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第二章 軍属大学院 入学 編
114.姉の願い-Ⅲ
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「そう? じゃあ納得してくれた所で、私からタケル君の力を見込んで一つお願いがあります」
自分の頭から手を離したリオナさんは、人差し指を立てながらそう話しはじめた。
「お願い、ですか?」
「そう、お願い。私は今あなたに"反省"とそれに伴う"行動"についてお話したじゃない?」
「は、はい」
自分がおずおずと打った相槌を確認して、リオナさんは少し笑いながらさらに続ける。
「別に難しい話じゃないからそんなに身構えないでもいいわよ。今回の事で私は『キーくんたちについて行って守ってあげればよかった』って"反省"したわけです。でも、いつでもどこでも私がキーくんの傍についているっていうのは正直無理じゃない?」
「無理なんですか?」
「そうねぇ、この学校に入ったら講義の一環として色々依頼を受けて外に出たりもするんだけど、私がついて行っちゃうとキーくんに成績がつかなくなっちゃうのよねぇ……。今回だって私が一緒だったらキーくんたちの試験にならないでしょ?」
今日の特訓で本当に思い知ったのだが、初対面の時に感じた通りにリオナさんはとんでもない強者だ。
初級の魔法とはいえ、この三時間で一セット当たり五百発近くの魔法を三十四セットも放っているのだ。
自分にはキュウがいるので麻痺しがちだが、これはとんでもない魔力量だと思う。
ちなみに自分の本来持っている魔力量だと、たぶん百発くらいでガス欠になるはずだ。
まあ自分のへなちょこ具合はさておき、それだけの魔力量を持ちつつ、さらにティストさんに勝るとも劣らないレベルの魔力制御力も持ち合わせているのだ。
いくら連携をとってきたとはいえ、あの程度の魔物たちに負けるわけもない。
「確かに、試験にならないですね」
「でしょ? だからそんな時のための"行動"として、私がいっぱい特訓してあげるから、私が一緒にいられない時にまた何かキーくんが危なくなったら、助けてあげて欲しいなっていうお願いなの!」
「えっと……それって取り引きというものなのでは……?」
自分がそう返すと、リオナさんは少しむくれながら返答してくる。
「もー、『弟の友達と弟に関しての取り引きする』ってなんだか人聞き悪いじゃない!」
確かに。
何か悪い事でもしてそうな感じがしなくもない。
リオナさんはさらに続ける。
「それに、どっちみちティスト様にタケル君の特訓をつけるようにって言われてるから、そもそも取り引きにすらならないのよね。だから"お願い"なのよ。とりあえず私の見立てとしては、あなたの今の力ならそれなりに色々と切り抜けられると思うし」
「か、買い被りすぎじゃないですかね……?」
帝都に来てからというもの、自分より遥かに強い人とぽんぽんと出会い過ぎているためか、森を出た時程の「なんとかできる」という自信はなくなっている。
「護りたい」という意思に対する現状の技術の不足具合をよく理解したといった感じだろうか。
「確かに拙い部分は色々あるけど、防御面に関してはなかなかだからもっと自信をもって大丈夫よ? その拙い部分をどうにかするために私が特訓するわけだし!」
そう言うとリオナさんは一度仕切りなおすかのように咳ばらいをして、再び口を開いた。
「まあ端的に言うと、『これからもキーくんをよろしくね』って事なんだけど、お願いできるかな?」
本当に端的だが、含まれている内容を知った身としてはかなり責任重大だ。
だが、そういう事ならば――
「はい、もちろんいいですよ! というか、そもそもサキトとそういう約束しましたしね。『お互いに助け合おう』って。リオナさんも聞いてたじゃないですか」
「うふふ、そうね。でもお姉ちゃんとしてはどうしても心配になっちゃうものなのよ」
そういうものなのか。
「さて、じゃあそろそろ次のセットを――」
休憩の終わりを告げようとしたリオナさんの声を遮ったのは、エレベーターの到着を知らせる鉦の音だった。
(いや、というかあれは結局エレベーターなのか?)
などと考えていると、中から一人の女性が出てきた。
肩までは届かない程度の長さの黒髪を右側だけ三つ編みにしており、動くたびに小さく揺れ動いている。
歳の程は見る限り自分とそれ程離れていないと思われる。
例の赤い制服を着ているので、きっとこの学校の学生なのだろう。
女性はリオナさんの傍まで来ると、抑揚の少ない落ち着いた声で喋り始めた。
「こんにちはリオナ先生。今日もよろしくお願いいたします。……ところで、こちらの方はどなたでしょうか?」
「おはようハルカちゃん。この子はこの春からあなたの後輩になる子でタケル君っていうのよ」
「……後輩というのは、この学院に入学するという意味ですか?」
「うーん、それもだけど、どっちかって言うと私の講義を受ける後輩って意味合いが強いかしらね」
「す、須藤武です。よろしくお願いします」
「……なるほど」
「もう少し待っててね。この子の分はもうちょっとで終わるから」
「わかりました」
そう答えるとハルカさんとやらは少し離れた場所に座って、マジックバッグから取り出した本を読みだした。
(何だかやたら無表情な人だなぁ……)
声や表情からまったく感情が伝わってこないのだ。
初めての先輩との人脈なので大事にしたいところだが、仲良くなれるだろうか。
(ん? というか『ハルカ』ってどこかで聞いたような……?)
「さっ、続き始めるわよタケル君! 先輩にあなたの実力を見せてあげるのよ!」
「えっ!? なんですかそのプレッシャーのかけ方……」
そもそも本を読んでいるのだから見ていないのではないだろうか、と。
そんな事を思いながらも、気を抜かず三十五セット目の特訓へと励むのであった。
自分の頭から手を離したリオナさんは、人差し指を立てながらそう話しはじめた。
「お願い、ですか?」
「そう、お願い。私は今あなたに"反省"とそれに伴う"行動"についてお話したじゃない?」
「は、はい」
自分がおずおずと打った相槌を確認して、リオナさんは少し笑いながらさらに続ける。
「別に難しい話じゃないからそんなに身構えないでもいいわよ。今回の事で私は『キーくんたちについて行って守ってあげればよかった』って"反省"したわけです。でも、いつでもどこでも私がキーくんの傍についているっていうのは正直無理じゃない?」
「無理なんですか?」
「そうねぇ、この学校に入ったら講義の一環として色々依頼を受けて外に出たりもするんだけど、私がついて行っちゃうとキーくんに成績がつかなくなっちゃうのよねぇ……。今回だって私が一緒だったらキーくんたちの試験にならないでしょ?」
今日の特訓で本当に思い知ったのだが、初対面の時に感じた通りにリオナさんはとんでもない強者だ。
初級の魔法とはいえ、この三時間で一セット当たり五百発近くの魔法を三十四セットも放っているのだ。
自分にはキュウがいるので麻痺しがちだが、これはとんでもない魔力量だと思う。
ちなみに自分の本来持っている魔力量だと、たぶん百発くらいでガス欠になるはずだ。
まあ自分のへなちょこ具合はさておき、それだけの魔力量を持ちつつ、さらにティストさんに勝るとも劣らないレベルの魔力制御力も持ち合わせているのだ。
いくら連携をとってきたとはいえ、あの程度の魔物たちに負けるわけもない。
「確かに、試験にならないですね」
「でしょ? だからそんな時のための"行動"として、私がいっぱい特訓してあげるから、私が一緒にいられない時にまた何かキーくんが危なくなったら、助けてあげて欲しいなっていうお願いなの!」
「えっと……それって取り引きというものなのでは……?」
自分がそう返すと、リオナさんは少しむくれながら返答してくる。
「もー、『弟の友達と弟に関しての取り引きする』ってなんだか人聞き悪いじゃない!」
確かに。
何か悪い事でもしてそうな感じがしなくもない。
リオナさんはさらに続ける。
「それに、どっちみちティスト様にタケル君の特訓をつけるようにって言われてるから、そもそも取り引きにすらならないのよね。だから"お願い"なのよ。とりあえず私の見立てとしては、あなたの今の力ならそれなりに色々と切り抜けられると思うし」
「か、買い被りすぎじゃないですかね……?」
帝都に来てからというもの、自分より遥かに強い人とぽんぽんと出会い過ぎているためか、森を出た時程の「なんとかできる」という自信はなくなっている。
「護りたい」という意思に対する現状の技術の不足具合をよく理解したといった感じだろうか。
「確かに拙い部分は色々あるけど、防御面に関してはなかなかだからもっと自信をもって大丈夫よ? その拙い部分をどうにかするために私が特訓するわけだし!」
そう言うとリオナさんは一度仕切りなおすかのように咳ばらいをして、再び口を開いた。
「まあ端的に言うと、『これからもキーくんをよろしくね』って事なんだけど、お願いできるかな?」
本当に端的だが、含まれている内容を知った身としてはかなり責任重大だ。
だが、そういう事ならば――
「はい、もちろんいいですよ! というか、そもそもサキトとそういう約束しましたしね。『お互いに助け合おう』って。リオナさんも聞いてたじゃないですか」
「うふふ、そうね。でもお姉ちゃんとしてはどうしても心配になっちゃうものなのよ」
そういうものなのか。
「さて、じゃあそろそろ次のセットを――」
休憩の終わりを告げようとしたリオナさんの声を遮ったのは、エレベーターの到着を知らせる鉦の音だった。
(いや、というかあれは結局エレベーターなのか?)
などと考えていると、中から一人の女性が出てきた。
肩までは届かない程度の長さの黒髪を右側だけ三つ編みにしており、動くたびに小さく揺れ動いている。
歳の程は見る限り自分とそれ程離れていないと思われる。
例の赤い制服を着ているので、きっとこの学校の学生なのだろう。
女性はリオナさんの傍まで来ると、抑揚の少ない落ち着いた声で喋り始めた。
「こんにちはリオナ先生。今日もよろしくお願いいたします。……ところで、こちらの方はどなたでしょうか?」
「おはようハルカちゃん。この子はこの春からあなたの後輩になる子でタケル君っていうのよ」
「……後輩というのは、この学院に入学するという意味ですか?」
「うーん、それもだけど、どっちかって言うと私の講義を受ける後輩って意味合いが強いかしらね」
「す、須藤武です。よろしくお願いします」
「……なるほど」
「もう少し待っててね。この子の分はもうちょっとで終わるから」
「わかりました」
そう答えるとハルカさんとやらは少し離れた場所に座って、マジックバッグから取り出した本を読みだした。
(何だかやたら無表情な人だなぁ……)
声や表情からまったく感情が伝わってこないのだ。
初めての先輩との人脈なので大事にしたいところだが、仲良くなれるだろうか。
(ん? というか『ハルカ』ってどこかで聞いたような……?)
「さっ、続き始めるわよタケル君! 先輩にあなたの実力を見せてあげるのよ!」
「えっ!? なんですかそのプレッシャーのかけ方……」
そもそも本を読んでいるのだから見ていないのではないだろうか、と。
そんな事を思いながらも、気を抜かず三十五セット目の特訓へと励むのであった。
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