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第二章 軍属大学院 入学 編
115.良薬は口に苦いし酸っぱいし-Ⅰ
しおりを挟む特訓の開始は、いつものあの感覚が教えてくれる。
魔力探知が攻撃の侵入を告げるのよりも幾許か早く脳裏を走るその感覚に従い、ポルテジオの発現の準備を整え、魔力探知から得られる情報を基に的確な位置へと発現させる。
――やはり自分はこの感覚が好きだ。
最初の頃はただがむしゃらに防御していたために特に他の事を考える余裕などなかったが、ほんの少し慣れてきた今ならば色々と感じる事ができる。
――ただ一つの事に集中する没入感。
周囲で巻き起こる魔力の爆発の音も今では一切気にならない。
――周りで起きる事象の全てを脳内で把握し、一歩たりとも動くことなくその全てに対応できているという高揚感。
一応目を開けてはいるが、この調子なら視覚情報すらも必要ないかもしれない。
――じりじりと何かの神経が高負荷によって圧迫されていく緊迫感。
こんな言い方をするとまたキュウに勘違いされるかもしれないが、スリルが楽しいとでも言うのだろうか。
だんだんと脳が熱を帯びていく様なこの感覚がたまらない。
――そして、確と自分は成長していると感じられる愉悦感。
今では、生まれた余裕を使い跳弾させた魔力を別の魔力にあてて爆発させ、手の空いたポルテジオを他の魔力へと回すなんて芸当すら出来る様になっている。
そうして生まれた更なる余裕を使って防御を最適化していくのだ。
止める、弾く、無視する、流す。
その内一つとて判断をミスしてはならないという緊張感も、また良い物だと感じ始める。
たった十秒程度の出来事ではあるが、これほど充実した時間もなかなかないだろう。
もうすぐこの感覚が終わってしまうのが残念だとすら感じる。
――十秒間しか安全に対応していられない自分の能力が口惜しいくらいだ。
そんな余裕をぶっこいていた自分の目には、リオナさんの意味深げな笑みが映っていた。
―――――――――――――――――――――――――――――
「…………」
自分は今、倒れているのだろうか。
攻撃されている感覚が消えたのは確認したが、それから後の自分の状態がさっぱりわからない。
というより、呼吸は出来ているのだろうか。
「――!? ――!」
「――」
誰かの話す声は辛うじて聞こえるのだが、自分の呼吸音が聞こえない気がするのだ。
いや、正直思考がぼんやりして話している内容もいまいち理解ができないのだが。
頬に何かしっとりした物が当たる。
キュウが舐めているのだろうか。
不安そうにしている気がするので、安心させるために撫でてやりたいのだが、腕を動かせる気が全くしない。
というより、全身動かせる気がしないのだ。
体があるのはわかるのだが、動けという信号が全く送信されない。
「――? ――!?」
誰かの声が近くでする。
いつの間にか隣に誰か来ていた様だ。
誰なのか確認したいが、顔を動かす事も出来なければ、視界もぼやけてきている。
こんなにも自分の思い通りにならないことばかりなのに、心は不思議とまるで微睡みの中にいるかのように穏やかだ。
(何だか……だんだん……思考が……)
ふと、左手に何かが触れ、そこから何かが流れ込んでくるのを感じる。
その何かが左腕を駆け上がって自分の顔に到達すると、口が勝手に開いた。
続いて口の中に何かが侵入してきたかと思うと奥歯に何かを挟まれた。
(……?)
何が何やらわからないまま、されるがままにされていると、口が強制的に閉じられた。
――瞬間、口内から衝撃が広がる。
「ッ――!?」
果てしなく苦い物と途轍もなく酸っぱい物を混ぜてひたすら煮詰めたうえで長期間放置して腐らせた物を天日干しした後に再びどぶの水で練り直した物の様な臭いと味がする。
自分でもわけがわからないが本当にそんな風味なのだ。
沈みかけていた意識が一気に浮上し、全力をもってその口の中にある物を吐き出そうとするが、万力に固定されたかのように口が堅く閉ざされておりそれは叶わない。
大暴れしたいが、相も変わらず体は言う事を聞かず――いや、何故か少しずつ、本当に少しずつ動き始めている。
暴れようとしている間に口の中にあったものは喉を通って胃の中まで下ってしまっているが、口内は相も変わらず地獄の様相を呈している。
水でもなんでもいいからとりあえず口に含んで洗い流したい。
全身に力を籠めようと拳を握る。
(あれ……? すんなり握れる……?)
その事実に気が付いた瞬間、万力に固定されていた口が開き、とりあえず口内にたまった悪臭を吐き出そうと――はせず、全力で息を吸い込んでいた。
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