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第二章 軍属大学院 入学 編
93.それでも肩書は偉大-Ⅲ
しおりを挟む「ピカレスの木の次に循環効率が良いのが"魔銀"っていう素材で、まあこれもべらぼうに高値なんだけど、それを使った時計なら大体半年に一回くらいでも大丈夫なはずよ」
そう言ったアイラは一拍呼吸を置くと、ここからが本題だとばかりに声を弾ませて続ける。
「それでその時計のどこが凄いかっていうのはね! その時刻修正をゼムナス閣下が遠隔で行ってくれるところなのよ!」
「ナ、ナンダッテー!?」
「ふふん♪ まあ驚くのも無理はないわ」
正直どれほど凄い事なのかわかっていないが、上機嫌なアイラは自分の相槌が棒読み気味であることに気が付いていない様子だ。
しかし他の二人は自分とは違う様で――
「す、凄ぇ! そんな事できんのかよ!?」
「い、いったいどうやってそんな事実現させるのアイラちゃん!?」
「ふっふっふ、そんなに知りたいっていうなら教えてあげるわ!」
自分だけなんだかこの場のテンションに置いて行かれている気がする。
貰った本人であるはずなのに若干蚊帳の外気味になっている自分を余所にアイラは説明を始める。
「知っての通りゼムナス閣下は波動のシエラの使い手よね? この腕時計にはゼムナス閣下の放つ特殊な波動を一種の信号として感知する魔方式を組み立ててあって、帝都内にいる内は標準時計を確認したゼムナス閣下の放つその波動を感知して時間を自動で合わせてくれるのよ!」
自分はもちろん知らなかったが、どうやらゼムナス閣下とやらは波動のシエラというものを扱うらしい。
話を聞く限り、仕組的には前の世界でいう電波時計みたいなものだろうか。
この世界に電波という概念がもしまだ無いのだとすれば、ひょっとしたら世紀の大発見レベルの代物なのかもしれない。
(だとしたらこれ、やっぱり凄く高価な物なのでは……?)
そんな焦りを感じ始めていると、先ほどまで静かに話を聞いていたリーガルさんが話に入ってくる。
「まだ試作段階だけど、十分実用に足りうる状態に仕上がってるからね。帝都ではそれなりに名の知れた商会に成長したおかげで帝国側から何らかの共同開発でもと持ち掛けて貰えたわけだけど、まさかゼムナス閣下に協力してもらえるとは私も思っていなかったよ」
まさかの国家プロジェクト並みの代物であった。
やばい。
絶対に凄まじい価値のある物だこれは。
そんな自分の不安を余所にリーガルさんはさらにとどめを刺すかの如く続ける。
「あとその試作品が上手く動作すれば今度は低コスト版での試作品も作る予定なんだ。そして行く行くは一般層にも手が届くレベルにしたいと思っているから、こちらから一方的にあげておいて何ではあるけど、使用感などをアイラを通してでも教えてもらいたいんだが、良いかなタケル君?」
「え? あっ、はい」
つまり話から察するにやはりこの腕時計は高コスト版だというわけだ。
こんなの情報の提供を断れるわけがないではないか。
寧ろ不慮の故障などが怖くて持ち歩けず、使用データを得られないまである。
と、そんな自分の心配を感じ取ったのかは知らないが――いや、十中八九感じ取ってはいないが、アイラが有益な情報を口にする。
「ああそれと、その腕時計壊れたら困るからかなり強力な強化術式組み込んであるから、とりあえず故障の心配はしなくてもいいわよ。たぶんサキトが全力で殴っても大丈夫なくらいにはカッチカチよ」
なるほど。
それならばとりあえずは安心できそうだ。
「おっ! じゃあちょっと試してみようぜ!」
先ほどの発言に何か対抗意識が芽生えたのかは知らないが、サキトがとんでもない事を言い出した。
しかしそんなぶっとんだ対抗意識も次にアイラの放った言葉で鎮圧される。
「やりたきゃやれば良いけど、その腕時計であんたの目覚まし時計二千個は余裕で買えるわよたぶん」
「よし! 大事に使えよタケル!」
「も、もちろん……」
これで三人とようやく貸し借り無しの関係になれると思えば――いや、そう考えてもやはり自分の身にはそぐわなさすぎる気がする。
しかし折角貰ったのだ。
高かろうが安かろうが、出来るだけ長く大事に使うというのが大前提の礼儀というものであろう。
「――うん。ありがとうアイラ。大事に使わせてもらうよ」
こうして、色んな意味でずっしりと重い腕時計を得たのであった。
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