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第二章 軍属大学院 入学 編
74.全力と死ぬ気の差-Ⅲ
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「その、"ほとんど"って何が出来なかったんだ……?」
『それは……って今大事なのはそんな事じゃないよ!』
そう言うとキュウは肩から飛び降りて、依然として座り込んだままの自分の前へと着地してこちらを向いて語り掛けてくる。
『死ぬのが怖いなんて当たり前だよ! でも武はキュウを! 食べられちゃうのが怖くって震えてたキュウを、魔物に立ち向かって護ってくれたの! 武はちゃんと変われてる! キュウが生きてるのがその証拠!』
心に直接響くからだろうか。
幼げでどこかつたないその物言いに反して、伝わってくる情景はひどくハッキリとしている。
確かに自分はあの時、死にたくないと思いながらも、それでもキュウを――キュウだけは護るのだと大土竜に立ち向かった。
キュウは必死な様子で続ける。
『おいしいのを食べれるのも! 新しいのを見られるのも! 楽しいって思えるのも! 全部武が怖いのに立ち向かってくれたおかげ! ロンドんたちだってキュウと武で一緒に戦って護れたの! 武の中のも"護るための力"って言ってたの! 武はちゃんと"護れる"の!』
キュウがこの半年間見た景色や感じた想いが流れ込んでくる。
果物も木の実も花畑もお風呂も、森も草原も街も人も、出会えたその全てが幸せなのだと。
その全てが自分のおかげなのだと――自分が護ったものなのだとキュウは言う。
「で、でも……僕は覚悟が足りなくって……ティストさんの言う事は正しくって……」
『うん。今回は武が悪いの。キュウもよくわかんないけどたぶん足りなかったの。だから、ちゃんと"ごめんなさい"してお願いするの!』
「お願い……する……?」
『そう! セイルおじいちゃんも"教えるのは期待してるから"って言ってたの! あの人ちょっと怖いけど、ちゃんと教えてくれた! ちゃんとしろって言ってくれてるの! だから一緒に"ごめんなさい"するの!』
そう言うとキュウはティストさんの方を向き、『ごめんなさい』と言いながら頭を下げる。
「んあ? なんだ? 悪ぃが私にはキュウキュウ鳴いてるようにしか聞こえねえから何言ってっかわかんねぇぞ。……まあ何かなんとなくわかる気もすっけどよぉ。――んで? ボウズはどうすんだ?」
ティストさんは自分に問いかける。
わざわざ話し出しやすいように声をかけてくれたのかもしれない。
そう思えば、先程までは恐怖しか感じられなかったその姿も、ちゃんと直視ができた。
足にも力が入る。
自分はまだ、立ち上がれる。
「ありがとうな。キュウ」
キュウの頭を一撫でしてから立ち上がり、しっかりとティストさんの目を見た後、頭を下げる。
「――すみませんでした。おっしゃる通り、僕には覚悟が足りていません。正直、軍人になるっていうのがどんな事なのか僕にはわからないです。――でも、誰かを護りたいっていう、護れるようになりたいっていうこの気持ちに嘘なんて無いんです」
そうだ、この気持ちに嘘なんてあるはずがない。
誓ったばかりじゃないか。
この場所から夢を叶えるのだと。
その為には学院に通うべきだとおじいちゃんは言い、自分も通いたいと思った。
ならば、まだ軍人になる覚悟はわからずとも、自分なりの覚悟を持てるはずだ。
ここで躓けば、きっと自分の夢は死んでしまう。
ならばあの誓いを成就させるために護ろう。
「お願いします! もう一度、試験を受けさせてください! 今度は僕も全力で――死ぬ気で僕の夢を護ります」
――護れるのだと、相棒がそう言ってくれているのだ。
覚悟が通じたのかどうかはわからないが、ティストさんは少し鼻で笑った後にポケットに両手を突っ込んでから口を開く。
「まあ別にまだ試験の終了宣告なんてしてねぇから、ボウズがやるってんなら付き合ってやるよ。優しい優しい姉弟子様に感謝して、出せるもん全部だしてけ?」
確かに優しい優しい姉弟子様だ。
本当に、実際は優しい人なのだろう。
そもそもこの人はおじいちゃんの弟子なんだ。
なんだかんだで思いやりのある――
「おおそうだ。優しい姉弟子様からさらにサービスだ。さっきまで程度の攻撃じゃあボウズも満足に力を出せねぇだろうから、もうちょっと過激にしてやるよ」
そう言うとティストさんは依然ポケットに手を突っ込んだまま唱える。
「来いよ。『金椿』」
瞬間、空気が変わる。
ティストさんの周囲に、溢れ出した金色の魔力が旋風のように吹き荒れ、そのあまりの威烈に空間が歪み始める。
そしてポケットに突っ込んでいた手を出したかと思うと、右手の手刀でその歪みを横に一閃した。
そのただ一閃のみで吹き荒れる魔力は吸い込まれるように集約され、一本の線として纏まり、空いた左手で掴むと一条の金色の槍と化した。
持ち主の身の丈程もあるその槍は、どこかおじいちゃんの槍『銀鬼灯』を彷彿とさせる見た目だが、硬さと鋭さはあれど、あれほどの重みは感じられない。
ただ、あれがそんじょそこらのただの槍とは比べ物にならないものだという事は言われなくてもわかる。
「さーて、頑張って生き延びろよボウズ。――私の槍は、下手すりゃジジイのより"重ぇぞ"」
彼女は相も変わらず軽い口調でそう言うと槍を振った。
瞬時に自分の左側にポルテジオを展開させることで、その不可視の空気の刃を防ぐ。
きっと今のは槍の力でもなんでもなく、ティストさん自身の技だろう。
おじちゃんも使っていた。
しかしおじいちゃんの槍より重いとはいったいどういう事だろうか。
あの上に置くだけで丸太が割れる槍より重いとは到底思えない。
今の空気の刃も、本気ではないだろうがおじいちゃんの方が重い。
まあおじいちゃんの本気も知らないのでわからないが、だからと言って結局それが油断に繋がるなんて話も無い。
(しかしまあ、この人は確かにおじいちゃんの弟子だ……)
ティストさんはゆるりと構えているが、先程までよりもより濃密な殺意を向けてきている。
それこそ、既に槍に貫かれていると錯覚してしまうほどの。
(おじいちゃんと同じで、優しいけど容赦はしない人だこれ……)
垂れ落ちてくる冷や汗もそのままに、恐怖に抗うように肩の上の相棒へと呟く。
「さて、護るぞ。キュウ」
『うん!』
こうして死ぬ気で生きのびる試験が始まった。
『それは……って今大事なのはそんな事じゃないよ!』
そう言うとキュウは肩から飛び降りて、依然として座り込んだままの自分の前へと着地してこちらを向いて語り掛けてくる。
『死ぬのが怖いなんて当たり前だよ! でも武はキュウを! 食べられちゃうのが怖くって震えてたキュウを、魔物に立ち向かって護ってくれたの! 武はちゃんと変われてる! キュウが生きてるのがその証拠!』
心に直接響くからだろうか。
幼げでどこかつたないその物言いに反して、伝わってくる情景はひどくハッキリとしている。
確かに自分はあの時、死にたくないと思いながらも、それでもキュウを――キュウだけは護るのだと大土竜に立ち向かった。
キュウは必死な様子で続ける。
『おいしいのを食べれるのも! 新しいのを見られるのも! 楽しいって思えるのも! 全部武が怖いのに立ち向かってくれたおかげ! ロンドんたちだってキュウと武で一緒に戦って護れたの! 武の中のも"護るための力"って言ってたの! 武はちゃんと"護れる"の!』
キュウがこの半年間見た景色や感じた想いが流れ込んでくる。
果物も木の実も花畑もお風呂も、森も草原も街も人も、出会えたその全てが幸せなのだと。
その全てが自分のおかげなのだと――自分が護ったものなのだとキュウは言う。
「で、でも……僕は覚悟が足りなくって……ティストさんの言う事は正しくって……」
『うん。今回は武が悪いの。キュウもよくわかんないけどたぶん足りなかったの。だから、ちゃんと"ごめんなさい"してお願いするの!』
「お願い……する……?」
『そう! セイルおじいちゃんも"教えるのは期待してるから"って言ってたの! あの人ちょっと怖いけど、ちゃんと教えてくれた! ちゃんとしろって言ってくれてるの! だから一緒に"ごめんなさい"するの!』
そう言うとキュウはティストさんの方を向き、『ごめんなさい』と言いながら頭を下げる。
「んあ? なんだ? 悪ぃが私にはキュウキュウ鳴いてるようにしか聞こえねえから何言ってっかわかんねぇぞ。……まあ何かなんとなくわかる気もすっけどよぉ。――んで? ボウズはどうすんだ?」
ティストさんは自分に問いかける。
わざわざ話し出しやすいように声をかけてくれたのかもしれない。
そう思えば、先程までは恐怖しか感じられなかったその姿も、ちゃんと直視ができた。
足にも力が入る。
自分はまだ、立ち上がれる。
「ありがとうな。キュウ」
キュウの頭を一撫でしてから立ち上がり、しっかりとティストさんの目を見た後、頭を下げる。
「――すみませんでした。おっしゃる通り、僕には覚悟が足りていません。正直、軍人になるっていうのがどんな事なのか僕にはわからないです。――でも、誰かを護りたいっていう、護れるようになりたいっていうこの気持ちに嘘なんて無いんです」
そうだ、この気持ちに嘘なんてあるはずがない。
誓ったばかりじゃないか。
この場所から夢を叶えるのだと。
その為には学院に通うべきだとおじいちゃんは言い、自分も通いたいと思った。
ならば、まだ軍人になる覚悟はわからずとも、自分なりの覚悟を持てるはずだ。
ここで躓けば、きっと自分の夢は死んでしまう。
ならばあの誓いを成就させるために護ろう。
「お願いします! もう一度、試験を受けさせてください! 今度は僕も全力で――死ぬ気で僕の夢を護ります」
――護れるのだと、相棒がそう言ってくれているのだ。
覚悟が通じたのかどうかはわからないが、ティストさんは少し鼻で笑った後にポケットに両手を突っ込んでから口を開く。
「まあ別にまだ試験の終了宣告なんてしてねぇから、ボウズがやるってんなら付き合ってやるよ。優しい優しい姉弟子様に感謝して、出せるもん全部だしてけ?」
確かに優しい優しい姉弟子様だ。
本当に、実際は優しい人なのだろう。
そもそもこの人はおじいちゃんの弟子なんだ。
なんだかんだで思いやりのある――
「おおそうだ。優しい姉弟子様からさらにサービスだ。さっきまで程度の攻撃じゃあボウズも満足に力を出せねぇだろうから、もうちょっと過激にしてやるよ」
そう言うとティストさんは依然ポケットに手を突っ込んだまま唱える。
「来いよ。『金椿』」
瞬間、空気が変わる。
ティストさんの周囲に、溢れ出した金色の魔力が旋風のように吹き荒れ、そのあまりの威烈に空間が歪み始める。
そしてポケットに突っ込んでいた手を出したかと思うと、右手の手刀でその歪みを横に一閃した。
そのただ一閃のみで吹き荒れる魔力は吸い込まれるように集約され、一本の線として纏まり、空いた左手で掴むと一条の金色の槍と化した。
持ち主の身の丈程もあるその槍は、どこかおじいちゃんの槍『銀鬼灯』を彷彿とさせる見た目だが、硬さと鋭さはあれど、あれほどの重みは感じられない。
ただ、あれがそんじょそこらのただの槍とは比べ物にならないものだという事は言われなくてもわかる。
「さーて、頑張って生き延びろよボウズ。――私の槍は、下手すりゃジジイのより"重ぇぞ"」
彼女は相も変わらず軽い口調でそう言うと槍を振った。
瞬時に自分の左側にポルテジオを展開させることで、その不可視の空気の刃を防ぐ。
きっと今のは槍の力でもなんでもなく、ティストさん自身の技だろう。
おじちゃんも使っていた。
しかしおじいちゃんの槍より重いとはいったいどういう事だろうか。
あの上に置くだけで丸太が割れる槍より重いとは到底思えない。
今の空気の刃も、本気ではないだろうがおじいちゃんの方が重い。
まあおじいちゃんの本気も知らないのでわからないが、だからと言って結局それが油断に繋がるなんて話も無い。
(しかしまあ、この人は確かにおじいちゃんの弟子だ……)
ティストさんはゆるりと構えているが、先程までよりもより濃密な殺意を向けてきている。
それこそ、既に槍に貫かれていると錯覚してしまうほどの。
(おじいちゃんと同じで、優しいけど容赦はしない人だこれ……)
垂れ落ちてくる冷や汗もそのままに、恐怖に抗うように肩の上の相棒へと呟く。
「さて、護るぞ。キュウ」
『うん!』
こうして死ぬ気で生きのびる試験が始まった。
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