127 / 163
第二章 軍属大学院 入学 編
118.似た者同士の励まし合い-Ⅰ
しおりを挟む「オラオラァ! 反応遅れてきてんぞぉっ!」
「ちょっ!? 本当にそろそろ一回休憩させてくださいって!」
ほんの僅かな、しかし実に有効的な時間差をもって四方八方から迫りくる斬撃と魔法にすんでの所で対処しつつ、ティストさんへと訴えかける。
実際にやられて初めて感じた事であるが、この絶妙な時間差を持っての多方面攻撃というのは実にいやらしい。
午前中の特訓であれだけ多方面からの同時攻撃に対処できるようになったのだから、一秒間に五十発近くも同時にされるわけでもない近接戦闘による攻撃程度ならばもう少し楽に対処できると考えていたのだが、そんな事は全く無かった。
いや、ある意味では楽ではあるのだが、現状の自分にとってはこちらの方が堪えていると言えるのだ。
午前中の特訓は確かに密度で言えば圧倒的に疲れはするのだが、まだ"十発ずつに同時に対処する"という点で、ある意味パターン化して対応できる類のものであった。
一番自分に近い魔力の進行方向に十のポルテジオを出しては消してを繰り返すだけ。
若干の語弊はあるかもしれないが、言わば単純作業だ。
しかし今の特訓は、常に別のタイミングで別のパターンで迫りくる攻撃にひたすら晒され続けるのだ。
それだけならまだいい。
至極単純にティストさんの斬撃の速度が異常で、強化した視覚情報と魔力探知や自前の感覚による情報を織り交ぜてさえも、本当にギリギリでしか防御が間に合わないのだ。
魔法だって決して速度は遅くないのだが、これに比べれば雲泥の差である。
鋼鉄をも軽々と切り裂くであろうあの研ぎ澄まされた穂先が、一振りごとに空気抵抗などという概念を一蹴するかの如く空を切り裂いて迫ってくるのだが、毎度体のすぐ傍で防御するたびに、空気を切り裂く音より先に到達しているのではないかと思わされるのだ。
(つまり音速を超えてるかもしれない――って余計な事考えてる場合かっ!?)
左から迫ってきた薙ぎ払いをすんでの所で、手の甲に重なる様に展開したポルテジオを用いて弾き飛ばす。
こうする事で、単純に受け流すよりは極々僅かにティストさんの体勢が崩れるのだ。
この行為の何よりもの利点は、手の甲に対して常に水平に展開するだけなため、"手の届く範囲"という限定的な距離ではあるが、自由に操作出来ないポルテジオを実質的には自由に扱えるという点だ。
薙ぎ払いの威力自体はポルテジオが全て受け止めてくれているので、弾き飛ばすのに力も必要ない。
ティストさんレベルの武人でなければ、もっと有効な技になる可能性もある。
(今度サキトに頼んで検証してみるか――危ねっ!)
そんな常識外れの斬撃と魔法の乱撃の中に、さらにフェイントまでも織り交ぜてくるものだから、本当にパターン化など出来たものではない。
視覚情報に頼らなければそのフェイントに関しても幾分かマシにはなると思い一度目を閉じたのだが、ティストさんレベルになると自分程度の精度ならば魔力探知すらも騙せる様で結局意味は無かった。
寧ろ視覚情報が無くなった分他への負担が増えて状況が悪くなったまであった。
しかし、視覚情報はどうしても自分の中に今まであった"常識"と言うものに捕らわれやすく、ティストさんの体は左側に見えているのに実際に斬撃が飛んでくるのは右側からだったりして、さらにそれがフェイントであったりすればどうしても引っかかってしまいそうになる。
そして、午前より堪えているという一番の原因は、こんな特訓が既に――
「もう二時間以上ぶっ続けでやってますよっ!? 流石にそろそろ限界ですって!」
「大声出せる余裕はあるじゃねぇか?」
「いや、本当にヤバいからですってっ!?」
弾き飛ばす際にちらりと見えた時計の針は、既に特訓を始めてから二時間以上が経過している事を知らせてくれていた。
いい加減に、午前中も酷使させられた自分の脳が悲鳴を上げ始めているのだ。
じわりじわりと頭痛が酷くなってきている。
流石に一日に二度も死にかけたくは無いのだ。
「ったく、しょうがねぇなぁ……」
そんな訴えが通じた様で、ティストさんは自分に向けて放とうとしていた薙ぎ払いを地面に向かって振りぬく。
すると、重く鋭い音と共に十メートル程に亘って床に深い亀裂が入った。
それなりに硬い材質の床だと思うのだが、やはり凄まじい威力である。
(っていうか、何でわざわざ床を壊して……?)
ティストさんの行動に疑問を抱いて亀裂を見てみると、緩やかにではあるが亀裂が塞がっていくのが見て取れた。
どうやら損壊箇所が自動で修復される仕組みのようだ。
いや、結局何故わざわざ床に傷を作ったのかはわからないのだが――
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。
もる
ファンタジー
剣を扱う職に就こうと田舎から出て来た14歳の少年ユカタは兵役に志願するも断られ、冒険者になろうとするも、15歳の成人になるまでとお預けを食らってしまう。路頭に迷うユカタは生きる為に知恵を絞る。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
自力で帰還した錬金術師の爛れた日常
ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」
帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。
さて。
「とりあえず──妹と家族は救わないと」
あと金持ちになって、ニート三昧だな。
こっちは地球と環境が違いすぎるし。
やりたい事が多いな。
「さ、お別れの時間だ」
これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。
※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。
※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。
ゆっくり投稿です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる