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第二章 軍属大学院 入学 編
57.帝都の街並み-Ⅰ
しおりを挟む「確か初めて入る時は魔力の個人登録がいるはずだから、ちょっと時間かかったわよね? 先にタケルから入る?」
「じ、時間がかかるって言っても確か一分くらいで済んだと思うよ! それにたぶん誰かがお手本見せてあげた方が良いから私が先に行くよ! タケルくんは最後の方が良いと思うな!」
「そ、そう? どうしたのよソフィア、そんなに慌てて……別にお手本がいるような事でも無いし……まあいいけど」
アイラとソフィアが話している魔力の個人登録というのは、ひょっとして先ほど見たあの板石に魔力を注ぎ込む行為の事だろうか。
そうであればやはり、この世界では魔力によって個人を特定して色々と管理しているのだろう。
魔力で管理するとなると、宿屋の鍵では何も問題は起きなかったので大丈夫だとは思うが、何だか少し心配になってきた。
きっと帝都への入場の管理なのだから、宿屋のドアなどとは比べ物にならないくらい精密で厳重なセキュリティなのだろう。
この世界での魔力を使った生活に何も支障が無かったために今まで考えた事は無かったが、自分は異世界人――言わば不法入国者みたいなものだ。
ひょっとしたら精密な検査をされると何かマズイ部分があるかもしれない。
(どうしよう……別に何も悪い事してないのに凄く不安になってきたぞ……)
そんな不安を抱いている間にもソフィアたちは次々と専用の台の上に設置された板石に手を当て、許可を得てから門を潜り抜けていってしまう。
板石に触れて魔力を少し流し、魔法陣が青色に光れば許可を貰えるようだ。
「次の方どうぞ」
「は、はい」
自分の前にいたサキトも早々に手続きが終わったようで、遂に自分の番となった。
笑顔の素敵な門番らしき青年に声をかけられて一歩進み出る。
先ほどのモブロスとやらと同じ黒色の制服を着ているところから見るに、恐らく彼も軍人なのだろう。
それにしても良い笑顔だ。
常にニコニコとしたその表情からは門番というよりはどちらかと言うと受付といった印象を受ける。
「あの、すみません。初めて来たんですけど……」
「ご申告ありがとうございます。ではこれから魔力を個人登録いたしますので、こちらの魔証石に魔力を注いでいただいて、その後にいくつかの質問に答えていただくことになりますがよろしいですか?」
「は、はい。わかりました」
門番の男性は至極丁寧な物言いで、例の板石を手で示した。
板石は門の壁に取り付けられた灯りの仄かな光で光沢を放っており、どことなく高級感が漂っているが、光を持たず白く濁った魔法陣によって汚されている様にも見える。
なるほど、この板石が魔証石という名前のようだ。
言い知れぬ不安を抱えながら、サキトたちがしていたように魔証石へと手を触れる。
磨かれた大理石のような見た目に違わず、手触りは滑らかでひんやりとしている。
(大丈夫、何も問題はないさきっと……)
腹を括り、魔証石へと魔力を送る。
送り出した魔力はすんなりと魔法陣に浸透していき、魔法陣は赤く光り出した。
(だ、大丈夫か? いや、たぶん初登録だとこういう色になるんだろきっと……)
先ほどまでと違う魔証石の反応に戸惑いを隠せず門番の青年へと視線を送ると、先程まで笑顔を一切崩す事の無かった彼の眉間には皺がより、怪訝そうな表情になっていた。
(ッ!?)
冷や汗が噴き出し、魔証石へと触れた手が緊張からか震える。
(やっぱり何かマズかったのか!? どうしようここまで来たのに入れないなんてなったら……。ここからまた家まで戻るのか――)
「――なーんて! 冗談ですよ!」
「……へ?」
焦りに焦る自分の思考を門番の青年の明るい声が遮り、思わず素っ頓狂な声を漏らしてしまう。
「じょ、冗談ですか?」
「ええ、随分と緊張されていたご様子でしたので、僭越ながら一計案じさせていただきました。気分を害してしまったならお詫びいたします。申し訳ありません」
門番の青年は再び笑みを浮かべた後、眉尻を少し下げて申し訳なさそうにそう言った。
確かにちょっと心臓には悪かったが、こちらの事を思っての行動であるならば一概に責めるというのもおかしいだろう。
かなり緊張していたのは事実であるし、寧ろ実際に問題が無いとわかった事で気分が楽になったまである。
やはり感謝こそすれ、謝罪を求めるような事ではないだろう。
「い、いえ、確かにちょっと焦りましたけど別に気分を害するような事でもないですから……。寧ろ気にかけてくださってありがとうございます。おかげで少し楽になりました」
「そうでございますか。それならば一計案じた甲斐もあったというものですね! では緊張もほぐれた所で、個人登録の方を進めますのでまずはお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「はい、須藤 武と言います」
「『スドウ タケル』様ですね。"スドウ"が家名でよろしいでしょうか?」
「はい」
「かしこまりました。では年齢と誕生月の方を教えていただけますでしょうか?」
「十九歳で師走の生まれです」
「ありがとうございます」
一応、誕生月などは気にするのだと少し驚いた。
というのも、おじいちゃんと暮らしていた頃は特に正確な月や日を気にした生活をしておらず、"秋の終盤"であったり"冬の中頃"という感じの感覚で過ごしていて、たまにおじいちゃんが「そろそろ霜月かいのぅ……」などと呟くのを聞いて月を把握していたので、この世界では月や日がそんなに重要視されていないのだと思っていたからだ。
やはりあの森での生活が特別であったという事なのだろう。
しかし誕生日については聞かれない辺り、やはりそこまで重要視されてはいないようだ。
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