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第二章 軍属大学院 入学 編

96.帝都観光-Ⅲ

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「どうですかタケルくん? その……西のビル群みたいにインパクトは無いかもしれませんけど……」

 どこか自信無さ気にソフィアがそんな質問をしてくる。
 ソフィアにとっては自分の家が治める都市の建築様式なわけで、感想が気になるのだろう。
 確かにビル群程のインパクトは無いかもしれないが――

「僕は正直、こっちの景色の方が落ち着けて好きだよ。凄く懐かしいし――」

「そ、そうですか! それなら良かったです!」

 街の様子を褒められたソフィアは嬉しそうにしているが、自分は内心少し焦っていた。
 失言に気が付いたからである。
 うまく聞き流してくれていると良いのだが――

「ん? タケルお前今『懐かしい』って言ったか?」

「え? う、うん、言った……かな?」

 目ざとそうなアイラ辺りに気が付かれないかと焦っていたのだが、まさかサキトにそこを言及されるとは思ってもいなかった。
 意外とサキトも目ざといのかもしれない。

「『懐かしい』ね……。この建築様式で街が作られてるのって、ここかラグルスフェルト近辺くらいよねソフィア?」

「へ? う、うん。そのはずだよ」

「それでいて帝都に見覚えがないって事は、タケルってもしかしたらラグルスフェルト近辺の出身って事なのかしら?」

「そっ、そうなんですかタケルくん!?」

「さ、さぁ……どうかな……?」

 案の定アイラによる推理が始まってしまった。
 記憶喪失の奴が「懐かしい」なんて言ってしまえばそりゃあ記憶の手がかりだと思われてしまうだろう。

(どうやって誤魔化そう……いや、別に問題はないか?)

 別に"東の都市の出身かもしれない"となるだけなので特に問題も無いように感じる。

(じゃあもうそういう事にして乗り切れば――)

「ねえソフィア、領地にいる人の中から『スドウ』って家名の人探したりって出来ないの? ひょっとしたらタケルと関係ある人がいるかもしれないじゃない」

「た、確かにそうだね! わかった! 今日帰ったらお父様に出来るかどうかお願いしてみるね!」

 マズい方向に話が進みだしてしまった。
 このままではソフィアのお父さんやその他の人に一生見つからない自分と縁のある人探しをさせてしまう事になってしまう。
 それどころかもし下手に『スドウ』という家名の人が見つかってしまった場合、それが一番厄介だ。
 きっと優しいソフィアたちはその人と自分を会わせようとすると思うのだが、自分はその人が確実に他人であると知っているわけである。
 いったいどんな顔をして対面すればいいというのであろうか。
 これは何としても阻止しなくてはならない。

「い、いや、別にいいよソフィア。もし見つかっても縁のある人の可能性なんて殆ど無いだろうし……」

「家名が先についてて尚且つラグルスフェルト近辺に住んでる『スドウ』なんて、もし居たらほぼほぼビンゴに決まってるじゃない」

 自分の苦し紛れに絞り出した、なけなしの可能性を秘めた言葉に対してアイラが無慈悲な反論を返してきた。
 そういえば前に「家名が先に来るのは北西部の出身」的な事を言っていた気がする。
 そりゃあもし居れば確かにビンゴであろう。

「い、いや……でも……」

 尚も口ごもっていると、ソフィアが少し寂し気な表情で口を開いた。

「遠慮なんてしなくても良いんです。昨日、お互いに出来る事で助け合おうって言ったじゃないですか。私にもタケルくんの手助けをさせてください」

「ッ――」

 本当に自分が記憶喪失であるのなら、この言葉は本当に嬉しい限りの言葉であるはずなのだが、ソフィアの善意を自分の嘘で踏みにじっているのだと考えると、罪悪感で押しつぶされそうだ。

(あぁ、やっぱり嘘なんてつくもんじゃないな……)

 嘘をつけば必ず報いが返ってくるなどとはよく聞くが、ある程度仕方ない事だったとはいえやはり嘘をつくべきではなかったのだろう。
 しかも罪悪感のせいで余計に嘘である事を明かし難くなるというオプションまでついてきている。
 もし嘘だと明かして今更「異世界から来た」などと言っても、現実味の欠片も無いそれはきっと助けを拒むための嘘だと受け取られ、昨日の約束を反故にしようとしていると思われるかもしれない。
 あの小さな嘘が斯くも恐ろしいものになるとは思ってもいなかった。
 少なくとも自分は、誰かを心配させるような嘘をつくべきではなかったのだろう。

「うん、わかった。お願いするよ……」

 結局自分には、嘘に嘘を上塗りすることも、勇気をもって嘘を明かす事も出来なかった。
 キュウと接する様に、彼女らに自分の心とその中にある景色をそのまま明かす事が出来たならばどんなに楽だったであろうかと、自分に笑顔を向ける彼女らを見ながら心底思ったのであった。




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