アポロの護り人 ―異世界夢追成長記―

わらび餅.com

文字の大きさ
126 / 163
第二章 軍属大学院 入学 編

117.良薬は口に苦いし酸っぱいし-Ⅲ

しおりを挟む
「ああ、だから意識戻ってからも吐き出したいのに口が開かなかったりしたんですかね……」

 神経がおかしくなって信号が届かなかったのなら、まるで万力に固定されたかの様に感じたのも納得だ。

「いや、それは……私がちゃんと効果が出るまで開かないようにしてたからで……」

「へ?」

 しかし自分の予想ははずれた様で、ハルカさんは自身が抑えていたのだと申告してくる。

「いや、でも触られてた感覚ありませんでしたし……あれ? でも神経が麻痺してたなら触られててもわからないか……。いや、でもキュウが舐めてきてたのは感じたし……あれ?」

 自分でも言っていてよくわからなくなってしまい目を白黒とさせていると、その答えはハルカさん自身が与えてくれた。

「その、私のシエラが『力を操る』ってもの、で、その……それで動かないように固定してたの……。その……勝手にあなたの体を操作しちゃって、ご、ごめんなさいっ……!」

 何だかとても後ろめたそうに謝罪をしてくる。
 何を言っているんだこの人は――

「いや、そうしてくれなかったらちゃんと効果でなかったんですよね?」

「う、うん……。たぶん、そもそも、気付け薬を噛み砕けなかったっていうか……。でも、他人に体を操られるのって、気持ち悪いと思うし……」

「いや、命救われて文句あるわけないじゃないですか! 気付け薬にびっくりはしましたけど、やってくださった事には感謝しかないですよ! 本当にありがとうございます!」

「そ、そっか……。うん、ありがと」

「なんで先輩がお礼言ってるんですか……?」

 おかしな人である。

「うふふ、何だかキーくんがタケル君と仲良くなった理由が分かった気がするわ」

「へ? サキトがどうかしたんですか?」

「うんうん、別に何でもないわ♪ あなたたちが似てるなぁって思っただけよ♪」

 今回の件の元凶が何か上機嫌に言っているようだが、まあいいだろう。

「それじゃあ改めまして……。この春からこの学院に通わせてもらう事になった須藤武って言います。今回は本当にありがとうございましたハルカ先輩!」

 命の恩人である。
 最大限の礼をもって、先輩として敬っていこう。

「は、はい、よろしくねー―」

 そこまで言った所で、ハルカ先輩は何か思い出した様な素振りを見せ、一度咳払いをしてから自己紹介をし始めた。

「私は『ハルカ・オシウミ』、あなたの一年先輩になるわね。まあこの"特化魔力制御学"の講義は殆ど私だけしか受けてない様なものだったから、あなたも受ける様になるならよく会う事になるでしょうけど、あなたのシエラとは系統がだいぶ違う様だから、力になれる事は少ないと思うわ」

 何だかまた最初の様な、感情の乏しい抑揚の無い話し方に戻ってしまった。
 最後の方など何だか突き放されている様な印象さえ受けるが、何か気に障る事でも言ってしまっただろうか。
 恩人に失礼な事を言ってしまったかと気を揉んでいると、どこか遠慮がちにハルカ先輩は再び口を開く。

「そ、そんなに落ち込まなくても――ま、まあ多少なら教えられる事もあるかもしれない……から……」

 また表情から感情が駄々洩れになっていたのだろうか。
 しかしこれは別に突き放したわけではないという事ではないか。

「はい! 僕ちょっとわけあって知らない事だらけなので、たぶん色々教えてもらう事になると思いますけど、よろしくお願いします!」

「う、うん……よろしく、ね」

 何やら微妙な反応なのが気になるが、ハルカ先輩からは嫌悪感などではなく、どちらかと言うと申し訳なさそうな雰囲気を感じる。
 いったいどういう事なのであろうか。

「ちょっとハルカちゃん! その言い方だとまるで私の講義が『いつも閑古鳥が鳴いている需要皆無の無駄講義』みたいじゃないの!」

 悩む自分を余所にリオナさんがハルカ先輩に抗議の弁を述べているが、そこまでは言っていないのではないだろうか。

「そ、そこまでは言ってないですよ。需要はあるけど、この講義を学ぶレベルに達している人が少ないだけです」

「本当にぃ?」

 やっぱりそこまでは言ってなかった様だ。
 というより、この特訓は講義の一環だったのか。
 入学前に体験できるとは、何だかちょっと得をした気分である。
 そんな感想を抱いていると、再び鉦の音が鳴る。

「あ、エレベーターが来た」

「エレベーター? あれは『モートゥス』よ?」

「あ、モートゥスって言うんですね。あははは……」

 リオナさんの言から正式名称はモートゥスである事がわかったが、なんだそれは。
 笑って誤魔化したが正直納得がいかない。
 『ビル』は『ビル』のままだったりするに、一緒だったり一緒じゃなかったりするのは何なのであろうか。

(いや、そもそも一緒な方がおかしいのか……? というか今の言い方だとエレベーターも存在してるっぽいな……。いやそもそも――)

 よく考えれば確かにエレベーターでは無いという事実に思い至った辺りで、モートゥスとやらからティストさんが降りてきた。

「よう、ボウズ。生きてっか~?」

 死ぬ直前まで痛めつける事を許可していった張本人が、本当に殺されかけたという事実を知らずに呑気に話しかけてきた。

「呆れた姉弟子だ。生かして置けぬ!」

「おぉん? やるかぁ?」

「じょ、冗談ですよ……。本当にさっき死にかけてたんだから勘弁してください」

「まあどうせこの後やるけどな」

「えぇっ!?」

 冗談のつもりで煽っただけなのだが、どうやらそもそも決定事項だった様だ。
 リオナさんが昼頃までしか出来ないと言っていた理由はこれか。

「おっと、言っとくがこいつが勝手に姉弟子って呼んでるだけだから気にすんな」

 ティストさんが唐突にリオナさんとハルカ先輩に向けてそんな事を言い出す。
 不思議に思っていると、ティストさんが耳打ちをしてきた。

「――私が姉弟子だって事になったらジジイとお前が関係あるって事が無駄に広まるだろうが。ちったぁジジイの配慮を汲めアホボウズが」

 なるほど。
 すっかりおじいちゃんから言われていた事を忘れていた。
 確かに不用意であったと反省する。

「まあとりあえず昼飯にすっか。食ったら夕方までしこたま特訓だからしっかり休憩しとけよ」

「……はい」

 まさか休憩無しでやるつもりではなかろうか。
 そんな不安を抱きつつ、ティストさんの持ってきた昼食へとありつくのであった。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。

もる
ファンタジー
 剣を扱う職に就こうと田舎から出て来た14歳の少年ユカタは兵役に志願するも断られ、冒険者になろうとするも、15歳の成人になるまでとお預けを食らってしまう。路頭に迷うユカタは生きる為に知恵を絞る。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...