アポロの護り人 ―異世界夢追成長記―

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第二章 軍属大学院 入学 編

95.帝都観光-Ⅱ

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(そう! これだよこれ! この触り心地だよ……)

 久しぶりに感じるさらりとしたその感触に少しばかり感動を覚える。
 右手で、小さな瓦屋根によって陽を遮られてひんやりとしている部分を触り、左手ではその下の日光に温められた部分を触る。
 夏の暑い日には日陰となった場所にある土壁に触れる事で体から熱を奪ってもらい、冬の寒い日は日光から蓄えたその熱を供給してもらう。
 そして春と秋はその日の好みでどちらも楽しめるという卓越したスポット。
 そう、自分は今、東の貿易区画の人々の居住区画を囲む白い土壁に触れているのだ。
 これほど長く伸びる土壁はなかなかにお目にかかれないのだが、それ以上にこれほど綺麗に均等に塗り固められた土壁なぞ、なかなかどころか初めて見たというレベルかもしれない。
 所々に小さな穴がぽつぽつと散見され、少しばかりデコボコした様な土壁も、人の手で作られたという事がひしと感じられて良いのだが、このやすりをかけた木材を思わせるきめ細かさの土壁が果てしなく伸び行く様には言葉もなく圧倒されてしまう。
 しかし、触れた部分から伝わるものには大きな相違は無く、人々の雑踏が溢れる中であっても不思議と安心感を得られる。
 状況が状況なら下手をすればこのままの体勢で眠る事さえもできるかもしれない。

(昔はよくもたれかかったまま寝ちゃってたよなぁ……)

 背中から感じるじんわりとした温もりには、眠気を誘う様な効果があったように思う。
 コンクリートブロックや木材で出来た外壁は、ゴツゴツしていたり雨風に晒された影響でささくれ立っていたりと、体重を預けるのには適していない事が多いため、このくつろぎ方はまさに滑らかな肌触りの土壁ならではと言ったところであろう。

(ああ……ちょっともたれかかってみようかな……)

 そうして危うく頬までつけて夢の世界へと誘われそうになっていた自分を、サキトの声が呼び止める。

「お、おいタケル!? 大丈夫か!? ひょっとして昨日までの疲れが残ってんじゃねぇのか?」

「へ? い、いや、大丈夫だよ。ちょっとあんまりにも肌触りが良かったから……」

「ああ、別に気を失って倒れかけたわけじゃないのね……。なに? 昨日『良い地面だ』とか言ってたのといい、土が好きなのあんたは?」

 若干呆れ気味にアイラがそんな事を言ってきた。
 なるほど、傍から見るとそんな風に見えてしまっていたのか。
 というよりも、その解釈は少しばかり違う。
 あくまでも土壁という場所が心地よいのであって、土が好きなわけではないのだ。
 そもそも昨日のは誤魔化すためにああしただけなのだが、まあそれはアイラたちの知る所ではないので仕方がないだろう。
 アイラとサキトは「変な奴だな」とでも言いたげな視線をこちらに向けてきているが、ソフィアだけは違った反応を示す。

「わかりますかタケルくん! 曾おじい様から聞いたんですけど、この外壁を作る時にちゃんと現地から職人を呼んで作ったらしいんですよ! 私も昔からこの土壁に囲まれて過ごしてたので、タケルくんのその『つい触りたくなっちゃう』って気持ち凄くわかります!」

 目を輝かせながら土壁へと触れたソフィアは、頻りに何かを確かめているかの様に頷いている。
 どうやらソフィアも同士の様だ。
 ちなみに精霊ズはというと、テッチは特に何をするでもなく地面に座っており、キュウとロンドは外壁の屋根瓦の上で一緒になって丸まっている。
 土壁とは少し違うが、きっと屋根瓦も陽を浴びて良い感じに暖かくなっていて、下からは瓦の、上からは日光の熱でじんわりと温められて気持ちが良いのであろう。
 まるで眠っているかの様に穏やかだ。

「まあ楽しいならそれでも良いけど、あんまりここで時間使い過ぎたら見て回れる場所が減るわよ?」

 状況を見かねたアイラのそんな発言は、至極御尤もである。
 名残惜しいが土壁から手を離し、尚も瓦の上に陣取るキュウとロンドを両手で掬い取る様に持ち上げる。
 驚いたような反応を見るに、どうやら本当に寝ていたようだ。
 キュウも名残惜しそうであるので、今度また連れてきてあげる事にしよう。
 ロンドもソフィアの肩へと戻った所で、改めて皆で居住区域の中へと入っていく。
 中の通りには人の気配はあまりない。
 きっと昨日通った西側の居住区画と同様に、殆どの人が貿易区画へと働きに出かけているのだろう。

(あぁ……やっぱり似てるな……)

 家と家とを遮るように作られた人の高さ程の塀も、大通りと私有地を隔てるように構えられた木製の引き戸の門も、軒先の深くなった瓦屋根も、何もかもがかつて自分の過ごした世界で毎日の様に目にしていた建築様式のそれだ。
 ちらりと見えた庭先やベランダに置かれた物干し竿には洗濯物がかけられており、そよ風に揺られながら天日干しされている。
 道沿いには電柱や電線の様なものや、街灯の様なものが等間隔にたてられ、電線の上で小さな鳥が並びながら小さく鳴きあう様も見ていて何か懐かしい気持ちになってくる。
 対面側の塀の上には猫が歩き、自分と目が合うとしばらく見つめあった後に家と家の間に消えていった。
 しかし、少しばかり懐古心をくすぐられはしたが、思っていたほどの元の世界に戻ったような錯覚に陥らない。
 それはきっと、石畳の敷かれた大通りを馬車が走っているためであろう。
 線のひかれたアスファルトの上を走る自動車など、この世界には存在しないのだ。

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