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第二章 軍属大学院 入学 編
70.弟子と孫-Ⅱ
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そんな疑問を抱いていると、ハヴァリーさんは何かに気が付いたように顔を上げ、自分たちが入ってきた路地――というよりは門の方へと顔を向けた。
入ってきた場所が門になっているのだ。
路地はどこに行ったのだろうか。
「おやおや、今日は随分と来客が多いですな」
ハヴァリーさんがそう言うと、門の中心付近の空間が揺らいで一人の少女が入ってきた。
背は低く、目測で百四十センチ前後といったところだろうか。
自分より少し年下に見えるその少女はアイラよりさらに濃い金髪を肩口まで伸ばしているが、その様は乱れており、眠そうに目を細めていることから寝起きである事が推測できる。
その割には軍人の着ている服を白くして、更に少しだけ華美にしたような制服らしき服は一切乱れていない。
頭をポリポリと掻きながら首を鳴らすと、その少女は口を開き――
「おーうハヴァリーの爺さん。突然ですまねぇんだがなんか飯作ってくれねぇかなー。リオナの奴に飯買ってくるように頼んだのに全然帰ってこなくってよ――」
可愛らしい声に似合わぬ、まるで行きつけの居酒屋の大将に挨拶でもするおっさんの様な口調でそう言って眠そうに目を開いた。
少女は自分の存在に気が付くと、眠そうな目をさらに訝しげに潜めて言葉を続ける。
「んあ? なんだこいつ?」
こっちのセリフだ。
「これこれティスト様。もう少しお淑やかにしなされな。あなた様がその様では近しい者共まで品が無いと思われますぞ」
「暗に私にはそもそも品が無いって言ってねぇかそれ……? まぁねぇけどよ。ってかいい加減様付けもやめろよ――ってあれ? テッチがいるじゃねぇか! じゃあ何だ? クソジジイも来てんのか?」
「セイル様はいらしておりませんよ。テッチ殿はこちらの御仁をこの屋敷まで送り届けに来られたのです」
「なんだ来てねぇのかよ……来てんならいい加減ぶちのめしてやろうと思ってたのによぉ」
(本当に何だこの人……)
漂う雰囲気からまたしても強者であると感覚が告げる。
だが今は正直そんなことはどうでも良かった。
強者だとかそんな事以上に、声も見た目も若くて可愛らしいのに、それをもってしても隠しきれない程のおっさん臭の方が気になる。
口が悪いというよりは、気力を無くしたおっさんみたいな感じだ。
何だか『おっさん』が悪口みたいになっているが、別におっさんに罪は無い。
問題なのは見た目にそぐわなさ過ぎるということだ。
『絶対に見た目通りの年齢ではない』と、それだけは確信を持って言える。
こんな形でシエラを持っている事を確信したくなんてなかった。
「んで? こいつが何だってんだ? 『御仁』ったぁ随分丁寧な呼び方じゃぁねぇか。冷やかしで呼んでるってわけじゃぁないんだろ?」
何だろうか。
食後のサラリーマンを彷彿とさせるような言い方だ。
歯の間を爪楊枝で掃除していたら完全に一致するだろう。
「それは口で説明するよりもこちらを読んでいただいた方が速いかと」
そう言ってハヴァリーさんはもう一通の手紙を少女、もといおっさん、もといティストさんとやらに手渡した。
「あぁん? クソジジイが私に手紙だぁ? んだよ遂にボケが回って――ッ!?」
手紙の封を開けて中身に触れた途端にティストさんは黙りこんだ。
そして数秒後、深いため息をついた後に空を見上げ、そのまままた黙り込んだ。
胸元が小さく上下している様子から――いや、確かに小さいが今のは別に彼女の胸が小さい事に言及しているわけでは無いとだけ断言しておく――深呼吸をしているのだと思うがどうしたのだろうか。
恐らく自分の事について書かれているのだとは思うが、いったい何と書かれてあったのだろうか。
気にして見ていると、彼女はゆっくりと上に向けていた顔をこちらに向け、真剣な表情で口を開いた。
「ハヴァリーの爺さん。地下の実験場貸してくれ」
「はて? 何に使われるのですかな?」
「そいつの入学試験だ。流石に実際にこの目で見ねぇで、ジジイの言葉だけで判断するわけにはいかねぇよ。いくら何でも他に示しがつかねぇ」
自分抜きで進んで行く話に些か困惑するが、話の内容からするに自分は今から力試しをされるというわけだろうか。
入学試験とは言わずもがな軍属大学院の話であろう。
(って事はこの人はもしかして――)
「おいボウズ。ついて来い。今から私が直々に試験してやる」
「ティスト様、タケル様が状況を把握しきれておりませんぞ。まずは自己紹介をされた方が良いかと」
(舐めてもらっては困るよハヴァリーさん。流石にここまで話を聞けば僕にだって予測くらいできる)
「ん? ああ、そういやまだだったな」
(つまりこの人は軍属大学院の関係者か何かで――)
「私の名前は『ティスト・テス・ヴァンメリア』。ジジイがお前を入れようとしてる軍属大学院の学院長で、まあ……お前の姉弟子ってとこだな」
関係者どころでは無かった。
「が、学院長……ですか……?」
「んあ? ああ、まあ確かに私はこんな見た目だが歳はそれなりにくっててな、お前と同じシエラ持ちって奴だ。……寿命が延びてんだよ」
「いや、それは知ってますけど……」
「は? なんで知ってんだ? ジジイから聞いたのか?」
「いや、何と言いますか……雰囲気からですかね、強そうな!」
慌てて強そうなと付け加える。
間違っても「おっさんっぽいから」と思ってる事を悟られてはならない。
下手をすれば入学を却下されてしまう。
「あ? なんだそりゃ? まあいい、さっさとついて来い」
そう言ってティストさんはずかずかと屋敷に向かって歩き出した。
入ってきた場所が門になっているのだ。
路地はどこに行ったのだろうか。
「おやおや、今日は随分と来客が多いですな」
ハヴァリーさんがそう言うと、門の中心付近の空間が揺らいで一人の少女が入ってきた。
背は低く、目測で百四十センチ前後といったところだろうか。
自分より少し年下に見えるその少女はアイラよりさらに濃い金髪を肩口まで伸ばしているが、その様は乱れており、眠そうに目を細めていることから寝起きである事が推測できる。
その割には軍人の着ている服を白くして、更に少しだけ華美にしたような制服らしき服は一切乱れていない。
頭をポリポリと掻きながら首を鳴らすと、その少女は口を開き――
「おーうハヴァリーの爺さん。突然ですまねぇんだがなんか飯作ってくれねぇかなー。リオナの奴に飯買ってくるように頼んだのに全然帰ってこなくってよ――」
可愛らしい声に似合わぬ、まるで行きつけの居酒屋の大将に挨拶でもするおっさんの様な口調でそう言って眠そうに目を開いた。
少女は自分の存在に気が付くと、眠そうな目をさらに訝しげに潜めて言葉を続ける。
「んあ? なんだこいつ?」
こっちのセリフだ。
「これこれティスト様。もう少しお淑やかにしなされな。あなた様がその様では近しい者共まで品が無いと思われますぞ」
「暗に私にはそもそも品が無いって言ってねぇかそれ……? まぁねぇけどよ。ってかいい加減様付けもやめろよ――ってあれ? テッチがいるじゃねぇか! じゃあ何だ? クソジジイも来てんのか?」
「セイル様はいらしておりませんよ。テッチ殿はこちらの御仁をこの屋敷まで送り届けに来られたのです」
「なんだ来てねぇのかよ……来てんならいい加減ぶちのめしてやろうと思ってたのによぉ」
(本当に何だこの人……)
漂う雰囲気からまたしても強者であると感覚が告げる。
だが今は正直そんなことはどうでも良かった。
強者だとかそんな事以上に、声も見た目も若くて可愛らしいのに、それをもってしても隠しきれない程のおっさん臭の方が気になる。
口が悪いというよりは、気力を無くしたおっさんみたいな感じだ。
何だか『おっさん』が悪口みたいになっているが、別におっさんに罪は無い。
問題なのは見た目にそぐわなさ過ぎるということだ。
『絶対に見た目通りの年齢ではない』と、それだけは確信を持って言える。
こんな形でシエラを持っている事を確信したくなんてなかった。
「んで? こいつが何だってんだ? 『御仁』ったぁ随分丁寧な呼び方じゃぁねぇか。冷やかしで呼んでるってわけじゃぁないんだろ?」
何だろうか。
食後のサラリーマンを彷彿とさせるような言い方だ。
歯の間を爪楊枝で掃除していたら完全に一致するだろう。
「それは口で説明するよりもこちらを読んでいただいた方が速いかと」
そう言ってハヴァリーさんはもう一通の手紙を少女、もといおっさん、もといティストさんとやらに手渡した。
「あぁん? クソジジイが私に手紙だぁ? んだよ遂にボケが回って――ッ!?」
手紙の封を開けて中身に触れた途端にティストさんは黙りこんだ。
そして数秒後、深いため息をついた後に空を見上げ、そのまままた黙り込んだ。
胸元が小さく上下している様子から――いや、確かに小さいが今のは別に彼女の胸が小さい事に言及しているわけでは無いとだけ断言しておく――深呼吸をしているのだと思うがどうしたのだろうか。
恐らく自分の事について書かれているのだとは思うが、いったい何と書かれてあったのだろうか。
気にして見ていると、彼女はゆっくりと上に向けていた顔をこちらに向け、真剣な表情で口を開いた。
「ハヴァリーの爺さん。地下の実験場貸してくれ」
「はて? 何に使われるのですかな?」
「そいつの入学試験だ。流石に実際にこの目で見ねぇで、ジジイの言葉だけで判断するわけにはいかねぇよ。いくら何でも他に示しがつかねぇ」
自分抜きで進んで行く話に些か困惑するが、話の内容からするに自分は今から力試しをされるというわけだろうか。
入学試験とは言わずもがな軍属大学院の話であろう。
(って事はこの人はもしかして――)
「おいボウズ。ついて来い。今から私が直々に試験してやる」
「ティスト様、タケル様が状況を把握しきれておりませんぞ。まずは自己紹介をされた方が良いかと」
(舐めてもらっては困るよハヴァリーさん。流石にここまで話を聞けば僕にだって予測くらいできる)
「ん? ああ、そういやまだだったな」
(つまりこの人は軍属大学院の関係者か何かで――)
「私の名前は『ティスト・テス・ヴァンメリア』。ジジイがお前を入れようとしてる軍属大学院の学院長で、まあ……お前の姉弟子ってとこだな」
関係者どころでは無かった。
「が、学院長……ですか……?」
「んあ? ああ、まあ確かに私はこんな見た目だが歳はそれなりにくっててな、お前と同じシエラ持ちって奴だ。……寿命が延びてんだよ」
「いや、それは知ってますけど……」
「は? なんで知ってんだ? ジジイから聞いたのか?」
「いや、何と言いますか……雰囲気からですかね、強そうな!」
慌てて強そうなと付け加える。
間違っても「おっさんっぽいから」と思ってる事を悟られてはならない。
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「あ? なんだそりゃ? まあいい、さっさとついて来い」
そう言ってティストさんはずかずかと屋敷に向かって歩き出した。
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