アポロの護り人 ―異世界夢追成長記―

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第二章 軍属大学院 入学 編

76.人それぞれの嗜好-Ⅱ

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「ッ――はぁ……」

 深呼吸をしてとりあえず一度落ち着いてみる。
 おかげで呼吸は落ち着いてくるのだが、内心はどうにも落ち着いてはくれない。
 世の中にはこれほどの攻撃を平然と繰り出してくる化け物がいるのだという事実にただ驚く気持ちと、よくもまあ防ぎきれたものだという驚きで何だか変な気分だ。
 酷く疲れているのに達成感からか気分が高まる。
 そう、達成感からだ。
 状況を簡潔に説明すれば、"殺されかけて興奮している"という状態だが、別にそんな特殊性癖は無い。
 無いったら無いのだ。

『無いの?』

「無いよ!」

「おう! 中々頑張ったはんらったじゃねーかじゃへーは

 キュウの冗談に付き合っていると、どこか違和感のあるティストさんの声が聞こえてきた。
 まるで鼻水が垂れないようにしながら喋っているかの様な声だ。
 爆発音に囲まれていたせいか、耳には閉塞感があり、音が籠って聞こえるのでそのせいかもしれない。
 そう思いながらティストさんに目を向けると――鼻血を垂らしていた。

「……え?」

 どうしたのだろうか。
 防御でいっぱいいっぱいだった自分にはまさか攻撃できるはずもない。
 だとしたら自発的に鼻血を出した事になるわけだが――

(鼻血が出る事……"興奮"?)

 まさかそんなベタな事は無いだろうとは思うが――もしそうであるならば、"人を殺そうとして興奮した"という事になる。

「ティストさん……それは流石に猟奇的すぎますよ」

「……何を勘違いしてるかは知らねぇが、とりあえず今のを防御しきった事は褒めてやるよ。まあそもそも普通はそうそうあんな攻撃受けることはねぇけどな」

 鼻に手を当てて治癒魔法を使いながら、ティストさんはそう言った。
 ちゃんと妨害が出来ればそもそもあんな攻撃を受けないという事だろう。

「ってかボウズ。あんだけビビってた割にもう平気そうじゃねぇか」

 殺意を向けられる事にであろうか。
 そんなもの――

「やせ我慢に決まってるじゃないですか……。なんですか? ビビってた方が評価貰えるんなら盛大にビビり散らかしますけど……?」

 軽口でも叩いてないとやってられないと考えるべきか、軽口を叩けるくらいには慣れたと考えるべきかはわからないが、こんなもの無いに越したことは無い。
 というより、何故あんなに自然体な様子でこんなにも"殺される"と思わせる事が出来るのかがさっぱりわからない。
 寧ろわかりたくないまである。

「あの、試験の続きをお願いします……」

「んあ? ったく欲しがりだなぁボウズは……」

 別に欲しがりなんかじゃない。
 単に早く試験を終わらせてこの息苦しい感覚から解放されたいだけだ。

「仕方ねぇな。じゃあ次は近接戦闘への対応を……って言いてぇところだが、生憎私もそれほど暇ってわけじゃぁねぇからな。近接戦闘に関してはどうせジジイとテッチが腐るほどやってるだろうから免除って事にしといてやるよ」

 確かにおじいちゃんやテッチとの特訓は近接戦闘ばかりだったが、先ほど自分に『死ぬ気で臨め』と言っていたティストさんが、わざわざ免除してくれるという事に少しばかり違和感を覚える。
 近接戦闘への対応に関しては、ティストさんにはまだ最初の無様な逃げ腰の対応しか見せてないはずだが――

(時間が無いならそもそも試験なんてやらないだろうし……。さっきの攻撃防ぎきったのが高評価だったとかかな?)

 何にせよ早く終わらせてくれるのであればありがたい限りだ。
 さっきのが魔法戦闘への対応で、免除されたのが近接戦闘への対応だとするならば、次はいったいなんだろうか。
 いつどんな攻撃が来てもいいように構えてティストさんを見ると、槍を両手で持ち、体を右斜めに向け、穂先を後方下部に向けた構えを取っていた。

(両手で使うんだ……いや、槍ってそういうものか!)

 おじいちゃんがいつも片手で扱っている様子ばかり見ていたから感覚が狂ってしまっていたのだろう。
 しかし構えや扱い方が違うという事は、おじいちゃんの槍術しか見た事の無い自分は知らない様な攻撃をしてくるかもしれない。
 虚を突かれないように気をつけなければならないだろう。
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