149 / 163
第二章 軍属大学院 入学 編
140.強力なコネ-Ⅰ
しおりを挟む「……よし。行くぞ」
ほんのりとした淡い明かりに包まれた廊下で意気込みを改め、パーティー会場へと通じる扉に近づくと、使用人と思わしき人が扉を開く。
目映い明かりと共に雅びな音楽と人々の賑やかな声が溢れだし、それと同時に悪意の塊が――
(……あれ? 来ない……?)
身構えていたのが馬鹿らしくなるほどに何も感じない。
ひょっとして本当に、キュウが一瞬でも感じたために自分にも流れ込んできたのだろうか。
『……ごめん』
「い、いや、そうと決まった訳じゃないしさ。それにどうしようも無い事だろ? 気にすんなって」
責任を感じた様子のキュウを慰めながら、会場内に視線を巡らせる。
ソフィアの様子が気になるというのもあるが、感じなくなったとはいえ自分の周りにいるのはあの悪意を垂れ流していた様な者たちなのだ。
笑みを浮かべながら会話しつつも、その下にはどす黒い欲望を渦巻かせている。
自分は貴族ではないので話しかけられる様な事は無いとは思うが、正直あまり関わり合いにはなりたくないし、そんな者たちに囲まれている状態で一人でいるというのは心細い。
せめて知り合いと共にいたいのだ。
「お、いたいた」
自分と同じように平民であるためか、特に誰に話しかけられるわけでもなくひたすら料理にありついている友人――サキトへと近づく。
人が近づく気配を感じたのか、声を掛けてもいないのにこちらに気がついたサキトは、頬張っていたフライドチキンを慌てて飲み込んでから口を開く。
「むあ? んぐっ……。ふう、タケルじゃねぇか。なんか全然見かけなかったけどどこ行ってたんだ?」
「あはは、ちょっと気分転換に外の空気吸いにいってたんだ」
「気分転換って、ちょっと早すぎやしねぇか? まだパーティー始まってそんなに時間経ってねぇぞ?」
「うん、ちょっとね……」
「ふーん、まあよくわかんねぇけど無理はすんなよ? それよりほれ、この揚げ物とか超美味ぇぞ? まだろくに食ってねぇんだろ?」
言われてみれば当然であるが、パーティーが始まってすぐに逃げ出してしまっていたためまだ何も食べてはいなかった。
嗚咽がこみ上げてきて仕舞うほどの状態だったため、そもそも食べられたものではなかったが、今ならばもう大丈夫だろう。
「でも最初から揚げ物っていうのもなぁ……」
サキトのいるテーブルはどうやら揚げ物などの油をふんだんに利用した料理が多いようで、最初に口にするにはあまりにも重すぎる。
「ああ、それならあっちの方にサラダとか置いてるテーブルがあったはずだぞ」
サキトの顎で示した方向を見ると、確かに緑豊かな皿が並ぶテーブル
「サラダか……。でもお肉も食べたいんだよなぁ……」
実際の所のマナーなど知らないのだが、無駄なトラブルを避けるためにもあまり取り皿に料理を乗せて動き回るのはよろしくない気がする。
「一応なんかうっすい肉ならあったぜ? おれはあんまりああいう上品なのは口に合わねぇし、がっつり食いてぇからこっちに来てっけどよ」
「なるほど、じゃああっちに行ってみようかな。でもサキト、ちゃんと野菜も食べないと体に悪いよ?」
「うっ……義姉さんみたいな事言うなよな……。良いんだよ別に、いつもは家でめちゃくちゃ食べさせられるし、こういう時くらい好きなもん目一杯食わねぇと損だろ?」
「損かな?」
「損だろ。義姉さんの料理って別に不味いわけじゃねぇんだけど、こういうのと比べたらどうにも平凡だしよ」
作ってもらっておいてなんて言い草なんだ。
「じゃあサキトが作ればいいじゃん。そうすれば好きな物ばっか食べられるよ?」
「いや、俺が作ったら不味いもんしか出来ねぇし、そもそも好きなもんばっか作るのを義姉さんが許さねぇよ。だから俺は作らねぇ!」
(そんな情けない事をドヤ顔で言われてもなぁ……)
現状自分も食事は人任せになっているので強くは言えないのだが、せめてもう少し感謝しがら食べるべきではないだろうか。
「まあもうちょっと感謝しながら食べなよ? じゃあちょっと向こうのテーブルに行ってみるよ」
「おう! また後でな!」
そうしてサキトと別れ、サラダなどが置かれているテーブルへと移動する。
結果的にまた一人になってしまうが、お腹が空いてしまったのだから仕方がない。
「お、生ハムだ。結構好きなんだよね」
一人暮らしをしていた頃は、切っただけの野菜と一緒にするだけでサラダに塩気が加わって食べやすかったのでしょっちゅう食べていたものだ。
いわゆる一人暮らしのお供の一つだ。
『このお肉は生なの?』
「いや、生ではなかったと思うけど……。実はよく知らないんだよね」
キュウの質問に答えながら、生ハムで野菜を包む。
(そういえば普通にお箸とかあるんだなぁ……)
それで言えばフォークやスプーンがある事も不思議なはずではあるのだが、結局利便性を追求すれば同じ様な形状や使用方法に行き着くものなのかもしれない。
気にしても仕方のない事なのでそれ以上考えるのはやめ、出来上がった小さな生ハムサラダを頬張る。
(うん、おいしい)
きっと舌の肥えた人ならば、「絶妙な塩気がうんたら」とか「舌触りがうんたら」とか感じるのであろうが、自分にとっては美味しい生ハムである。
「ああ、でもなんか変わった香りがしたな」
その辺りにこだわりがあったりするのだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。
もる
ファンタジー
剣を扱う職に就こうと田舎から出て来た14歳の少年ユカタは兵役に志願するも断られ、冒険者になろうとするも、15歳の成人になるまでとお預けを食らってしまう。路頭に迷うユカタは生きる為に知恵を絞る。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
自力で帰還した錬金術師の爛れた日常
ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」
帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。
さて。
「とりあえず──妹と家族は救わないと」
あと金持ちになって、ニート三昧だな。
こっちは地球と環境が違いすぎるし。
やりたい事が多いな。
「さ、お別れの時間だ」
これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。
※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。
※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。
ゆっくり投稿です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる