物が見える。
 色は黒く、毛並みは薄汚れており、未だにこちらに気が付く様子も無く一心不乱に魔力探知の魔力に食らいついている。
 涎をまき散らしながら頭を振る様からはやはり理性などは感じられない。

「狼型だな。この辺りで一番多い奴だ。ちょっと歯応えは無さそうだけど、一丁やってくるわ!」

 そう言うや否や、明らかにサキトが身体強化をより強力なものにしたのが感じ取れた。
 魔力探知から感じるサキトの纏う魔力がより一層濃い蒼色になったかと思うと、重い破裂音と共に先ほどまで目の前に居たサキトの姿が消える。
 いや、実際には消えたわけではなく凄まじい速度で移動しただけなのだが、消えたと錯覚してしまう程に速かったのだ。
 サキトが居た地面には亀裂が入っており、加速の際の衝撃の凄まじさが視覚的にもはっきりと感じられる。
 しかし後ろに居た自分には前方でそれほどの衝撃が起きたとは思えないほどに影響が無く、身体的に感じた事と言えばわずかに地面が揺れたという事くらいであろうか。
 自分の生半可な身体強化程度の視力ではサキトの動きを捉えることは出来なかったが、ならば何故サキトが凄まじい速度で移動しただけだという事がわかったのか。
 それは、魔力探知はサキトの動きをしっかりと捉えていたからである。

 一足飛びに狼型の魔物の傍までたどり着いたサキトは、魔物が振り向く間も与えずにまずは地面へと左足、右足の順番で地面に体を固定するかのように足を打ち下ろし、魔物に対して半身の体勢をとった。
 サキトが足を打ち下ろした衝撃で前方の地面は隆起し、未だ振り向くことすらままならなかった狼型の魔物は宙空――サキトの眼前へと打ち上げられる。

(あれ……? この構えは……)

 狼型の魔物が打ち上げられる頃には既にサキトは右肘を後ろに引いて拳を握り固めており、さらに一層と濃い蒼の魔力が彼の右半身を包んでいた。
 そしてサキトはその"一瞬のうちに溜め込んだ力"を、脚から腰へ、腰から背中を伝い肩、腕、そして拳へと伝播させて、その岩のような拳を眼前に浮かび上がってくる狼型の魔物を迎え撃つかのように上から振りかぶり気味に叩きつける。
 無防備な状態でその凄まじい純粋な暴力を一身に受けた狼型の魔物は、一切の抵抗も無く地面へと叩きつけられ、その体を塵へと変え、遅れて発生した暴風に吹き散らされた。
 魔物が叩きつけられた衝撃と吹き荒れる暴風により、周囲数メートルに生えている雑草が根こそぎ吹き飛んでしまったことからも、その一撃の威力が窺い知れる。

(身体強化が得意とは聞いてたけど……凄いなこれは……)

 その身体強化の練度もさることながら、何より凄いのは必要な個所に必要な度合いの強化をする際の安定感だ。
 そもそも身体強化というのは全身に均一の強化をかけるだけならばそれほど難易度は高くは無い。
 しかし腕の筋力と脚の筋力が違うように、真価を発揮しようとする際に必要な強化の度合いも個所によって様々なのだ。
 普通に走るだけであったり、ちょっと重いものを持つためであったりすれば適当な強化でも事足りるが、戦闘ともなるとそうもいかない。
 感覚的な瞬間の判断に合わせて体を動かし、強化の度合いを変えなければ真価を発揮することが出来ないからだ。
 そして、強化が強力になればなるほど、自分がかつておじいちゃんに指摘された"強化のむら"がある個所への負担が大きくなり、本来の効果を発揮できなくなってしまうものなのだ。
 だが、感知した限りサキトの強化は惚れ惚れするほどに安定しており、あの刹那の間に様々な個所の――それこそ各筋肉毎のレベルで強化の度合いを何度も変えていたが、その一切に淀みは無く、その結果生み出された攻撃の威力にも思わず納得してしまう。

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