152 / 163
第二章 軍属大学院 入学 編
143.悪癖の一因-Ⅰ
しおりを挟む賑やかだったパーティーも終わりを迎え、自分とアイラとサキトの三人は今、ソフィアの自室へと訪れ、一つのテーブルを囲んで座っていた。
やたらとモフモフしてそうなぬいぐるみが至る所に並べられた非常に可愛らしい部屋なのだが、当のソフィアは現在別のモフモフの虜になっていた。
「はぁ~……癒やされますぅ……」
「キュキュウ~」
キュウを撫でながら恍惚とした表情を浮かべるソフィアを見て、ようやく力になれた事に安堵していると、自分の手の中に収まっているロンドが不満げな鳴き声を漏らす。
「ピィ……」
「ん? どうしたんだいロンド?」
「ピピィピィピィ!」
どうやらいつもは今のキュウのポジションにロンドがいるらしく、少しジェラシーを感じているらしい。
「自分からタケルくんの所に行ったくせに何言ってるんですかもう!」
「あはは……それならロンドも戻るかい?」
問いかけながら人差し指でロンドの頭を軽く掻くように撫でると、気持ち良さげに目を細めながら答えを返す。
「ピィピィ」
ソフィアとは後でいくらでも時間があるので、今は自分の手の中が良いらしい。
「まったく、薄情なパートナーです……」
「やべぇ、何の話してんのか全然わかんねぇ」
「そんなのいつもの事じゃない。まあ私はある程度予測はついたけどね。どうせロンドがまたわがままな事言ってるんでしょ?」
流石はエスパーアイラ、大体の状況を理解しているようである。
「……ピィッ!」
「ちょっとロンド、アイラちゃんは本当の事言っただけなんだからそんな事言っちゃダメでしょ!」
「え? ロンドは何て言ったのよ?」
「『アイラにはもう羽を触らせてやらない』みたいな事言ってるね」
「え……」
アイラがこの世の終わりみたいな顔をしている。
(伝えない方が良かったかもしれないな……)
少し罪悪感が湧いてきたのでフォローをしておこう。
「こらロンド、あんまり意地悪な事言ってちゃダメだぞ?」
「ピ、ピィ……」
「良かったねアイラ、さっきのは冗談だってさ」
「何でタケルくんの言う事なら素直に聞くんでしょうか……?」
アイラが安堵の表情を浮かべたかと思えば、今度はソフィアが少し落ち込んでしまった。
ままならぬ。
何か話を変えつつソフィアの気分を盛り上げられる様な話題はないだろうか。
「ん~……ああ、そうだ!」
「ん? どうしたんだタケル?」
「いや、すっかり忘れてたと思ってね。はいソフィア、これ」
ロンドに一度肩へと移動してもらい、マジックバッグから花束を取り出してソフィアへと差し出す。
「わぁ、綺麗……。ええと、これは……?」
「一応お祝い、かな? 僕が自分で準備したわけじゃないのが申し訳ないんだけど……」
全てハヴァリーさんが選んでくれた花であるため、流石に自分からのお祝いと言い切る事は憚られた。
「いえ、嬉しいです! ありがとうございます! 早速飾ってきますね!」
そう言ってソフィアは花束を受け取ると、足早に部屋を出て行った。
喜んでもらえたようで何よりである。
「そういえば俺たちも忘れてたな」
「私はタイミングを見計らってただけで、ちゃんと覚えてたわよ」
そう言うとサキトとアイラもマジックバッグから何かを取り出して机の上へと置いた。
「ぬいぐるみ……?」
サキトはやたら凜々しい熊のぬいぐるみを、アイラは可愛らしい猫のぬいぐるみを取り出したようだ。
それぞれ簡単にリボンが巻かれており、恐らくこれが二人からソフィアへの祝いの品なのだろう。
「まあこの部屋見りゃわかると思うけど、ソフィアはぬいぐるみが――ってかモフモフしたもんが大好きでな!」
「って言っても、この部屋にあるぬいぐるみの半分以上は何かしらのお祝いの度に私とサキトがあげてる物なんだけどね。改めて見ると凄い量ね……」
ソフィアがいなくなって手持ち無沙汰になったからか、キュウはアイラの持ってきた猫のぬいぐるみをつつき始めた。
(猫とキュウか……なかなか良いな)
小動物同士の愛らしさが良い感じに交わっていて、実に目の保養になる。
アイラも同じ気持ちなのか満面の笑みである。
やはり、可愛いはどの世界でも共通で通じる正義なのだろう。
「ああ、そういえばサキトとアイラには何も準備してないや……色々案内とかして貰ったし、何か欲しい物あれば言ってよ」
自分が用意できる物などたかが知れているが、ソフィアにだけ準備して二人には渡さないというのは単純に自分の気が収まらない。
「私は別にいいわよ……って言ってもあんたは納得しないわよね……。そうねぇ……その、きゅ、キュウちゃん撫でさせてくれたり……でも、良いわよ?」
「え? そんな事で良いの? それは別にキュウが良い時ならいつでも良いけど? なあキュウ?」
「キュ? キュウッ!」
キュウが返事をするや否やアイラに飛びつくと、それを受け止めたアイラがしどろもどろになりながらもキュウを撫でて幸せそうに笑う。
満足してくれた様でなによりだ。
「サキトは?」
「うーん俺はなぁ……。そうだ! 今度タケルの家に行かせてくれよ! 確か露天風呂とかあるんだろ?」
「え? サキトもそんな事で良いの? 僕は全然大丈夫だけど――あ、でも一応確認とってからの方が良いか……」
「ああ、世話してくれてる人がいるんだっけか?」
「うん、多分許可してくれるとは思うんだけど、どっちにしてもその人が結界を張ってるから伝えとかないとサキトが入れないかもしれないし……」
「おまえの家、結界張られてんのか……。まあ銀将様の家なわけだもんな。そりゃあ結界でも張ってないと――あれ? そう考えたらなんか余計に行きたくなってきたな!」
サキトもどうやら満足してくれそうなので、早いうちに許可を貰う事にしよう。
結局何一つ自分からとしてのお祝いは出来ていないが、まあ今回は仕方ないだろう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。
もる
ファンタジー
剣を扱う職に就こうと田舎から出て来た14歳の少年ユカタは兵役に志願するも断られ、冒険者になろうとするも、15歳の成人になるまでとお預けを食らってしまう。路頭に迷うユカタは生きる為に知恵を絞る。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる