101 / 163
第二章 軍属大学院 入学 編
92.それでも肩書は偉大-Ⅱ
しおりを挟む「あ……開けるよ……?」
「何だかこっちまで緊張してきちゃうじゃない……。さっさと開けなさいよ」
慎重に慎重を重ねて箱の蓋を開けると、中には確かに腕時計が入っていた。
やたらと頑丈そうな金属製の腕時計で、あれだけの重みがあったのも納得できる見た目である。
時計部分にはむき出しの歯車の様な無数の魔方陣を背景に針が動いており、見る限り確かにただの腕時計だ。
腕時計の話をしていた時のアイラが何か悪い顔をしていたので、下手をすれば大量の宝石で飾られた様な凄まじい腕時計でも出てくるのではと心配していたのだが、どうやら取り越し苦労だったようだ。
「どうよ? あんたの要望通り"シンプルに時間だけわかる"時計でしょ?」
「う、うん……確かにそうだね……」
何だろうか。
そこはかとなく嫌な予感がして仕方がないが、確かに自分の要望通り"シンプルに時間だけわかる"時計だ。
ひょっとしたら自分はアイラの純粋な善意を疑い過ぎていたのかもしれない。
これは申し訳ない事をしてしまった。
アイラに一言詫びを入れようと口を開こうとしたその時、自分よりも先にサキトがアイラに向けて質問を飛ばす。
「で? アイラのことだからこの腕時計何かしら凄ぇんだろ? どこが凄ぇんだ? 見た感じ本当にただの頑丈な腕時計って感じだけどな」
「ふっふっふ……聞いて驚きなさい! この腕時計はなんとグランツ商会とあのゼムナス閣下との共同開発第一号――の試作品なのよ!」
ゼムナス閣下とはいったい誰の事だろうか。
というよりも、やっぱりただの時計ではなかった様だ。
「マジかよ!? ゼムナス閣下ってあのゼムナス閣下だろ? よくわかんねぇけど凄ぇ!」
サキトの反応を見る限りかなり有名な人の様だが、重要な何がどう凄いのかが全くわからない。
そもそもサキト自身も何が凄いのかがわかっていない様子だ。
埒が明かないので聞いてみる。
「えーっと、そのゼムナス閣下って誰なの?」
「現在この国の宰相をされている方の事ですよ。長年に渡って帝国の政に携わって皇帝陛下を支えてきた名相なんです。……でもアイラちゃん、ゼムナス閣下と腕時計の共同開発ってどういう事?」
ソフィアのおかげでゼムナス閣下とやらについては何となくわかったが、どうやらソフィアもこの腕時計がどう凄いのかについてはわからない様だ。
となればこれはもうアイラに聞くしかあるまいと、サキトとソフィアと共に視線を向けると――
「しっかたないわねぇ! 私が分かりやすく教えてあげるわ! じゃあサキト、一般的な時計において一番よく言われている問題点は何かわかる?」
「んー……、寝ぼけて思いっきり目覚まし止めたら壊れちまった所とかか?」
「あんたに聞いた私が間違いだったわ……。っていうかまさかあんたまた壊したの?」
「いや、今朝のアレは正直不可抗力というかだな……」
「しかも今朝の話なんだねサキトくん……」
何にどう不可抗力が働くと目覚まし時計が壊れるのかはわからないが、なんともサキトらしい日常エピソードである。
というよりも確かこの世界の生活用品には程度に差はあれど、基本的に魔方陣魔法による強化術式が付与されているはずなのだが、いったいどれほどの怪力を発揮したのだろうか。
「まあいいわ……。じゃあソフィア、わかる?」
「えーっと、定期的な魔力補給と時刻修正がいること……かな?」
「まあ概ね正解ね。腕時計に関しては使用者から魔力を直接補給するからある程度マシだけど、設置型の時計っていうのは魔力残量と魔方陣を描くのに使われている素材の循環効率の影響でちょっとずつ時間がずれていっちゃうのよね」
何か難しい事を言っているが、要するにこの世界の時計はそれ程正確に時間を刻めないということなのだろうか。
でもだとしたら――
「時計がちょっとずつずれちゃうなら、何で時間合わせるの?」
そんな自分の素朴な疑問に、アイラが答える。
「ああそっか、知らないのよね。魔力の循環効率が一番良い素材がピカレスの木って事は知ってる?」
「うん、何となくは……」
前にそんなことをおじいちゃんが言っていたはずだ。
「そのピカレスの木を魔方陣に使った"標準時計"ってものが王城の一般人でも入れる場所にあるのよ。それを見て時間を合わせるってわけ。ピカレスの木を材料につかった時計なんて持ってる人がいるわけないしね」
「俺なんかは質の悪い魔力粉使ってる安物使ってるから二週間に一回くらいは合わせないといけねぇんだけど、王城まで行くのがめんどくせぇからさ。定期的に時計の時刻修正してくれてる近所の店とかで合わせてるぜ」
恐らく殆どの人がサキトの言う様な合わせ方をしているのだろう。
魔力粉とは確か、初めて魔法を使った時に得意属性を調べるのに使った粉だったはずだ。
「安物だとそんなに頻繁に合わせないとダメなんだ……」
つまりこの世界での時計の価値というのは、装飾やデザインよりもまずは時間の正確性だというわけだ。
当たり前ではあるが、確かに最も重要でわかりやすい価値だ。
0
あなたにおすすめの小説
ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした
むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。
配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。
誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。
そんなホシは、ぼそっと一言。
「うちのペット達の方が手応えあるかな」
それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』
チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。
その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。
「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」
そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!?
のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる