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第二章 軍属大学院 入学 編
149.部分点-Ⅰ
しおりを挟む(気まずい……)
もう歩き始めてから十分程経過したであろうか。
その間、自分はただひたすらメアリーの後を着いて歩いているだけだった。
メアリーの一言のおかげで、特に自分が何か悪い事をした訳ではないという事がわかり、心境としては非常に楽にはなった。
しかし、それ以降終始無言でひたすらに歩き続けるメアリーの後ろ姿を見ていると、なんと声をかけて良いものか――そもそも話しかけても良いものかわからず、自分も黙りこくってしまっていた。
そうして話しかける勇気も持てないまま、時間が経てば経つほどに空気は重くなってしまい、結果として今の気まずさが出来上がってしまっているのだ。
通路を外れて茂みの中に小さく出来た獣道の様な場所を進み出した時など、いったいどこに行くつもりなのかと聞きたかったが、メアリーの背中が「黙ってついてこい」と語っている様に感じられ、結局何も言えないままであった。
なんとも情けない話である。
いつもならそんな気まずい空気に晒されても、キュウを撫でる事で気を紛らわす事も出来るのだが、残念ながら当のキュウはメアリーの腕の中だ。
景色を見て気を紛らわせようにも、左右も上も緑に囲まれた現状ではそれもままならない。
そんな発散の仕様の無い焦燥感にやきもきし始めた頃、唐突にメアリーの背中との距離が縮まって――いや、単純にメアリーが立ち止まっただけだ。
いつの間にかメアリーの背中ばかり見つめて視界が狭まっていたようだ。
「ほら、着きましたわよ」
振り返ったメアリーのその言葉に辺りを見回してみると、そこは周りを雑木林に囲まれた小さな空き地だった。
変わった点といえば、外周部に一本大きな木が生えている事くらいだろうか。
根元が広く窪んでおり、背もたれにして座るにはちょうど良さそうだ。
雑木林によって外と中とで視界は隔絶されているため、何か騒ぎでも起こさない分には小部屋の様に扱えるだろう。
何だか隠れ家みたいで思わず少年心が擽られる。
「――何か感想は無いんですの?」
そうして景色に見とれていると、メアリーがそんな質問をしてきた。
どこか得意気なその表情を見るに、色よい感想が返ってくると既に確信しているのであろう。
きっとそれだけこの場所はメアリーのとっておきなのだ。
ならばこそ、適当な感想ではいけないと思うし、心底驚いてもいるのだが、残念ながら自分のセンスでは「凄い」だとか「綺麗」だとかいう何ともチープな感想しか思い浮かばない。
どうにかして少しでもマシな返答をしなくては――
「その、よくこんな凄い場所見つけられたなぁって……」
しかし結果として自分の口から出たのは、そんな褒めているのかさえよくわからない質問であった。
いや、質問かどうかさえ聞き手側からすればよくわからないであろう。
ただ、純粋に疑問に思ったのは確かなのだ。
正直よく見てはいなかったのだが、ここに至るまでに通ってきた獣道の入り口は、そこを入り口だと知っていなければ普通に見逃してしまうような場所だった。
こんな上から眺めでも出来なければ見つけられそうも無い場所を、いったいメアリーはどうやって見つけたのであろうか、と。
「はあ……別に期待はそれほどしておりませんでしたけど、もうちょっと他に何かありませんでしたの?」
案の定メアリーからは呆れたような反応が返ってきた。
当然の反応だとは思う一方、「期待をしていなかった」とこうも正直に言われると、ちょっぴり傷ついたりもするが――
「もっとこう『静かで落ち着けそうだ』とか『そよ風が爽やかで休憩にはもってこいだ』とか言い様があるでしょう?」
「でも僕が『そよ風が爽やかで――』って言い出したら、それはそれでメアリーちゃん引くんじゃない?」
「……言われてみれば確かにそうですわね。気持ち悪いですのでやめてくださいまし!」
「え? う、うん、ごめんね」
「い、いえ、そんな真に受けられましても……って、なんでまたあなたは笑っているんですの!?」
「……うん、ちょっとホッとしてね」
メアリーの言葉にちょっぴり傷つくそんな気持ち以上に、あの気まずい空気から解放された事が――こうしてまたくだらないやり取りを出来た事が嬉しいという気持ちが強かった。
「そう、ですの……」
しかしきっと、この感情はメアリーには理解し難いものだろう。
不快感を与えてしまう前に話題を変えよう。
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