アポロの護り人 ―異世界夢追成長記―

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第二章 軍属大学院 入学 編

150.部分点-Ⅱ

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「それで、この場所はどうやって見つけたの?」

 今度はしっかりと質問として受け取ってもらえるようにそう聞くと、メアリーはばつが悪そうに少し目を逸らしながら口を開く。

「その……別に私が見つけたわけではありませんの」

 何故ばつが悪そうにしているのかと疑問に感じたが、とりあえずそちらは気にせず話を続ける。

「え? じゃあ誰が見つけたの?」

「……曾おじい様に休憩場所として教えてもらったんですの。この場所を見つけたのがどなたかは知りませんわ」

 なるほど。
 恐らく得意気に感想を求めた手前、自分で見つけ出した訳ではないと明かすのが恥ずかしかったのだろう。

 立居振る舞いがしっかりしており大人びてはいるが、やはりまだ齢十一の女の子なのだ。
 そう考えるとなんだか無性に微笑ましくて――

「……プッ」

 堪えきれず思わず漏れ出してしまったその笑い声を聞き、内心を見透かされた事に気がついたのか、メアリーは顔を赤らめる。

「な、なんですのその意味ありげな笑みはっ!? あ、あんまりジロジロ見るんじゃ無いですの!」

 そんな事を言いながら、足早に自分の隣を離れ、大木の根元の窪みへと腰掛けた。

「ふふっ、ごめんごめん。でもそれじゃあ、この場所ってそれなりに知られてる場所なんだ……」

 人伝に聞いたということは少なからず周知されてしまっているのだろう。
 秘密基地の様だと心躍らせていただけに少しばかり残念に感じていた自分にしかし、メアリーから齎されたのは――

「……いえ、たぶん他には誰もいらっしゃいませんわ。もうこの場所を使いだしてしばらく経ちますけれど、一度も他の方をお見かけした事はありませんの」

 ――そんな否定の言葉であった。
 自分の予想が良い意味で裏切られたのだから、普通ならばその返答に喜ぶところであるのだが、ある一点が気になり思わず聞き返す。

「え? じゃあいつもここに一人でいるの?」

「ひ、一人の何が悪いんですのっ!」

 素朴な疑問として聞いただけだったのだが、予想外に反応が良い。
 どこか慌てた様子を見るに、ひょっとしたら少し気にしている部分なのかもしれない。

「そもそも、一人の方が余計な気も散らないですし! 人目もありませんから伸び伸びと過ごせますし!」

 訂正――相当気にしている部分だった様だ。
 そうだと理解した瞬間、自分の脳裏に一つの閃きが走った。

「別に悪いわけじゃ無かったんだけど……――でもそっか、一人の方が良いんだ……」

「へ? えぇ、まあ……」

「それじゃあ僕はあんまりここを使わないようにした方がいいかな……?」

「べ、別にそういうつもりでは――!?」

「結構好きな雰囲気の場所だけど、メアリーちゃんの邪魔はしたくないし……」

「い、いえ、ですから、その……」

 実に捻くれた閃きである。
 わざわざこの場所を教えてくれている時点で、自分が利用する事を容認してくれているのは明らかだ。
 しかし、慌てて取り繕うメアリーの姿が可愛らしくて、悪戯心からついからかってしまったのだ。

「ど、どうせ本を読んでいるだけですから、この場所にあなた一人増えたところで、その……」

 失言をしてしまった事に動揺している様で、目は泳ぎ、手は忙しなくキュウを撫でている。
 そんな様子も微笑ましく、思わず笑みが零れそうになるがどうにか我慢しようと努める。
 もう少しこの様子を眺めていたいのだ。

 そんな自分の悪巧みに気がつく様子も無く、尚も自分に誤解を与えたのではないかと気にして言葉を選ぶメアリーであったが――

「別段邪魔になるということは、その、ありませんわよ――って、どうしてあなたはまた笑って……? ま、まさかあなたっ……!? かっ、からかいましたわね!」

 泳いでいた視線が自分の顔を捉えた所で遂にかわれている事を理解した様で、顔を朱に染めながらそう言ってきた。

「ふふっ、ごめんごめん。メアリーちゃんが可愛かったからついね」

「か、かわっ――!? お、煽てれば有耶無耶に出来るとでも思ってるんですの!?」

「え? いや、本当に可愛かったから可愛いって言っただけだよ?」

「っ――!? あ、あなたよくもまあそんな事恥ずかしげも無く何度も何度も……!」

「恥ずかしい……かな? 結構頻繁に言ってるんだけど……」

 可愛いものを可愛いと言うことに何を憚ることがあるのだろうか。
 本気で不思議がっていると、依然として顔を朱に染めたままのメアリーは、その視線に少々の非難の色を含ませながら唇を震わせる。

「ひ、頻繁にですって!? ――少しばかり軟弱者だとは思っていましたけど、まさか軟派なだけだっただなんて……。フケツですわ!」

 随分な言われ様である。
 何か勘違いをされている様なので慌てて反論をする。

「な、軟派って……僕はただキュウとかテッチによく言ってるってだけで……」

「なるほど……――それはつまり私を人間として扱ってないって事ですの?」

 今度は予想外な角度からの反論を受けてしまった。

「い、いや、別にそういうわけじゃ……」

 断固として人間として見ていない訳ではないのだが、上手い反論が思いつかず、返答がしどろもどろになってしまった。
 そんな自分に対して、尚もメアリーは捲し立てる。

「でしたらいったいどういうつもりで――へ? い、いえ、別にあなたと同じだということに不満があるわけでは……」

「キュキュウッ!」

 が、しかし、半分勢い任せのように反論してきていたメアリーの語気が唐突に弱まった。
 何事かと思い様子を見てみると、キュウが自身を撫でるメアリーの手を両前足で確保し、その甲を何度も舐めていた。

 実際は単純に自分とメアリーのからかい合いが長く、暇になったキュウがそれを止めるためにとった行動だったのだが、メアリーはキュウが先の発言に対して抗議をしているのだと受け取った様だ。

 というより、全く気がつけなかったが軟派以降の件は自分をからかっていたのか。
 てっきり本気で勘違いされているのかと思っていたが、キュウ曰くただ仕返しにからかっていただけだそうだ。
 いつの間にか立場を逆転されていたとは、なかなかやるものである。

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