アポロの護り人 ―異世界夢追成長記―

わらび餅.com

文字の大きさ
80 / 163
第二章 軍属大学院 入学 編

71.弟子と孫-Ⅲ

しおりを挟む
「ささ、参りましょうタケル様」

 ハヴァリーさんに促されて、慌ててティストさんの後についていく。
 そうだ、今から試験なのだ。
 唐突過ぎて全く心の準備は出来ていないが、ここでしくじるわけにはいかない。

(おじいちゃんが大丈夫って言ってたんだ……。ちゃんとこなせば問題ないはず……)

「キュウッ!」

「お、おう! がんばるぞキュウ」

 不安を感じ取ったキュウが「よくわからんが頑張れ」と活を入れてくれた。
 果たしてキュウは今から行われる試験が自身にも関係があるかもしれないという事を理解しているのだろうか。
 しかし前を歩くティストさんは自分に心の準備をする時間をくれるつもりは無いらしく、屋敷に入るなり正面にある大きな階段の側面へとまわり、そこにある扉を開けて中へと入った。
 屋敷を見ている暇もない。
 扉の中を覗くと、壁に一定間隔で設置された魔力灯が地下深くまで続く階段を照らしだしている。
 シンプルでメタリックな階段や壁は、なんだか秘密の研究施設にでも続いて居そうで少しワクワクしてしまう。
 少し見とれてしまったが、ティストさんはずんずんと階段を下りているので、追いつくために少し小走り気味に階段を下りる。
 長い階段の途中、壁にはいくつか取っ手の無い扉の様なものがあったが、それには目もくれずティストさんは下りていき、遂に最下層へと辿り着いた。
 そこには階段と同じデザインの十メートルほどの短い通路があり、側面の壁には両方に二つずつほど階段の途中にあったのと同じ様な扉があり、正面には一際大きな左右にスライドして開きそうな扉――というよりも、重厚なシェルターの入り口の様なものがあった。
 その扉の前に着くとハヴァリーさんは扉に触れて魔力を流し、扉が淡く光ったかと思うと重厚な摩擦音を響かせ――ることは無く、静かに開いた。
 あまりにもスッと開いたもので少し拍子抜けしてしまう。
 しかし、中の様子は想像以上のものだった。
 中にあったのは広大な、それこそ野球が余裕で出来る程の大きな一つの部屋だった。
 床も壁も天井も、通路と同じようなシンプルでメタリックなデザインで、光源は全て天井にあるようだ。
 部屋を見回しながら中央付近まで歩き、誰に聞くでもなく口から疑問を漏らす。

「実験場って言ってましたっけ……?」

「ああそうだ、ジジイが新しい魔法陣魔法とかを試す時に使ってた部屋だ。だからちょっとやそっとじゃ傷すらつかねぇように出来てる。広くて頑丈で他の迷惑にならねぇ――」

 ティストさんはそこまで言うと一拍呼吸を置いて、ニヤリと片方の口角を上げて続ける。

「――戦闘試験にはもってこいだろ?」

 やはり戦闘関連の試験だったか。
 軍人になるための学校に入るための試験なのだから、当然と言えば当然だ。
 試験である以上やらざるを得ないわけだが、自分には懸念事項がある。

「じゃあ始めっぞ~」

「あの、すみません……。僕ろくな対人用の魔法覚えてないんですけど……」

 対人用の魔法どころか、名付きの魔法すら一つとして習得していない自分に対人戦闘での試験を突破することは出来るのだろうか。

「んあ? その辺は心配すんな。この試験はボウズが戦闘において出来る事を見るための試験だ。それに――ボウズ程度の力量で私に攻撃が掠りでもすると思ってんのか?」

 見え透いた挑発だ。
 事実、きっとティストさんは自分なんかよりも遥かに強いだろう。
 ぐうの音も出ないのでせめて挑発には乗らないようにしよう。

「思ってませんよ。確認したまでです」

「なんだよ。どうにか掠りでもしてやろうって程度の気概すらねぇのか?」

 相変わらず挑発染みた口調だ。
 挑発に乗れば減点対象なのかもしれない。

「気概でどうにか出来る実力差ならまだ良かったんですけどね」

「ふーん……。まあ自分と相手との力量差をちゃんと把握できるってのは大事な事だけどよぉ。そんぐらいの気概もって全力でやらねぇと――」

 その言葉の続きは、何故か――

「――ここで死ぬぞ」

 左右と背後から聞こえた。

「ッ――!?」

 警鐘を鳴らす感覚に従ってポルテジオを展開して後ろを向くが、一向に衝撃は来ないうえに右にも左にも目の前にも彼女はいない。
 慌てて魔力探知を広げると、彼女はさっきまでと同じ場所に立っていた。

「おうおう、やっと魔力探知広げたか。わざわざ開始の合図までしてやったのに中々広げねぇからどうしようかと思ったぜ」

 飄々と先ほどまでと同じように彼女はそう話すが、自分はとても先ほどまでのままではいられなかった。
 震えが止まらない。
 呼吸をするように出来ていたはずの軽い身体強化ですら上手く維持が出来なくなるが、本能的になのか前面――彼女のいる方向にはポルテジオが展開されている。
 多方面から攻撃が飛んでくる事には慣れている。
 半年近くそういう特訓をしてきたのだ。
 突然であったとは言え、三方面程度どうという事はない。
 当然であろう。
 しかし、今の感覚を自分は知らない。

(今さっき……この人は……)

 彼女を直視する事が出来ない。
 しかし、臆病な自分は確認をとらずにはいられない。
 嘘であることを願いながら彼女に問う。

「てぃ……ティストさん……あなた今……」

 名前を呼ぶことにすら恐怖を感じて声も震える。

 この日、自分は生まれて初めて――

「僕の事を――殺そうとしてませんでしたか?」

「おう」

 人間の発する"殺意"と言うものに触れたのであった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした

むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~ Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...