60 / 163
第二章 軍属大学院 入学 編
51.初旅最後の一悶着-Ⅰ
しおりを挟む時刻は昼前、快晴の下踏み固められた地面を軽く蹴って前へと進む。
自分たちの目指した帝都ヴェルジードという場所はもうすでに視界に捉えており、あと数分もすれば今の少しゆったりとした走りでも辿り着くだろう。
昨日までのようなペースで走ればもっと早く着けるのだが、目的地に明るいうちに辿り着けるのが確定している事と、もう一つの理由から少しばかりペースを落としているのだ。
テッチも背にキュウとロンドを乗せて、自分たちのペースに合わせて走っている。
たぶんテッチ的には散歩程度の感覚だろう。
この距離からでも都市を囲んでいる壁は高く堅牢で相当に巨大であり、ここまで見てきた村や町とは一線を画す規模の都市である事が見て取れた。
もっと遠くに居た時に、壁からわずかに何か城のてっぺんのようなものが小さく見てとれたが、ここまで近づくと中の様子は既に一切見えなくなっている。
大きな都市壁にも圧倒されるが、他にも目を惹かれるものはたくさんある。
例えばこの街道周辺の様子だ。
昨日まで自分たちが走っていた街道は広くとも道幅が十メートルほどであり、付近は見渡す限り雑草が生い茂っていたが、今走っている街道は正確にはわからないが明らかに四倍は道幅があるように見え、付近に草はそれほど生えていない。
門らしき所までこの広さの街道が真っ直ぐと伸びている様は見ていてなかなか気持ちが良いものだ。
辺りには四メートル程の高さの白い棒状の何かがそれぞれ二十メートル程の間隔で大量に遠くまで並べられており、所々にその棒状の何かが折れている部分を除けば非常に壮観である。
それ以外にも昨日までとの明らかな相違点はあるのだが、とりわけ一番感じるのはすれ違う荷馬車などの量の差だ。
これがペースを落としているもう一つの理由である。
昨日は本当に極々たまにすれ違う程度、一昨日に至ってはすれ違いすらしなかったのに対し、今は二、三分に一度何台もの馬車が固まった集団とすれ違っているようなペースだ。
土を踏み固めたような道を走って移動している時点である程度察してはいたが、この世界の流通の主流は荷馬車での運搬のようで、荷車を風魔法などで出来るだけ軽くして馬で引っ張るのだそうだ。
人々の服はほとんどがポロシャツだったりジャージだったりなのに、移動手段は発展していないという、何ともミスマッチな光景に違和感を感じざるを得ない。
「それにしても凄い馬車の数だな……。でも道こんなに広くなくても良いんじゃないのかな?」
いくら多いとはいえ、ここまで広い必要は無いように見える。
しかしこの道は舗装されたというよりはどちらかと言うと人が通るうちに出来たという感じの道で、実際にこれだけの範囲が踏み固められたという事になるが――
「朝方の出発ラッシュの時間帯の交通量が半端じゃないのよ。一部の界隈じゃヴェルジードの事を帝都って呼ぶよりも"貿易都市"って呼ぶ方が主流なくらい商業が盛んなんだから!」
自分の素朴な疑問に答えてくれたのはアイラであった。
つまり朝方になるとこの広い道が荷物をいっぱいに積んだ荷馬車などで埋め尽くされるという事だろうか。
「……ちょっと見てみたいな」
「まあ都市壁の上からなら見てもいいんじゃない? ……間違っても下で見ちゃだめよ。擦り潰されるから」
アイラは顔を青くしながらそう答えた。
(どことなく経験からの助言のような気がするな……)
話から察するに、あの大きな都市壁には上る事が出来るようなので、是非とも行ってみたいものだ。
そんな感想を抱きながら次の質問をする。
「あのいっぱいある白い棒は何なの? 所々折れちゃってるけど……」
「ああ、あれは魔力灯ですよ。暗くなると帝都の周辺をあれで照らすんです。帝都内にも色んな場所にありますよ!」
「折れてるのは魔物に襲われたやつだな。本当は破壊される前に魔物を討伐しなきゃなんだけど、たぶん間に合わなかったんだろうな」
ソフィアとサキトがそれぞれ答えてくれた。
家にあった魔力灯の明かりは、自分の知る蛍光灯や白熱灯などよりも優しい光で、結構気に入っていたので、是非とも全て点灯している所を見てみたいものだ。
(全部点灯している光景も上から見ると綺麗かもしれないな……)
そんな風に気になった事や物を質問しながら走っていると、時間はあっという間に過ぎ去り、自分たちはついに門の手前まで辿り着いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。
もる
ファンタジー
剣を扱う職に就こうと田舎から出て来た14歳の少年ユカタは兵役に志願するも断られ、冒険者になろうとするも、15歳の成人になるまでとお預けを食らってしまう。路頭に迷うユカタは生きる為に知恵を絞る。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる