アポロの護り人 ―異世界夢追成長記―

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第二章 軍属大学院 入学 編

77.人それぞれの嗜好-Ⅲ

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 気を引き締めたところでティストさんが地面を蹴り、三十メートル以上あったその距離を一瞬で詰めてくる。
 相変わらずふざけた身体の強化練度だ。
 一瞬ならまだしも常にこの速度で動くのだから尚更ふざけている。
 正直、肉眼では捉えきれないが――

(近接戦闘に於いて重要なのは動体視力よりも魔力探知による感知の詳細度だ)

 目では把握しきれずとも、そこに感知で得た情報が加わればこの程度の速度はどうという事は無い。
 槍の間合いまで自分に接近したティストさんは体の右側に構えたその槍で――

(いきなり搦め手か)

 右手一本で自身の頭の後ろから突きを放ってきた。
 確かに自分からは死角になっていた位置だが、感知できれば何という事は無い。
 おじいちゃんと同じく片手とは思えない程に力の籠っているであろうその突きを、ポルテジオを斜めに展開して受け流す。
 垂直に展開して受け止めても良いのだが、せっかくティストさんはこの力に対して初見なのだ。
 想像以上に受け流された力に一瞬でも動揺してくれれば掠り傷くらいなら与えるチャンスがあるかもしれない。
 しかし、槍は受け流された瞬間にぴたりと止まり、一切の動揺を見せることなくそのまま流れるように左足を軸にして後ろ回し蹴りを放ってきた。

 それも確かに速いが既に軌道上にはポルテジオを力に対して垂直に展開している。
 今のティストさんは自分に背を向けている状態だ。
 動きが止まれば攻撃を叩き込める。
 左手を瞬時に強化して、一歩踏み込み抉るような掌底を放――とうとしたが、慌てて踏み込もうとした左足の裏にポルテジオを展開して踏みとどまる。
 ティストさんの左足から地面に流れる魔力を感知したからだ。
 案の定本来左足を踏み込むはずであった場所からは鋭く太い岩が飛び出してきた。
 踏み込んでいれば確実に体勢は崩されていたであろう。

 飛び出した岩は前方の視界を塞ぐが、その向こうにティストさんは既に居ない事は感知済みだ。
 岩の魔法発動時に自分が地面を注視し、ティストさんから目線を外してしまった時には既に自分の右側面に移動を始めていたのだ。
 感知していなければ確実に防御が間に合わなかったであろうその薙ぎ払いを受け流し、槍を振りきったその体に一撃叩きこもうと動くが、ティストさんの次撃の方が速い。

(速すぎだろッ――!)

 そのまま舞うように槍を振り回しだし、速度は上昇していく。
 ただでさえ速いその攻撃速度は、一回の回転中に穂先と石突きの両方で攻撃を繰り出す事でさらに速くなっている。
 槍を受け止めようが受け流そうが、何故か速度が増していくのだ。
 一度"隙あらば攻撃をくわえる"などという考えは捨て、防御へと全神経を注ぐ。
 その判断は功を奏したようで、槍での攻撃だけでなく別方向からの魔法による攻撃も加わってきたが何とか対応が間に合った。
 なるほど、魔法戦闘と近接戦闘の次はその両方を織り交ぜた戦闘への応対試験というわけだ。
 縦横無尽に迫りくるその攻撃に対応するうちに、何故か気分が高揚してくる。
 もう殺意など毛ほども気にならなくなってきた。
 きっと今自分は、目の前で繰り広げられる武人の"演武"とも"演舞"ともとれるその技に見入っているのだ。
 この素晴らしい技に対応できるという事実が嬉しく、そして楽しくて仕方がないのだ。

 自分の長所はポルテジオによる防御能力。
 それを最大限生かすのに必要なのは"どこから攻撃が来るのか"をいち早く理解し、対応できるだけの能力であった。
 だからこそおじいちゃんはこの半年の間、ひたすらに長所を伸ばすための特訓を繰り返してくれたのだ。
 自分にはソフィアの様などれか一つでも属性魔法を極められるような才能も、サキトの様な卓越した身体強化の感覚も、アイラの様な魔法に対する知識も無いが、幸いな事に魔力制御の才能と攻撃に対する感知能力はあった。
 確かに自分の能力ではティストさんに掠り傷すら与えることは出来ないだろう。
 だが今はそんなものは必要ない。
 対人用の魔法を覚えたいなどと思っていた時期もあったが、今はただひたすらに長所を伸ばすための特訓をしてくれたおじいちゃんとテッチに感謝しかない。
 試験だとかそんなことはもうどうでもいい。

(――いや、どうでも良くはないな)

 残っていたなけなしの理性でなんとか気が付いたが、それならば尚更だ。
 この武人にただ自分に出来る事を――積み重ねてきたものを見せるのだ。

 そうして相対しているうちに、ひょっとしたら掠り傷を与えられるかもしれない方法を思いつく。
 試験の事を考えれば攻撃能力が一切ないと思われるのもマズい気がするので、実行に移してみよう。
 防御に全て割いていたリソースを僅かに、本当に少しずつ切り分けていき、ほんの小粒程の余裕を生み出す。

――既に垂直にしか展開できなくなっていたポルテジオを、一つだけ傾けられる程度の余裕を――

 思惑通り"跳弾"した魔法で生み出された氷弾が、放った本人――ティストさんへと返っていく。
 いわゆるカウンターだ。
 ひたすら防御に努めていた自分からの思わぬ反撃に少しぐらい焦るかとも思っていたが、ティストさんは自分から一度距離を取る事でそれを躱した。

「あっ……」

 離れたという事は結果的に演舞は終了してしまったわけで――

「なんでせっかく終わりにしてやったってのに残念がってんだボウズ……。攻められて喜ぶったぁ随分とアレな性癖だなぁおい……」

「なっ!? べっ、別にそういうわけじゃないですよ!?」

「どうだかなぁ……まあいい。妨害がクッソ下手くそだったから少し心配だったが、どうやら"不可侵領域"はちゃんとあるみたいだしな。――しかしまあ、私にカウンターしかけるったぁ随分と強気なことだなぁおい?」

 なんだろうか。
 初めて聞く言葉があったが、それ以上にティストさんが少し悪い顔をしているのが気になる。
 嫌な予感がして冷や汗を流していると、ティストさんは予想だにしていなかった――

「最終試験だボウズ。――精霊化して私に攻撃してきてみろ」

――いや、考えないようにしていた事を要求してきたのであった。




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