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第二章 軍属大学院 入学 編
144.悪癖の一因-Ⅱ
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ちょうど話が纏まった所で、部屋の扉が開き、ソフィアが帰ってきた。
「お待たせしました。玄関に飾らせてもらったんですけど、良かったですか?」
「うん、全然大丈夫だよ。寧ろ玄関で良いの?」
「はい! 色合いも本当に綺麗でしたし、寧ろ玄関の花瓶にぴったりに剪定されててびっくりしちゃいました!」
「ああ、ハヴァリーさんがディムロイさんと知り合いみたいだし、ここに来た事あるのかも」
ハヴァリーさんならば花瓶の大きさ程度なら記憶していても不思議ではないだろう。
「あっ! そのハヴァリーさんって方に曾おじい様が『クアリの花を一つ頂いている』って伝えておいて欲しいって言ってました」
「クアリの花ってなに?」
「確か条件に応じて様々な色に移り変わる花だったと思います」
「へー、そんな花があるんだ。あの赤い花の事かな? わかった、伝えておくよ」
「はい、お願いします。あっ! アイラちゃんサキトくん、それってもしかして……?」
自分との会話を終えたソフィアの目には、どうやら机の上に置かれた二体のぬいぐるみが映ったようだ。
「おう! 合格祝いだ! それに、今回も美味い飯食わせて貰ったしな!」
「今回のはパパがハクスレージの方から仕入れたって言ってたわ。いつもとひと味違うから存分に楽しみなさい」
ソフィアはその猫と熊を受け取ると、見るからにウキウキとした様子で並んでいる他のぬいぐるみの間にその二体を並べた。
少し置く場所を悩んでいたのは、きっと何かこだわりでもあるからなのだろう。
「二人ともありがとう!」
戻ってきたソフィアは満面の笑みである。
本当に好きなのだろう。
笑顔は健康に良いなんて話を聞いた事があるが、だとすれば好きな物があるというのはすこぶる体に良い事なのだろう。
(あの中にキュウが並んでも違和感なさそうだな……)
『並んでみようか?』
「え、いや、別に――」
言い切るよりも前にキュウがひとっ飛びにサキトがプレゼントした熊のぬいぐるみの隣へと並ぶ。
まあ思っていた通りあまり違和感はない――
「キュウちゃん! 並ぶんならそっちのアイラちゃんのくれた猫ちゃんの二つ隣です!」
予想外なソフィアの気迫にキュウは体をビクリと震わして慌てて言われたとおりに移動する。
どうやら本当にこだわりがあるようだ。
「うんうん♪ そっちの方が収まりも良くって可愛いよキュウちゃん♪」
「キュ、キュウ……?」
何が変わったのだろうか。
――いや、変わったか。
「ん? どうしたのよタケル、急に笑って……?」
「ああいや、ソフィアが笑ってるなって思ってさ」
「うん、まあ、笑ってるけど……?」
「――うん、いや、何でもないよ」
何でもないのが良いとも言えるだろうか。
ソフィアたちにとっては毎度の事で、もう慣れっこになってしまっているのだろう。
それでも自分はソフィアがまたいつものソフィアに戻ってくれて安心したのだ。
あの冷たい目や表情がただの殻だと聞かされてはいても、初めて見た自分にはどうしても不安だった。
要するに、こうしてまた普通に笑い合って話せる事が嬉しくてならないのだ。
(それにやっぱり、笑ってる人を見る方が楽しいし――)
――『そんな所でなに当然の事を言ってるんですの……?』
不意に、中庭でメアリーに言われたそんな言葉を思い出した。
(メアリーちゃんとも、こんな風に笑い合いながら話せるくらい仲良くなれるかな……?)
目の前で楽しげにしている三人の友人を眺めていると、そんな考えが浮かんでくる。
(仲良くはなりたいけど……友人とはなんか違うよな……?)
違う事はわかるのだが、何が違うのかがわからない。
そんな痒いところに手の届かない感じの思考に眉を寄せていると、サキトに肩をつつかれる。
「どうかしたのかタケル?」
「へ? ああ、ごめん、ちょっと考え事してたや」
「タケルって結構ボーッとしてる事多いよな」
「あはは……治そうとは思ってるんだけどね……」
考え込むと周りの音が聞こえなくなるのはともかくとして、会話中に唐突に思考に没頭する事くらいは治したいものだ。
「ああでも、タケルのそれって集中力が高すぎる事の弊害なのかもな。義姉さんが言ってたぞ。タケルの集中力は深さも早さも長さもなかなか異常だって」
「へ? そうなの?」
そう聞くとこの癖も仕方ながない様な気がしてくる。
いや、治すに超した事はないのだが。
「昨日どんな特訓してるのか聞いた時は内容が異常過ぎてそこまで考えられなかったけど、確かに相当な集中力が無きゃあんな事出来ないわよね……」
アイラが若干呆れ気味にそう口にする。
そういえば昨日特訓内容教えた時に三回くらい言い直させられたが、あれは内容が異常で理解が出来なかったからであったのか。
「あれ? なんでアイラは納得してるのにそんな呆れ気味なの?」
「あの内容を何でもない様にケロッとした顔で言ってるあんたに呆れてんのよ。しかもそれを何十セットもやった後にティスト様と打ち合いもしてるんでしょ? 体力はともかく確かに集中力は異常なのよあんた」
「体力はともかく」というのは恐らく、「体力の消耗は身体強化などで抑えられるが」という事だろう。
異常という言い方は何だか悪いように聞こえてしまうが、リオナさんだけでなくアイラもそう言うのだから、この際それは確かなのだろう。
しかし、「打ち合い」という部分だけは断固として否定したい。
「アイラ、アレは決して打ち合いなんかじゃない。一方的に打たれてるだけだ……」
「な、なんでそんな遠い目をして言ってるのよ……? ティスト様に特訓つけてもらうってだけで凄く光栄な事なのよ?」
「いや、まあ僕も特訓つけてもらえる事自体には感謝してるんだけど……まあ、ちょっとね……」
ティストさんがヒィヒィ言いながら凌いでいる自分の姿をどこか楽しんでいる様に感じられて――いや、確実に楽しんでいるので正直複雑な気分なのだ。
自身の事を「優しい優しい姉弟子様」だなんて言うのだから、もっと優しくして欲しいものだ。
「お待たせしました。玄関に飾らせてもらったんですけど、良かったですか?」
「うん、全然大丈夫だよ。寧ろ玄関で良いの?」
「はい! 色合いも本当に綺麗でしたし、寧ろ玄関の花瓶にぴったりに剪定されててびっくりしちゃいました!」
「ああ、ハヴァリーさんがディムロイさんと知り合いみたいだし、ここに来た事あるのかも」
ハヴァリーさんならば花瓶の大きさ程度なら記憶していても不思議ではないだろう。
「あっ! そのハヴァリーさんって方に曾おじい様が『クアリの花を一つ頂いている』って伝えておいて欲しいって言ってました」
「クアリの花ってなに?」
「確か条件に応じて様々な色に移り変わる花だったと思います」
「へー、そんな花があるんだ。あの赤い花の事かな? わかった、伝えておくよ」
「はい、お願いします。あっ! アイラちゃんサキトくん、それってもしかして……?」
自分との会話を終えたソフィアの目には、どうやら机の上に置かれた二体のぬいぐるみが映ったようだ。
「おう! 合格祝いだ! それに、今回も美味い飯食わせて貰ったしな!」
「今回のはパパがハクスレージの方から仕入れたって言ってたわ。いつもとひと味違うから存分に楽しみなさい」
ソフィアはその猫と熊を受け取ると、見るからにウキウキとした様子で並んでいる他のぬいぐるみの間にその二体を並べた。
少し置く場所を悩んでいたのは、きっと何かこだわりでもあるからなのだろう。
「二人ともありがとう!」
戻ってきたソフィアは満面の笑みである。
本当に好きなのだろう。
笑顔は健康に良いなんて話を聞いた事があるが、だとすれば好きな物があるというのはすこぶる体に良い事なのだろう。
(あの中にキュウが並んでも違和感なさそうだな……)
『並んでみようか?』
「え、いや、別に――」
言い切るよりも前にキュウがひとっ飛びにサキトがプレゼントした熊のぬいぐるみの隣へと並ぶ。
まあ思っていた通りあまり違和感はない――
「キュウちゃん! 並ぶんならそっちのアイラちゃんのくれた猫ちゃんの二つ隣です!」
予想外なソフィアの気迫にキュウは体をビクリと震わして慌てて言われたとおりに移動する。
どうやら本当にこだわりがあるようだ。
「うんうん♪ そっちの方が収まりも良くって可愛いよキュウちゃん♪」
「キュ、キュウ……?」
何が変わったのだろうか。
――いや、変わったか。
「ん? どうしたのよタケル、急に笑って……?」
「ああいや、ソフィアが笑ってるなって思ってさ」
「うん、まあ、笑ってるけど……?」
「――うん、いや、何でもないよ」
何でもないのが良いとも言えるだろうか。
ソフィアたちにとっては毎度の事で、もう慣れっこになってしまっているのだろう。
それでも自分はソフィアがまたいつものソフィアに戻ってくれて安心したのだ。
あの冷たい目や表情がただの殻だと聞かされてはいても、初めて見た自分にはどうしても不安だった。
要するに、こうしてまた普通に笑い合って話せる事が嬉しくてならないのだ。
(それにやっぱり、笑ってる人を見る方が楽しいし――)
――『そんな所でなに当然の事を言ってるんですの……?』
不意に、中庭でメアリーに言われたそんな言葉を思い出した。
(メアリーちゃんとも、こんな風に笑い合いながら話せるくらい仲良くなれるかな……?)
目の前で楽しげにしている三人の友人を眺めていると、そんな考えが浮かんでくる。
(仲良くはなりたいけど……友人とはなんか違うよな……?)
違う事はわかるのだが、何が違うのかがわからない。
そんな痒いところに手の届かない感じの思考に眉を寄せていると、サキトに肩をつつかれる。
「どうかしたのかタケル?」
「へ? ああ、ごめん、ちょっと考え事してたや」
「タケルって結構ボーッとしてる事多いよな」
「あはは……治そうとは思ってるんだけどね……」
考え込むと周りの音が聞こえなくなるのはともかくとして、会話中に唐突に思考に没頭する事くらいは治したいものだ。
「ああでも、タケルのそれって集中力が高すぎる事の弊害なのかもな。義姉さんが言ってたぞ。タケルの集中力は深さも早さも長さもなかなか異常だって」
「へ? そうなの?」
そう聞くとこの癖も仕方ながない様な気がしてくる。
いや、治すに超した事はないのだが。
「昨日どんな特訓してるのか聞いた時は内容が異常過ぎてそこまで考えられなかったけど、確かに相当な集中力が無きゃあんな事出来ないわよね……」
アイラが若干呆れ気味にそう口にする。
そういえば昨日特訓内容教えた時に三回くらい言い直させられたが、あれは内容が異常で理解が出来なかったからであったのか。
「あれ? なんでアイラは納得してるのにそんな呆れ気味なの?」
「あの内容を何でもない様にケロッとした顔で言ってるあんたに呆れてんのよ。しかもそれを何十セットもやった後にティスト様と打ち合いもしてるんでしょ? 体力はともかく確かに集中力は異常なのよあんた」
「体力はともかく」というのは恐らく、「体力の消耗は身体強化などで抑えられるが」という事だろう。
異常という言い方は何だか悪いように聞こえてしまうが、リオナさんだけでなくアイラもそう言うのだから、この際それは確かなのだろう。
しかし、「打ち合い」という部分だけは断固として否定したい。
「アイラ、アレは決して打ち合いなんかじゃない。一方的に打たれてるだけだ……」
「な、なんでそんな遠い目をして言ってるのよ……? ティスト様に特訓つけてもらうってだけで凄く光栄な事なのよ?」
「いや、まあ僕も特訓つけてもらえる事自体には感謝してるんだけど……まあ、ちょっとね……」
ティストさんがヒィヒィ言いながら凌いでいる自分の姿をどこか楽しんでいる様に感じられて――いや、確実に楽しんでいるので正直複雑な気分なのだ。
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