86 / 163
第二章 軍属大学院 入学 編
77.人それぞれの嗜好-Ⅲ
しおりを挟む
気を引き締めたところでティストさんが地面を蹴り、三十メートル以上あったその距離を一瞬で詰めてくる。
相変わらずふざけた身体の強化練度だ。
一瞬ならまだしも常にこの速度で動くのだから尚更ふざけている。
正直、肉眼では捉えきれないが――
(近接戦闘に於いて重要なのは動体視力よりも魔力探知による感知の詳細度だ)
目では把握しきれずとも、そこに感知で得た情報が加わればこの程度の速度はどうという事は無い。
槍の間合いまで自分に接近したティストさんは体の右側に構えたその槍で――
(いきなり搦め手か)
右手一本で自身の頭の後ろから突きを放ってきた。
確かに自分からは死角になっていた位置だが、感知できれば何という事は無い。
おじいちゃんと同じく片手とは思えない程に力の籠っているであろうその突きを、ポルテジオを斜めに展開して受け流す。
垂直に展開して受け止めても良いのだが、せっかくティストさんはこの力に対して初見なのだ。
想像以上に受け流された力に一瞬でも動揺してくれれば掠り傷くらいなら与えるチャンスがあるかもしれない。
しかし、槍は受け流された瞬間にぴたりと止まり、一切の動揺を見せることなくそのまま流れるように左足を軸にして後ろ回し蹴りを放ってきた。
それも確かに速いが既に軌道上にはポルテジオを力に対して垂直に展開している。
今のティストさんは自分に背を向けている状態だ。
動きが止まれば攻撃を叩き込める。
左手を瞬時に強化して、一歩踏み込み抉るような掌底を放――とうとしたが、慌てて踏み込もうとした左足の裏にポルテジオを展開して踏みとどまる。
ティストさんの左足から地面に流れる魔力を感知したからだ。
案の定本来左足を踏み込むはずであった場所からは鋭く太い岩が飛び出してきた。
踏み込んでいれば確実に体勢は崩されていたであろう。
飛び出した岩は前方の視界を塞ぐが、その向こうにティストさんは既に居ない事は感知済みだ。
岩の魔法発動時に自分が地面を注視し、ティストさんから目線を外してしまった時には既に自分の右側面に移動を始めていたのだ。
感知していなければ確実に防御が間に合わなかったであろうその薙ぎ払いを受け流し、槍を振りきったその体に一撃叩きこもうと動くが、ティストさんの次撃の方が速い。
(速すぎだろッ――!)
そのまま舞うように槍を振り回しだし、速度は上昇していく。
ただでさえ速いその攻撃速度は、一回の回転中に穂先と石突きの両方で攻撃を繰り出す事でさらに速くなっている。
槍を受け止めようが受け流そうが、何故か速度が増していくのだ。
一度"隙あらば攻撃をくわえる"などという考えは捨て、防御へと全神経を注ぐ。
その判断は功を奏したようで、槍での攻撃だけでなく別方向からの魔法による攻撃も加わってきたが何とか対応が間に合った。
なるほど、魔法戦闘と近接戦闘の次はその両方を織り交ぜた戦闘への応対試験というわけだ。
縦横無尽に迫りくるその攻撃に対応するうちに、何故か気分が高揚してくる。
もう殺意など毛ほども気にならなくなってきた。
きっと今自分は、目の前で繰り広げられる武人の"演武"とも"演舞"ともとれるその技に見入っているのだ。
この素晴らしい技に対応できるという事実が嬉しく、そして楽しくて仕方がないのだ。
自分の長所はポルテジオによる防御能力。
それを最大限生かすのに必要なのは"どこから攻撃が来るのか"をいち早く理解し、対応できるだけの能力であった。
だからこそおじいちゃんはこの半年の間、ひたすらに長所を伸ばすための特訓を繰り返してくれたのだ。
自分にはソフィアの様などれか一つでも属性魔法を極められるような才能も、サキトの様な卓越した身体強化の感覚も、アイラの様な魔法に対する知識も無いが、幸いな事に魔力制御の才能と攻撃に対する感知能力はあった。
確かに自分の能力ではティストさんに掠り傷すら与えることは出来ないだろう。
だが今はそんなものは必要ない。
対人用の魔法を覚えたいなどと思っていた時期もあったが、今はただひたすらに長所を伸ばすための特訓をしてくれたおじいちゃんとテッチに感謝しかない。
試験だとかそんなことはもうどうでもいい。
(――いや、どうでも良くはないな)
残っていたなけなしの理性でなんとか気が付いたが、それならば尚更だ。
この武人にただ自分に出来る事を――積み重ねてきたものを見せるのだ。
そうして相対しているうちに、ひょっとしたら掠り傷を与えられるかもしれない方法を思いつく。
試験の事を考えれば攻撃能力が一切ないと思われるのもマズい気がするので、実行に移してみよう。
防御に全て割いていたリソースを僅かに、本当に少しずつ切り分けていき、ほんの小粒程の余裕を生み出す。
――既に垂直にしか展開できなくなっていたポルテジオを、一つだけ傾けられる程度の余裕を――
思惑通り"跳弾"した魔法で生み出された氷弾が、放った本人――ティストさんへと返っていく。
いわゆるカウンターだ。
ひたすら防御に努めていた自分からの思わぬ反撃に少しぐらい焦るかとも思っていたが、ティストさんは自分から一度距離を取る事でそれを躱した。
「あっ……」
離れたという事は結果的に演舞は終了してしまったわけで――
「なんでせっかく終わりにしてやったってのに残念がってんだボウズ……。攻められて喜ぶったぁ随分とアレな性癖だなぁおい……」
「なっ!? べっ、別にそういうわけじゃないですよ!?」
「どうだかなぁ……まあいい。妨害がクッソ下手くそだったから少し心配だったが、どうやら"不可侵領域"はちゃんとあるみたいだしな。――しかしまあ、私にカウンターしかけるったぁ随分と強気なことだなぁおい?」
なんだろうか。
初めて聞く言葉があったが、それ以上にティストさんが少し悪い顔をしているのが気になる。
嫌な予感がして冷や汗を流していると、ティストさんは予想だにしていなかった――
「最終試験だボウズ。――精霊化して私に攻撃してきてみろ」
――いや、考えないようにしていた事を要求してきたのであった。
相変わらずふざけた身体の強化練度だ。
一瞬ならまだしも常にこの速度で動くのだから尚更ふざけている。
正直、肉眼では捉えきれないが――
(近接戦闘に於いて重要なのは動体視力よりも魔力探知による感知の詳細度だ)
目では把握しきれずとも、そこに感知で得た情報が加わればこの程度の速度はどうという事は無い。
槍の間合いまで自分に接近したティストさんは体の右側に構えたその槍で――
(いきなり搦め手か)
右手一本で自身の頭の後ろから突きを放ってきた。
確かに自分からは死角になっていた位置だが、感知できれば何という事は無い。
おじいちゃんと同じく片手とは思えない程に力の籠っているであろうその突きを、ポルテジオを斜めに展開して受け流す。
垂直に展開して受け止めても良いのだが、せっかくティストさんはこの力に対して初見なのだ。
想像以上に受け流された力に一瞬でも動揺してくれれば掠り傷くらいなら与えるチャンスがあるかもしれない。
しかし、槍は受け流された瞬間にぴたりと止まり、一切の動揺を見せることなくそのまま流れるように左足を軸にして後ろ回し蹴りを放ってきた。
それも確かに速いが既に軌道上にはポルテジオを力に対して垂直に展開している。
今のティストさんは自分に背を向けている状態だ。
動きが止まれば攻撃を叩き込める。
左手を瞬時に強化して、一歩踏み込み抉るような掌底を放――とうとしたが、慌てて踏み込もうとした左足の裏にポルテジオを展開して踏みとどまる。
ティストさんの左足から地面に流れる魔力を感知したからだ。
案の定本来左足を踏み込むはずであった場所からは鋭く太い岩が飛び出してきた。
踏み込んでいれば確実に体勢は崩されていたであろう。
飛び出した岩は前方の視界を塞ぐが、その向こうにティストさんは既に居ない事は感知済みだ。
岩の魔法発動時に自分が地面を注視し、ティストさんから目線を外してしまった時には既に自分の右側面に移動を始めていたのだ。
感知していなければ確実に防御が間に合わなかったであろうその薙ぎ払いを受け流し、槍を振りきったその体に一撃叩きこもうと動くが、ティストさんの次撃の方が速い。
(速すぎだろッ――!)
そのまま舞うように槍を振り回しだし、速度は上昇していく。
ただでさえ速いその攻撃速度は、一回の回転中に穂先と石突きの両方で攻撃を繰り出す事でさらに速くなっている。
槍を受け止めようが受け流そうが、何故か速度が増していくのだ。
一度"隙あらば攻撃をくわえる"などという考えは捨て、防御へと全神経を注ぐ。
その判断は功を奏したようで、槍での攻撃だけでなく別方向からの魔法による攻撃も加わってきたが何とか対応が間に合った。
なるほど、魔法戦闘と近接戦闘の次はその両方を織り交ぜた戦闘への応対試験というわけだ。
縦横無尽に迫りくるその攻撃に対応するうちに、何故か気分が高揚してくる。
もう殺意など毛ほども気にならなくなってきた。
きっと今自分は、目の前で繰り広げられる武人の"演武"とも"演舞"ともとれるその技に見入っているのだ。
この素晴らしい技に対応できるという事実が嬉しく、そして楽しくて仕方がないのだ。
自分の長所はポルテジオによる防御能力。
それを最大限生かすのに必要なのは"どこから攻撃が来るのか"をいち早く理解し、対応できるだけの能力であった。
だからこそおじいちゃんはこの半年の間、ひたすらに長所を伸ばすための特訓を繰り返してくれたのだ。
自分にはソフィアの様などれか一つでも属性魔法を極められるような才能も、サキトの様な卓越した身体強化の感覚も、アイラの様な魔法に対する知識も無いが、幸いな事に魔力制御の才能と攻撃に対する感知能力はあった。
確かに自分の能力ではティストさんに掠り傷すら与えることは出来ないだろう。
だが今はそんなものは必要ない。
対人用の魔法を覚えたいなどと思っていた時期もあったが、今はただひたすらに長所を伸ばすための特訓をしてくれたおじいちゃんとテッチに感謝しかない。
試験だとかそんなことはもうどうでもいい。
(――いや、どうでも良くはないな)
残っていたなけなしの理性でなんとか気が付いたが、それならば尚更だ。
この武人にただ自分に出来る事を――積み重ねてきたものを見せるのだ。
そうして相対しているうちに、ひょっとしたら掠り傷を与えられるかもしれない方法を思いつく。
試験の事を考えれば攻撃能力が一切ないと思われるのもマズい気がするので、実行に移してみよう。
防御に全て割いていたリソースを僅かに、本当に少しずつ切り分けていき、ほんの小粒程の余裕を生み出す。
――既に垂直にしか展開できなくなっていたポルテジオを、一つだけ傾けられる程度の余裕を――
思惑通り"跳弾"した魔法で生み出された氷弾が、放った本人――ティストさんへと返っていく。
いわゆるカウンターだ。
ひたすら防御に努めていた自分からの思わぬ反撃に少しぐらい焦るかとも思っていたが、ティストさんは自分から一度距離を取る事でそれを躱した。
「あっ……」
離れたという事は結果的に演舞は終了してしまったわけで――
「なんでせっかく終わりにしてやったってのに残念がってんだボウズ……。攻められて喜ぶったぁ随分とアレな性癖だなぁおい……」
「なっ!? べっ、別にそういうわけじゃないですよ!?」
「どうだかなぁ……まあいい。妨害がクッソ下手くそだったから少し心配だったが、どうやら"不可侵領域"はちゃんとあるみたいだしな。――しかしまあ、私にカウンターしかけるったぁ随分と強気なことだなぁおい?」
なんだろうか。
初めて聞く言葉があったが、それ以上にティストさんが少し悪い顔をしているのが気になる。
嫌な予感がして冷や汗を流していると、ティストさんは予想だにしていなかった――
「最終試験だボウズ。――精霊化して私に攻撃してきてみろ」
――いや、考えないようにしていた事を要求してきたのであった。
0
あなたにおすすめの小説
ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした
むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。
配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。
誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。
そんなホシは、ぼそっと一言。
「うちのペット達の方が手応えあるかな」
それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』
チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。
その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。
「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」
そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!?
のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる