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第二章 軍属大学院 入学 編
52.初旅最後の一悶着-Ⅱ
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近くで見る都市壁は見上げても上がどこまであるのかよくわからないが、恐らく先日鹿を狩った森にある木よりは高いだろう。
石造りの門は街道の道幅よりは幾分か狭いが、それでも圧倒されるには十分な程に大きく、そしてそんなに大きなものが通る事があるのかと思うほどに高かった。
(三十メートルくらいあるんじゃないかこれ……?)
今は硬く閉ざされており、作りから見るにどうやら左右にスライドして開く仕組みのようだ。
これが開くところも是非見たい。
門自体の右下には馬車などが通れるような、それでも十分に大きくはあるのだが、比較的に小さい門が開いており、今もまた荷物を積んだ馬車が一台出ていくところだ。
左下側はというと、恐らく人が出入りする程度の門があると思われるのだが、何やら人だかりができていてよく見えない。
「あそこから入るんだよね?」
「そうなんですけど……何だか騒がしいですね?」
「何かあったのかしら?」
「ちょっと俺見てこようか?」
三人の様子から見るに、これが常の事ではないようだ。
サキトの言う通り少し様子を見に行こうかと思っていたその時――
――感情が流れ込んできた。
あまりにも一瞬の事で、続いて男の呻くような声が聞こえた時には流れ込まなくなっていたが、そんな刹那の間でも明確に感じ取れるほどの"怒り"と"悲しみ"だった。
「うがっ――」
呻くような声と共に痛々しい音が聞こえ、土に汚れた黒い服を着た小太りの男が、騒ぎの中心辺りから集団の頭上を越えて外側に吹き飛ばされた。
黒い服にはサキトたちの制服に似た刺繍が施されており、彼が何かの組織に所属していることを連想させる。
男は地面に叩きつけられるが、すぐに起き上がると、集団の方に向いて――土下座をして声を震わせながら口を開いた。
「私には、謝る事しかできませぬ! 私が無力なばかりに弟殿を死なせてしまったっ……! 到底許されぬ事だという事は理解している! この身は如何様に罰していただいても構わない! だがどうかっ! どうか軍が部隊を編成するまで待っていただきたい! あなたの様なただの女性が一人向かった所でどうにかなる状況ではないのです! どうかっ!」
男の必死な様子に呆気に取られて眺めていると、集団が二つに割れ、中心から一人の女性が肩を震わせながら歩み出てくる。
濃い目の茶色の髪を腰まで伸ばしたその女性は、花柄の淡い紫のシャツにロングスカートという、あからさまに「一般人です」と主張するような格好であり、状況からして小太りの男を吹き飛ばしたのは彼女だと思われるが、いまいちその光景が想像できない。
「私はあなたの言う事なんて信じないっ……! そもそも無理を言ってでもやっぱり私が付いていくべきだったのよっ! あなたがどう考えようが関係ないわっ! 私は弟を助けに行くっ!」
「なりませぬっ! 敵は本当に強大なのですっ!」
女性は怒りに声を震わせ、男は女性を必死に思いとどまらせようとしている。
何が起こっているのかわからず、相変わらず自分は呆けていたのだが、そんな状況も唐突に隣から発せられた声で打ち破られた。
「ね、姉ちゃっ――義姉さん!?」
「え? お姉さんなの!?」
サキトの声を聞いた女性は驚いたようにこちらを振り向き、サキトの姿を確認すると目に涙を浮かべて――
「キーくん……? キーくんなのね!!!」
そう言うや否やすごい勢いで近づいてきたかと思うとサキトに飛びついて抱きしめた。
「良かったっ……良かったよ無事でっ! キーくんっ! キーくんっ!」
サキトのお姉さんは周りなど見えていないかのように涙を流しながら笑みを浮かべ、恐らくサキトの愛称と思われるものを連呼していた。
「ちょっ……! 義姉さんっ! 落ち着いてっ! 恥ずかしいって!」
サキトは顔を真っ赤にしながら抵抗するが、一向に離してもらえないようだ。
「生きて……いたのか……? それでは私はいったい……。いや、生きていたのだとすれば、私は……何ということをっ……!」
声が聞こえた方を見ると、黒服の小太りの男が幽霊でも見たかのような表情でこちらを見ている。
もしかすると話の流れから察するに彼が――
「ねぇ、もしかしてあの人が……?」
「はい。私たちの引率の兵士のモブロスさんです」
「逃げた方の引率"だった"男ね」
やはりそのようだ。
アイラの言い方に棘があるが、それも当然であろう。
彼が逃げなければどうにかなったのかはともかくとして、彼はソフィアたち三人を見捨てたのだ。
話を聞く限りだと、好きにはなれない類いの人だと思っていたのだが、しかし今の彼の様子から見るに何か自分の認識と少し違うような気がした。
石造りの門は街道の道幅よりは幾分か狭いが、それでも圧倒されるには十分な程に大きく、そしてそんなに大きなものが通る事があるのかと思うほどに高かった。
(三十メートルくらいあるんじゃないかこれ……?)
今は硬く閉ざされており、作りから見るにどうやら左右にスライドして開く仕組みのようだ。
これが開くところも是非見たい。
門自体の右下には馬車などが通れるような、それでも十分に大きくはあるのだが、比較的に小さい門が開いており、今もまた荷物を積んだ馬車が一台出ていくところだ。
左下側はというと、恐らく人が出入りする程度の門があると思われるのだが、何やら人だかりができていてよく見えない。
「あそこから入るんだよね?」
「そうなんですけど……何だか騒がしいですね?」
「何かあったのかしら?」
「ちょっと俺見てこようか?」
三人の様子から見るに、これが常の事ではないようだ。
サキトの言う通り少し様子を見に行こうかと思っていたその時――
――感情が流れ込んできた。
あまりにも一瞬の事で、続いて男の呻くような声が聞こえた時には流れ込まなくなっていたが、そんな刹那の間でも明確に感じ取れるほどの"怒り"と"悲しみ"だった。
「うがっ――」
呻くような声と共に痛々しい音が聞こえ、土に汚れた黒い服を着た小太りの男が、騒ぎの中心辺りから集団の頭上を越えて外側に吹き飛ばされた。
黒い服にはサキトたちの制服に似た刺繍が施されており、彼が何かの組織に所属していることを連想させる。
男は地面に叩きつけられるが、すぐに起き上がると、集団の方に向いて――土下座をして声を震わせながら口を開いた。
「私には、謝る事しかできませぬ! 私が無力なばかりに弟殿を死なせてしまったっ……! 到底許されぬ事だという事は理解している! この身は如何様に罰していただいても構わない! だがどうかっ! どうか軍が部隊を編成するまで待っていただきたい! あなたの様なただの女性が一人向かった所でどうにかなる状況ではないのです! どうかっ!」
男の必死な様子に呆気に取られて眺めていると、集団が二つに割れ、中心から一人の女性が肩を震わせながら歩み出てくる。
濃い目の茶色の髪を腰まで伸ばしたその女性は、花柄の淡い紫のシャツにロングスカートという、あからさまに「一般人です」と主張するような格好であり、状況からして小太りの男を吹き飛ばしたのは彼女だと思われるが、いまいちその光景が想像できない。
「私はあなたの言う事なんて信じないっ……! そもそも無理を言ってでもやっぱり私が付いていくべきだったのよっ! あなたがどう考えようが関係ないわっ! 私は弟を助けに行くっ!」
「なりませぬっ! 敵は本当に強大なのですっ!」
女性は怒りに声を震わせ、男は女性を必死に思いとどまらせようとしている。
何が起こっているのかわからず、相変わらず自分は呆けていたのだが、そんな状況も唐突に隣から発せられた声で打ち破られた。
「ね、姉ちゃっ――義姉さん!?」
「え? お姉さんなの!?」
サキトの声を聞いた女性は驚いたようにこちらを振り向き、サキトの姿を確認すると目に涙を浮かべて――
「キーくん……? キーくんなのね!!!」
そう言うや否やすごい勢いで近づいてきたかと思うとサキトに飛びついて抱きしめた。
「良かったっ……良かったよ無事でっ! キーくんっ! キーくんっ!」
サキトのお姉さんは周りなど見えていないかのように涙を流しながら笑みを浮かべ、恐らくサキトの愛称と思われるものを連呼していた。
「ちょっ……! 義姉さんっ! 落ち着いてっ! 恥ずかしいって!」
サキトは顔を真っ赤にしながら抵抗するが、一向に離してもらえないようだ。
「生きて……いたのか……? それでは私はいったい……。いや、生きていたのだとすれば、私は……何ということをっ……!」
声が聞こえた方を見ると、黒服の小太りの男が幽霊でも見たかのような表情でこちらを見ている。
もしかすると話の流れから察するに彼が――
「ねぇ、もしかしてあの人が……?」
「はい。私たちの引率の兵士のモブロスさんです」
「逃げた方の引率"だった"男ね」
やはりそのようだ。
アイラの言い方に棘があるが、それも当然であろう。
彼が逃げなければどうにかなったのかはともかくとして、彼はソフィアたち三人を見捨てたのだ。
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