アポロの護り人 ―異世界夢追成長記―

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第二章 軍属大学院 入学 編

118.似た者同士の励まし合い-Ⅰ

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「オラオラァ! 反応遅れてきてんぞぉっ!」

「ちょっ!? 本当にそろそろ一回休憩させてくださいって!」

 ほんの僅かな、しかし実に有効的な時間差をもって四方八方から迫りくる斬撃と魔法にすんでの所で対処しつつ、ティストさんへと訴えかける。
 実際にやられて初めて感じた事であるが、この絶妙な時間差を持っての多方面攻撃というのは実にいやらしい。
 午前中の特訓であれだけ多方面からの同時攻撃に対処できるようになったのだから、一秒間に五十発近くも同時にされるわけでもない近接戦闘による攻撃程度ならばもう少し楽に対処できると考えていたのだが、そんな事は全く無かった。
 いや、ある意味では楽ではあるのだが、現状の自分にとってはこちらの方が堪えていると言えるのだ。
 午前中の特訓は確かに密度で言えば圧倒的に疲れはするのだが、まだ"十発ずつに同時に対処する"という点で、ある意味パターン化して対応できる類のものであった。
 一番自分に近い魔力の進行方向に十のポルテジオを出しては消してを繰り返すだけ。
 若干の語弊はあるかもしれないが、言わば単純作業だ。
 しかし今の特訓は、常に別のタイミングで別のパターンで迫りくる攻撃にひたすら晒され続けるのだ。
 それだけならまだいい。
 至極単純にティストさんの斬撃の速度が異常で、強化した視覚情報と魔力探知や自前の感覚による情報を織り交ぜてさえも、本当にギリギリでしか防御が間に合わないのだ。
 魔法だって決して速度は遅くないのだが、これに比べれば雲泥の差である。
 鋼鉄をも軽々と切り裂くであろうあの研ぎ澄まされた穂先が、一振りごとに空気抵抗などという概念を一蹴するかの如く空を切り裂いて迫ってくるのだが、毎度体のすぐ傍で防御するたびに、空気を切り裂く音より先に到達しているのではないかと思わされるのだ。

(つまり音速を超えてるかもしれない――って余計な事考えてる場合かっ!?)

 左から迫ってきた薙ぎ払いをすんでの所で、手の甲に重なる様に展開したポルテジオを用いて弾き飛ばす。
 こうする事で、単純に受け流すよりは極々僅かにティストさんの体勢が崩れるのだ。
 この行為の何よりもの利点は、手の甲に対して常に水平に展開するだけなため、"手の届く範囲"という限定的な距離ではあるが、自由に操作出来ないポルテジオを実質的には自由に扱えるという点だ。
 薙ぎ払いの威力自体はポルテジオが全て受け止めてくれているので、弾き飛ばすのに力も必要ない。
 ティストさんレベルの武人でなければ、もっと有効な技になる可能性もある。

(今度サキトに頼んで検証してみるか――危ねっ!)

 そんな常識外れの斬撃と魔法の乱撃の中に、さらにフェイントまでも織り交ぜてくるものだから、本当にパターン化など出来たものではない。
 視覚情報に頼らなければそのフェイントに関しても幾分かマシにはなると思い一度目を閉じたのだが、ティストさんレベルになると自分程度の精度ならば魔力探知すらも騙せる様で結局意味は無かった。
 寧ろ視覚情報が無くなった分他への負担が増えて状況が悪くなったまであった。
 しかし、視覚情報はどうしても自分の中に今まであった"常識"と言うものに捕らわれやすく、ティストさんの体は左側に見えているのに実際に斬撃が飛んでくるのは右側からだったりして、さらにそれがフェイントであったりすればどうしても引っかかってしまいそうになる。
 そして、午前より堪えているという一番の原因は、こんな特訓が既に――

「もう二時間以上ぶっ続けでやってますよっ!? 流石にそろそろ限界ですって!」

「大声出せる余裕はあるじゃねぇか?」

「いや、本当にヤバいからですってっ!?」

 弾き飛ばす際にちらりと見えた時計の針は、既に特訓を始めてから二時間以上が経過している事を知らせてくれていた。
 いい加減に、午前中も酷使させられた自分の脳が悲鳴を上げ始めているのだ。
 じわりじわりと頭痛が酷くなってきている。
 流石に一日に二度も死にかけたくは無いのだ。

「ったく、しょうがねぇなぁ……」
 そんな訴えが通じた様で、ティストさんは自分に向けて放とうとしていた薙ぎ払いを地面に向かって振りぬく。
 すると、重く鋭い音と共に十メートル程に亘って床に深い亀裂が入った。
 それなりに硬い材質の床だと思うのだが、やはり凄まじい威力である。

(っていうか、何でわざわざ床を壊して……?)

 ティストさんの行動に疑問を抱いて亀裂を見てみると、緩やかにではあるが亀裂が塞がっていくのが見て取れた。
 どうやら損壊箇所が自動で修復される仕組みのようだ。
 いや、結局何故わざわざ床に傷を作ったのかはわからないのだが――
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