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第二章 軍属大学院 入学 編
75.人それぞれの嗜好-Ⅰ
しおりを挟む試験の再開を認識させたのは、魔力探知が感知したこちらの魔力を"かき分けて"迫る金色の魔力だった。
(やっぱり付け焼刃じゃ無理かっ……!?)
一応アイラに教えてもらった様に相手の魔力を妨害するつもりで魔力探知を広げていたのだが、いとも容易く突破されてしまった。
何かしらの魔法が発動するであろうその魔力はこのまま放置すれば自分に直撃するだろう。
それは困るので一早くポルテジオをぶつけて魔力を止めると、衝突した瞬間に茶色の魔力が小規模な爆発の様なものを起こした。
どうやら土属性の魔力だった様だ。
自分はポルテジオの防御力には絶対的な信頼を置いているが、この力にはいくつか弱点がある。
と言ってもその弱点の原因は至極単純に自分の技術力不足なので、決してポルテジオが弱いわけではない。
決してだ。
そんなポルテジオの弱点の内のひとつが、もし今さっきの魔力を魔法の発動まで漕ぎつけさせてしまっていた場合、自分が射線上から逃げるか魔法を防ぎきるまでポルテジオの一つをその魔法のためだけに取られるという点だ。
その為に魔法発動前の魔力をポルテジオに衝突させる事で"不発"させたわけだが、もうほんの少しでも対応が遅ければきっとさっきの魔法は発動していて、ティストさんはその隙をつくような攻撃をしてきただろう。
既にこちらの力量を把握して、おじいちゃんたちとの特訓と同じ要領で、自分が対応できるギリギリを攻めてきているのだ。
――『少しでも対応を誤れば、そこからなし崩しに攻め込んで殺すぞ』という意思を添えて。
"自分を殺し得る可能性がある"程度には手加減をしてくれるわけだ。
本当に優しい事この上ない。
しかし油断すれば死ぬ事は確実であるので、気を緩める事は無い。
(でも、これだけ魔力使ってるんだからちょっとくらい勢いが弱まるとかあっても良いと思うんだけどなぁ……)
突破されないようにかなりの量の魔力を拡散して探知自体も三十メートル程に抑えて――いや、ティストさんの魔力探知に抑えられているので、魔力の密度はかなり高くなっているはずなのだが、ティストさんの伸ばしてくる魔力を止められる気が全くしない。
続いてティストさんの魔力が互いの魔力探知の境界面からこちらにそれぞれ別方向から侵入してきた。
その数は五本。
侵入したのを感知した瞬間にポルテジオにぶつけて不発させるが、それでもどれも五メートル程は侵入されてしまっている。
本当に侵入そのものを防げる魔力の妨害の方法を習得しないとヤバいかもしれない。
命がけの土竜叩きをしている感覚に対してそんな危機感を抱いていると、ティストさんが口を開く。
「おいおいボウズ。なんでそんだけクソ贅沢に魔力垂れ流してんのに、この程度の魔力も妨害できねぇんだよ。本当に妨害する気あんのか? たった三十メートルぽっちの探知に最上級魔法五発分以上の魔力使うアホなんて見た事ねぇぞ……。並の魔法師ならそれだけで二、三人ぶっ倒れるってのに、贅沢の極みだなぁおい」
そう言われても出来ないものは出来ないのだ。
妨害のやり方がさっぱりわからない。
こちらの魔力は綺麗に金色の魔力に阻まれてティストさんに近づけないというのに、情けない話である。
「まあ魔力の妨害ができねぇからそのシエラで妨害するってんならそれはそれで今は良いか……。じゃあとりあえずまずは"コレ"を防いでみな」
そう言うティストさんは槍を出しているにもかかわらず、相変わらず全く動く様子はなく――
「ッ――!?」
直感的に全ての――十のポルテジオを展開させたが、結果的にこの判断は正しかった。
魔力探知をかき分けて侵入してきた魔力の数は十、いや――
(マジかよっ!?)
魔力探知を通して脳内に広がるのは、魔力が十"ずつ"、極々わずかな時間差で続々と侵入してくる様子。
すぐさま最初の十の魔力を防いだポルテジオを消して、次の十の魔力へと展開する。
それを防いだらまた次の十へと展開しては防いで――しかし魔力の波状攻撃は止むことは無い。
その場を動かず、四方八方どころか常に十方からひたすらに飛んでくるその多種多様な魔法の込められた魔力をポルテジオで防ぐ。
傍から見れば魔力探知でもしていない限り飛んでくる魔力は見えないはずなので、自分の周囲で色とりどりの不発した魔法が大量に炸裂しているようにしか見えないだろう。
氷の青に火の赤、雷の紫に土の茶、果ては風の緑まで。
アポロ色のポルテジオと衝突する度に炸裂する様を見ていると、まるで花火の中にいる様な錯覚に――陥りたいが、正直そんな余裕など全くない。
尋常ではない密度で侵入してくる魔力を、的確に自分に近いものから順番に防いでいく。
小さな爆発音の群れが鼓膜どころか身体中を揺らすが、そんなことに気を割いている間もない。
魔力と魔力の間にあるタイムラグは展開したポルテジオの消去・再展開に要する時間を僅かに凌駕しており、徐々に魔力群と自分との距離は縮まっていく。
少しでも迷えば一瞬で距離を縮められてしまうだろう。
土竜叩きなんて生易しいものではない。
これはもう身に降りかかる豪雨のその全てを一つ一つ防いでいるようなものだ。
恐らく五百近い魔力を防ぎきったところでようやく波状攻撃が終わる。
時間にすればきっと十秒程の事だったのだろう。
しかし、与えられた脳と精神への疲労感は、単純な多方面攻撃に対する防御のそれとは比べ物にはならなかった。
極力隙を見せるべきでは無いと理解しているのに、思わず方膝をついてしまった。
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