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第二章 軍属大学院 入学 編
117.良薬は口に苦いし酸っぱいし-Ⅲ
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「ああ、だから意識戻ってからも吐き出したいのに口が開かなかったりしたんですかね……」
神経がおかしくなって信号が届かなかったのなら、まるで万力に固定されたかの様に感じたのも納得だ。
「いや、それは……私がちゃんと効果が出るまで開かないようにしてたからで……」
「へ?」
しかし自分の予想ははずれた様で、ハルカさんは自身が抑えていたのだと申告してくる。
「いや、でも触られてた感覚ありませんでしたし……あれ? でも神経が麻痺してたなら触られててもわからないか……。いや、でもキュウが舐めてきてたのは感じたし……あれ?」
自分でも言っていてよくわからなくなってしまい目を白黒とさせていると、その答えはハルカさん自身が与えてくれた。
「その、私のシエラが『力を操る』ってもの、で、その……それで動かないように固定してたの……。その……勝手にあなたの体を操作しちゃって、ご、ごめんなさいっ……!」
何だかとても後ろめたそうに謝罪をしてくる。
何を言っているんだこの人は――
「いや、そうしてくれなかったらちゃんと効果でなかったんですよね?」
「う、うん……。たぶん、そもそも、気付け薬を噛み砕けなかったっていうか……。でも、他人に体を操られるのって、気持ち悪いと思うし……」
「いや、命救われて文句あるわけないじゃないですか! 気付け薬にびっくりはしましたけど、やってくださった事には感謝しかないですよ! 本当にありがとうございます!」
「そ、そっか……。うん、ありがと」
「なんで先輩がお礼言ってるんですか……?」
おかしな人である。
「うふふ、何だかキーくんがタケル君と仲良くなった理由が分かった気がするわ」
「へ? サキトがどうかしたんですか?」
「うんうん、別に何でもないわ♪ あなたたちが似てるなぁって思っただけよ♪」
今回の件の元凶が何か上機嫌に言っているようだが、まあいいだろう。
「それじゃあ改めまして……。この春からこの学院に通わせてもらう事になった須藤武って言います。今回は本当にありがとうございましたハルカ先輩!」
命の恩人である。
最大限の礼をもって、先輩として敬っていこう。
「は、はい、よろしくねー―」
そこまで言った所で、ハルカ先輩は何か思い出した様な素振りを見せ、一度咳払いをしてから自己紹介をし始めた。
「私は『ハルカ・オシウミ』、あなたの一年先輩になるわね。まあこの"特化魔力制御学"の講義は殆ど私だけしか受けてない様なものだったから、あなたも受ける様になるならよく会う事になるでしょうけど、あなたのシエラとは系統がだいぶ違う様だから、力になれる事は少ないと思うわ」
何だかまた最初の様な、感情の乏しい抑揚の無い話し方に戻ってしまった。
最後の方など何だか突き放されている様な印象さえ受けるが、何か気に障る事でも言ってしまっただろうか。
恩人に失礼な事を言ってしまったかと気を揉んでいると、どこか遠慮がちにハルカ先輩は再び口を開く。
「そ、そんなに落ち込まなくても――ま、まあ多少なら教えられる事もあるかもしれない……から……」
また表情から感情が駄々洩れになっていたのだろうか。
しかしこれは別に突き放したわけではないという事ではないか。
「はい! 僕ちょっとわけあって知らない事だらけなので、たぶん色々教えてもらう事になると思いますけど、よろしくお願いします!」
「う、うん……よろしく、ね」
何やら微妙な反応なのが気になるが、ハルカ先輩からは嫌悪感などではなく、どちらかと言うと申し訳なさそうな雰囲気を感じる。
いったいどういう事なのであろうか。
「ちょっとハルカちゃん! その言い方だとまるで私の講義が『いつも閑古鳥が鳴いている需要皆無の無駄講義』みたいじゃないの!」
悩む自分を余所にリオナさんがハルカ先輩に抗議の弁を述べているが、そこまでは言っていないのではないだろうか。
「そ、そこまでは言ってないですよ。需要はあるけど、この講義を学ぶレベルに達している人が少ないだけです」
「本当にぃ?」
やっぱりそこまでは言ってなかった様だ。
というより、この特訓は講義の一環だったのか。
入学前に体験できるとは、何だかちょっと得をした気分である。
そんな感想を抱いていると、再び鉦の音が鳴る。
「あ、エレベーターが来た」
「エレベーター? あれは『モートゥス』よ?」
「あ、モートゥスって言うんですね。あははは……」
リオナさんの言から正式名称はモートゥスである事がわかったが、なんだそれは。
笑って誤魔化したが正直納得がいかない。
『ビル』は『ビル』のままだったりするに、一緒だったり一緒じゃなかったりするのは何なのであろうか。
(いや、そもそも一緒な方がおかしいのか……? というか今の言い方だとエレベーターも存在してるっぽいな……。いやそもそも――)
よく考えれば確かにエレベーターでは無いという事実に思い至った辺りで、モートゥスとやらからティストさんが降りてきた。
「よう、ボウズ。生きてっか~?」
死ぬ直前まで痛めつける事を許可していった張本人が、本当に殺されかけたという事実を知らずに呑気に話しかけてきた。
「呆れた姉弟子だ。生かして置けぬ!」
「おぉん? やるかぁ?」
「じょ、冗談ですよ……。本当にさっき死にかけてたんだから勘弁してください」
「まあどうせこの後やるけどな」
「えぇっ!?」
冗談のつもりで煽っただけなのだが、どうやらそもそも決定事項だった様だ。
リオナさんが昼頃までしか出来ないと言っていた理由はこれか。
「おっと、言っとくがこいつが勝手に姉弟子って呼んでるだけだから気にすんな」
ティストさんが唐突にリオナさんとハルカ先輩に向けてそんな事を言い出す。
不思議に思っていると、ティストさんが耳打ちをしてきた。
「――私が姉弟子だって事になったらジジイとお前が関係あるって事が無駄に広まるだろうが。ちったぁジジイの配慮を汲めアホボウズが」
なるほど。
すっかりおじいちゃんから言われていた事を忘れていた。
確かに不用意であったと反省する。
「まあとりあえず昼飯にすっか。食ったら夕方までしこたま特訓だからしっかり休憩しとけよ」
「……はい」
まさか休憩無しでやるつもりではなかろうか。
そんな不安を抱きつつ、ティストさんの持ってきた昼食へとありつくのであった。
神経がおかしくなって信号が届かなかったのなら、まるで万力に固定されたかの様に感じたのも納得だ。
「いや、それは……私がちゃんと効果が出るまで開かないようにしてたからで……」
「へ?」
しかし自分の予想ははずれた様で、ハルカさんは自身が抑えていたのだと申告してくる。
「いや、でも触られてた感覚ありませんでしたし……あれ? でも神経が麻痺してたなら触られててもわからないか……。いや、でもキュウが舐めてきてたのは感じたし……あれ?」
自分でも言っていてよくわからなくなってしまい目を白黒とさせていると、その答えはハルカさん自身が与えてくれた。
「その、私のシエラが『力を操る』ってもの、で、その……それで動かないように固定してたの……。その……勝手にあなたの体を操作しちゃって、ご、ごめんなさいっ……!」
何だかとても後ろめたそうに謝罪をしてくる。
何を言っているんだこの人は――
「いや、そうしてくれなかったらちゃんと効果でなかったんですよね?」
「う、うん……。たぶん、そもそも、気付け薬を噛み砕けなかったっていうか……。でも、他人に体を操られるのって、気持ち悪いと思うし……」
「いや、命救われて文句あるわけないじゃないですか! 気付け薬にびっくりはしましたけど、やってくださった事には感謝しかないですよ! 本当にありがとうございます!」
「そ、そっか……。うん、ありがと」
「なんで先輩がお礼言ってるんですか……?」
おかしな人である。
「うふふ、何だかキーくんがタケル君と仲良くなった理由が分かった気がするわ」
「へ? サキトがどうかしたんですか?」
「うんうん、別に何でもないわ♪ あなたたちが似てるなぁって思っただけよ♪」
今回の件の元凶が何か上機嫌に言っているようだが、まあいいだろう。
「それじゃあ改めまして……。この春からこの学院に通わせてもらう事になった須藤武って言います。今回は本当にありがとうございましたハルカ先輩!」
命の恩人である。
最大限の礼をもって、先輩として敬っていこう。
「は、はい、よろしくねー―」
そこまで言った所で、ハルカ先輩は何か思い出した様な素振りを見せ、一度咳払いをしてから自己紹介をし始めた。
「私は『ハルカ・オシウミ』、あなたの一年先輩になるわね。まあこの"特化魔力制御学"の講義は殆ど私だけしか受けてない様なものだったから、あなたも受ける様になるならよく会う事になるでしょうけど、あなたのシエラとは系統がだいぶ違う様だから、力になれる事は少ないと思うわ」
何だかまた最初の様な、感情の乏しい抑揚の無い話し方に戻ってしまった。
最後の方など何だか突き放されている様な印象さえ受けるが、何か気に障る事でも言ってしまっただろうか。
恩人に失礼な事を言ってしまったかと気を揉んでいると、どこか遠慮がちにハルカ先輩は再び口を開く。
「そ、そんなに落ち込まなくても――ま、まあ多少なら教えられる事もあるかもしれない……から……」
また表情から感情が駄々洩れになっていたのだろうか。
しかしこれは別に突き放したわけではないという事ではないか。
「はい! 僕ちょっとわけあって知らない事だらけなので、たぶん色々教えてもらう事になると思いますけど、よろしくお願いします!」
「う、うん……よろしく、ね」
何やら微妙な反応なのが気になるが、ハルカ先輩からは嫌悪感などではなく、どちらかと言うと申し訳なさそうな雰囲気を感じる。
いったいどういう事なのであろうか。
「ちょっとハルカちゃん! その言い方だとまるで私の講義が『いつも閑古鳥が鳴いている需要皆無の無駄講義』みたいじゃないの!」
悩む自分を余所にリオナさんがハルカ先輩に抗議の弁を述べているが、そこまでは言っていないのではないだろうか。
「そ、そこまでは言ってないですよ。需要はあるけど、この講義を学ぶレベルに達している人が少ないだけです」
「本当にぃ?」
やっぱりそこまでは言ってなかった様だ。
というより、この特訓は講義の一環だったのか。
入学前に体験できるとは、何だかちょっと得をした気分である。
そんな感想を抱いていると、再び鉦の音が鳴る。
「あ、エレベーターが来た」
「エレベーター? あれは『モートゥス』よ?」
「あ、モートゥスって言うんですね。あははは……」
リオナさんの言から正式名称はモートゥスである事がわかったが、なんだそれは。
笑って誤魔化したが正直納得がいかない。
『ビル』は『ビル』のままだったりするに、一緒だったり一緒じゃなかったりするのは何なのであろうか。
(いや、そもそも一緒な方がおかしいのか……? というか今の言い方だとエレベーターも存在してるっぽいな……。いやそもそも――)
よく考えれば確かにエレベーターでは無いという事実に思い至った辺りで、モートゥスとやらからティストさんが降りてきた。
「よう、ボウズ。生きてっか~?」
死ぬ直前まで痛めつける事を許可していった張本人が、本当に殺されかけたという事実を知らずに呑気に話しかけてきた。
「呆れた姉弟子だ。生かして置けぬ!」
「おぉん? やるかぁ?」
「じょ、冗談ですよ……。本当にさっき死にかけてたんだから勘弁してください」
「まあどうせこの後やるけどな」
「えぇっ!?」
冗談のつもりで煽っただけなのだが、どうやらそもそも決定事項だった様だ。
リオナさんが昼頃までしか出来ないと言っていた理由はこれか。
「おっと、言っとくがこいつが勝手に姉弟子って呼んでるだけだから気にすんな」
ティストさんが唐突にリオナさんとハルカ先輩に向けてそんな事を言い出す。
不思議に思っていると、ティストさんが耳打ちをしてきた。
「――私が姉弟子だって事になったらジジイとお前が関係あるって事が無駄に広まるだろうが。ちったぁジジイの配慮を汲めアホボウズが」
なるほど。
すっかりおじいちゃんから言われていた事を忘れていた。
確かに不用意であったと反省する。
「まあとりあえず昼飯にすっか。食ったら夕方までしこたま特訓だからしっかり休憩しとけよ」
「……はい」
まさか休憩無しでやるつもりではなかろうか。
そんな不安を抱きつつ、ティストさんの持ってきた昼食へとありつくのであった。
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