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第二章 軍属大学院 入学 編
53.初旅最後の一悶着-Ⅲ
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そうして違和感を探っていると彼はこちらの視線に気がつき、ハッとした後に近くに居る門番らしき人物に何か声をかけてからこちらに近づいてくると――
「すまなかった。到底許されぬ事をしてしまったという事は重々理解しているつもりだ。何をぬけぬけとと思われるかもしれない。だがこれは偽り無い私の本心なのだ。本当に……本当に無事で良かったっ!」
泣きそうな顔で、自信の無さ気な声でそう言い、再び土下座をした。
額を地面に擦り付けて肩を震わせる彼の姿からは、嘘をついている気配は特に感じられない。
ただ怖じ気付いて見捨てて逃げたわけでは無かったのだろうか。
「頭を上げてくださいモブロスさん。許す許さないは正直すぐに判断出来ませんが、公衆の面前で貴族のあなたが額を地につけるというのは体裁が悪いでしょう」
そういうソフィアの声からは、いつもより少し堅い印象を受けた。
彼女も自分と同じ様に感じたのかはわからないが、邪険に扱わないのは彼女なりの温情なのだろう。
ソフィアには似合わないが、口汚く罵っていてもおかしくはない状況だと個人的には思う。
しかしその言葉を受けても、モブロスは頭を下げたまま告げる。
「己の責務も果たさぬままにむざむざと逃げ帰ってきた私に、守るべき体裁など残ってはおりませぬっ……! 本当にっ……申し訳なかった!」
地面につけられた両手は地を強く掴み、爪の間には土が入り込んでいる。
自分がアイラたちの話から抱いた彼のイメージは、尊大不遜なへなちょこぼんぼん貴族といった感じだったのだが、やはり何か違うような気がする。
謝罪の気持ちが強いのはよくわかった。
しかし、正直ソフィアもアイラも扱いに困っているようで、空回りしている感が否めない。
サキトは相変わらずお姉さんに絞め技の如く抱き付かれているし、どうしたものかと考えていたが、事態の収拾は思いの外早く訪れた。
「『自首したいから迎えを頼む』などとのたまう輩が居ると聞いて来てみれば、君がそうなのかいモブロス殿?」
門の方向からモブロスと同じ黒い制服を着た長身で屈強な肉体を持った濃い赤色の髪の男がそう口にしながら近づいてくると、モブロスはようやくゆっくりと頭を上げ、その男の方を見て頷いた。
「ああ、私で間違いない」
「君が犯罪を? 俄には信じがたいが……罪状はなんだい?」
「一つ確実なのは職務放棄だ。私自身は殺人未遂を犯した気分なのだが……正直なところ私も自分の身に何が起きたのかがわかっていない状態だ。だからこそ綿密な取り調べを頼みたい」
「ふむ……。よくわからないが、詳しくは詰所で聞こうか。……別に拘束はしなくても良いかい?」
「ああ、逃げる気は毛頭無いが、心配なら拘束してもらっても構わない」
「なら構わないよ。じゃあ行こうか」
そう言って赤髪の男は門の中へと迎い、モブロスはこちらに深く一礼をしてからその男に続いて行った。
「なんか……ドッと疲れたな……」
騒ぎが収まった事で人だかりも散って行き、人が通る用の門の姿も見えた。
門は真ん中で仕切られており、左右でそれぞれ出ていく人と入る人を分けているようだ。
出ていく人も入る人もそれぞれ設置されている魔法陣らしきものが刻まれた板石に触れて魔力を注いでから、門番の許可を得る事でようやく出入りしている。
魔力の認証で人の出入りを管理しているのかもしれない。
そうして観察をしながら、早く帝都の中を見てみたい衝動に駆られながらも、サキトがお姉さんに捕らわれている事を思い出してサキトの方を見てみると、ちょうど解放されたところだったようで、頬を赤く染めて恥ずかしそうにしているが、どこか嬉しそうな表情にも思える。
姉弟仲が良いというのはどうやら本当のようだ。
(愛されてるなぁサキトは……)
こうして身を案じてくれる家族がいるというのは、幸せな事なのだと改めて感じる。
義理の姉弟だと聞いたが、この二人もきっと自分とおじいちゃんのような関係なのだろう。
それに、こうして自分のした事が影響して誰かが笑顔になってくれたのだと実感できるというのはやはり堪らなく嬉しいものだ。
(貰ったものを誰かにお裾分けしたいって思ってたのに……結局僕がまた貰ってるんだもんな……)
まるで一種の永久機関のようだ。
いや、もしかしたらこれこそが自分の理想とする状態なのかもしれない。
いつの間にか肩に乗ってきていたキュウの頭を撫でながら、もう一度サキトとお姉さんを見る。
この光景をしっかりと胸に焼き付けておくのだ。
囁くような声量でキュウに告げる。
「良いかキュウ? この光景をもっと増やすぞ」
「キュウッ♪」
そんなキュウの鳴き声でサキトの隣で未だに涙ぐんでいるお姉さんはようやくこちらの存在に気が付き、また涙を流し始めて今度はソフィアとアイラに抱きついた。
「良かったっ! 二人も無事だったのね! 三人とも死んだって聞いて……嘘で、本当に、良かっ――」
そこまで言って、"た"なのか"あ"なのか聞き取れないような感じの声で泣き出してしまった。
抱きつかれたソフィアとアイラはたじたじといった様子だが、二人とも嬉しそうに見える。
(サキトのお姉さんはよく泣く人なんだなぁ……)
そんな自分の事を棚にあげた感想を浮かべながら、再会を喜びあうソフィアたちを眺めていたのであった。
それを見て何だか自分も泣きそうになったのは内緒だ。
「すまなかった。到底許されぬ事をしてしまったという事は重々理解しているつもりだ。何をぬけぬけとと思われるかもしれない。だがこれは偽り無い私の本心なのだ。本当に……本当に無事で良かったっ!」
泣きそうな顔で、自信の無さ気な声でそう言い、再び土下座をした。
額を地面に擦り付けて肩を震わせる彼の姿からは、嘘をついている気配は特に感じられない。
ただ怖じ気付いて見捨てて逃げたわけでは無かったのだろうか。
「頭を上げてくださいモブロスさん。許す許さないは正直すぐに判断出来ませんが、公衆の面前で貴族のあなたが額を地につけるというのは体裁が悪いでしょう」
そういうソフィアの声からは、いつもより少し堅い印象を受けた。
彼女も自分と同じ様に感じたのかはわからないが、邪険に扱わないのは彼女なりの温情なのだろう。
ソフィアには似合わないが、口汚く罵っていてもおかしくはない状況だと個人的には思う。
しかしその言葉を受けても、モブロスは頭を下げたまま告げる。
「己の責務も果たさぬままにむざむざと逃げ帰ってきた私に、守るべき体裁など残ってはおりませぬっ……! 本当にっ……申し訳なかった!」
地面につけられた両手は地を強く掴み、爪の間には土が入り込んでいる。
自分がアイラたちの話から抱いた彼のイメージは、尊大不遜なへなちょこぼんぼん貴族といった感じだったのだが、やはり何か違うような気がする。
謝罪の気持ちが強いのはよくわかった。
しかし、正直ソフィアもアイラも扱いに困っているようで、空回りしている感が否めない。
サキトは相変わらずお姉さんに絞め技の如く抱き付かれているし、どうしたものかと考えていたが、事態の収拾は思いの外早く訪れた。
「『自首したいから迎えを頼む』などとのたまう輩が居ると聞いて来てみれば、君がそうなのかいモブロス殿?」
門の方向からモブロスと同じ黒い制服を着た長身で屈強な肉体を持った濃い赤色の髪の男がそう口にしながら近づいてくると、モブロスはようやくゆっくりと頭を上げ、その男の方を見て頷いた。
「ああ、私で間違いない」
「君が犯罪を? 俄には信じがたいが……罪状はなんだい?」
「一つ確実なのは職務放棄だ。私自身は殺人未遂を犯した気分なのだが……正直なところ私も自分の身に何が起きたのかがわかっていない状態だ。だからこそ綿密な取り調べを頼みたい」
「ふむ……。よくわからないが、詳しくは詰所で聞こうか。……別に拘束はしなくても良いかい?」
「ああ、逃げる気は毛頭無いが、心配なら拘束してもらっても構わない」
「なら構わないよ。じゃあ行こうか」
そう言って赤髪の男は門の中へと迎い、モブロスはこちらに深く一礼をしてからその男に続いて行った。
「なんか……ドッと疲れたな……」
騒ぎが収まった事で人だかりも散って行き、人が通る用の門の姿も見えた。
門は真ん中で仕切られており、左右でそれぞれ出ていく人と入る人を分けているようだ。
出ていく人も入る人もそれぞれ設置されている魔法陣らしきものが刻まれた板石に触れて魔力を注いでから、門番の許可を得る事でようやく出入りしている。
魔力の認証で人の出入りを管理しているのかもしれない。
そうして観察をしながら、早く帝都の中を見てみたい衝動に駆られながらも、サキトがお姉さんに捕らわれている事を思い出してサキトの方を見てみると、ちょうど解放されたところだったようで、頬を赤く染めて恥ずかしそうにしているが、どこか嬉しそうな表情にも思える。
姉弟仲が良いというのはどうやら本当のようだ。
(愛されてるなぁサキトは……)
こうして身を案じてくれる家族がいるというのは、幸せな事なのだと改めて感じる。
義理の姉弟だと聞いたが、この二人もきっと自分とおじいちゃんのような関係なのだろう。
それに、こうして自分のした事が影響して誰かが笑顔になってくれたのだと実感できるというのはやはり堪らなく嬉しいものだ。
(貰ったものを誰かにお裾分けしたいって思ってたのに……結局僕がまた貰ってるんだもんな……)
まるで一種の永久機関のようだ。
いや、もしかしたらこれこそが自分の理想とする状態なのかもしれない。
いつの間にか肩に乗ってきていたキュウの頭を撫でながら、もう一度サキトとお姉さんを見る。
この光景をしっかりと胸に焼き付けておくのだ。
囁くような声量でキュウに告げる。
「良いかキュウ? この光景をもっと増やすぞ」
「キュウッ♪」
そんなキュウの鳴き声でサキトの隣で未だに涙ぐんでいるお姉さんはようやくこちらの存在に気が付き、また涙を流し始めて今度はソフィアとアイラに抱きついた。
「良かったっ! 二人も無事だったのね! 三人とも死んだって聞いて……嘘で、本当に、良かっ――」
そこまで言って、"た"なのか"あ"なのか聞き取れないような感じの声で泣き出してしまった。
抱きつかれたソフィアとアイラはたじたじといった様子だが、二人とも嬉しそうに見える。
(サキトのお姉さんはよく泣く人なんだなぁ……)
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