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第二章 軍属大学院 入学 編
141.強力なコネ-Ⅱ
しおりを挟む(今度エフィさんかハヴァリーさんに聞いてみようかな)
そんな事を考えながら黙々と生ハムサラダを食していると、突然肩を叩かれた。
「戻ってたのねタケル。パーティー始まって早々出て行ったから何事かと思ったじゃないの」
肩を叩いたのは少し疲れた顔をしたアイラであった。
挨拶回りがあるからとアイラとはパーティー開始と同時に別行動になっていたのだが、どうやら偶然見られていた様だ。
「あはは、ちょっとね」
「なんか顔色悪かったけど、何かあったんじゃないの?」
ウェイターの運んできた飲み物を受け取り、こちらを尻目にアイラはそう口にする。
思っていた以上にしっかり見られていた様だ。
心配をしてくれるのは嬉しいが、何故あのような現象が起こったのかも未だにはっきりとしていない。
「いや、大丈夫だよ。それよりも、アイラは大丈夫なの? ちょっと疲れてるように見えるけど」
それ以上に、時たまではあれど人の思考を無差別に覗き見てしまうという事実を伝える勇気が自分にはもてなかった。
本当に心配な気持ちはあるとはいえ、それを話題を変えるために使った事にも嫌気がさす。
「……まあ、言いたくないなら別にそれでいいけど、無理はするんじゃないわよ?」
そんなアイラの優しい言葉に自分は――
「……ぷっ」
思わず吹き出してしまった。
「ちょっと! なんで笑うのよ!」
「いや、さっき同じ事をサキトにも言われたからさ」
本当にこの友人たちは、自分の事を心配しすぎではないだろうか。
これでも一歳とはいえ自分は年上で――
「それだけタケルが辛そうに見えるって事よ。まだあんたと会ってからそこまで日は経ってないけど、それでも助けたい、力になりたいって思っちゃうくらいには私もサキトも、もちろんソフィアもあんたの事想ってんの」
飲み物を上品に一口飲み、さらにアイラは続ける。
「サキトは図太い所あるし、私とソフィアはある程度慣れてるけど、あんたは多分こういう場所、苦手でしょ?」
「い、いや、そんなことは……」
「別に隠すような事じゃないわよ。あんたってサキトみたく鈍いかと思えば、妙に鋭い所あるから、きっとああいう薄ら笑いの下では欲まみれで悪巧みしてるのとか、気づいちゃってるんでしょ?」
アイラがそれとなく顎で示した先にいる人を見ると、そこにはソフィアに話しかける一人の中年男性がいた。
確かに笑みを浮かべながら話しているのだが、何か下心があるように思えてしまう。
いや、気づくも何も一度あの悪意の塊を感じてしまうと、もうそうとしか見えないのだ。
(なんか……嫌だな……)
ソフィアにそんな感情が向けられている事に、それを自分がどうする事も出来ないという事に、そして知らない人に対してそう感じてしまう事に――
「……」
「それでいてあんたは優しいから、自分に向けられてる訳でもないのに向けられる人の事を想って辛くなる。――今のあんたもそんな所でしょ?」
そんなに自分はわかりやすいのだろうか。
「アイラは、凄いね。でも僕は……優しいんじゃないよ……。ただ臆病なだけだ」
「あんたが臆病だったら、私たちは今ここにはいないわよ。もっと自信を持ちなさい自信を!」
そう言ってアイラは活でも入れるかの様につま先で自分のくるぶし付近を小突いてきた。
地味に痛い。
「自信、かぁ……」
「まあ、学院に通い出せばたぶん嫌でも自信がつくわよ。同時に自信を無くしそうでもあるけどね」
「え? それってどういう……?」
「あんたがいかにチグハグかがわかるって事よ。まあそれは入ってからのお楽しみにしといて、今は食事でも楽しんでなさい。ほら、これとかおすすめよ」
そう言ってアイラは、自分がしていたのと同じように生ハムで薄い緑色の何かを巻いた物を差し出してきた。
「何これ?」
「生ハムメロンよ」
「え゙……」
「なんて声出してんのよ……。確かにあんまり合うイメージは無いかもしれないけど、以外といけるから食べてみなさいって」
半ば強引に生ハムメロンを乗せた皿を押しつけられる。
よっぽどおすすめなのだろう。
しかし、違うのだ。
別に初めて見る特異な組み合わせだからこのような反応をしてしまったわけではない。
寧ろその逆で、その組み合わせを既に体験した事があるからこその反応なのだ。
一人暮らしをしていた頃に、ひょんな事からかなり上等なメロンを貰った事があったのだが、普段にメロンの様な高価な物を買う機会も無かった自分は、これ幸いにと以前からよく耳にして気になっていた「生ハムメロン」をやってみようと試してみたのだ。
まあ結果として「別々に食べた方が美味しい」という評価に落ち着いたのだが、普段から安物とはいえ生ハムを好んで食していた身としては、かなり期待していたのも相まって大分悪い印象が残ってしまっているのだ。
「ほ、本当に美味しいの……?」
「騙された思って食ってみなさいって、ほら」
(ま、まあひょっとしたらこっちのメロンが向こうのとは違っている可能性もあるわけだし……ええい、ままよ!)
投げやりに意を決して生ハムメロンを口へと放り込む。
(……ん? あれ?)
「ほら、どうよどうよ?」
アイラがニヤニヤしながら覗き込んでくる。
「んぐっ……うん、美味しい……」
飲み込んでからアイラに率直な感想を述べる。
アイラのニヤニヤがさらに強調されてしたり顔と呼べるレベルになっている気がするが、それが気にならない程に今自分は困惑している。
(いや、一度整理しよう。そもそも何で昔食べた生ハムメロンはいまいちだったんだ……?)
生ハムの違いが自分にはわからないのだから、これはつまりメロンに違いがあるという事だ。
確かめるためにもう一つ生ハムメロンを作って口に放り込む。
アイラの顔がドヤ顔にまで発展しているが今は気にしない。
(ああ、なるほど……)
改めて味わってみるとよくわかる。
このメロンはあまり甘くないのだ。
寧ろ少しばかり青臭いまである。
かつて自分が貰ったメロンは糖度が売りのとびっきり甘い物だったはずなので、そこが味の分かれ目になっているのだろう。
値段が高ければ良いという物でも無いわけだ。
(いや、このメロン甘くはないけど貴族のパーティーに出されてるんだから一応高いのかな?)
何にしても、食べ合わせがこんなに奥が深い物だとは思わなかった。
これはアイラに感服である。
「ほらほら、私の言った通り美味しかったでしょ?」
「うん、ちょっと意外だったや。前に甘いメロンで試した時はあんまり美味しくなかったんだよね」
「はっ、はぁ!? あ、あんた甘いメロンなんてそんな超高級品どこで……ってまあ、あの方と一緒に暮らしてたんならそういう機会があってもそんなに不思議でも無い気がしてくるわね……」
どうやらこちらではメロンと言えば、今食べたような少し青臭い物の事を言うようだ。
アイラが『超高級品』と表現するという事は、本当に相当な貴重品なのだろう。
似ている所だらけだと思えば、こうした細かな違いが出てくるため本当に油断ならない世界である。
というよりおじいちゃんの存在が便利すぎやしないだろうか。
とりあえずアイラたちに対しては、多少この世界に於いて常識外れな部分を晒してもおじいちゃんでどうにかなるような気がする。
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