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第二章 軍属大学院 入学 編
151.部分点-Ⅲ
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「キュ、キュッ、キュッ!」
「も、もう、ふふっ、わかっ、わかりました! わかりましたからっ! そんなに責めないでくださいまし!」
感心している間にキュウの舐める場所が手の甲から顔に変わり、メアリーがギブアップを申し出ていた。
ちなみにキュウは別に責めている訳ではなく、ただ単に楽しくなっているだけだ。
(まあメアリーちゃんもなんだか楽しそうだし、しばらくそのままでも良いか)
そうして、いい加減自分も腰を落ち着けようと大木の根元の窪みを見た時、ある事に気がついた。
メアリーが窪みの中心より少し右にずれて座っているのだ。
窪みは詰めれば五人ほど座れそうな程に広いとはいえ、普通一人で座るつもりならばど真ん中に陣取るであろう。
それをわざわざずれてくれているという事は――
(――なんかちょっと照れるな……)
まるで自分が隣に腰掛けるのが“当然”かのように行動してくれているという事実が無性に嬉しく感じ、照れくささから逆に座るのを少しばかり躊躇してしまう。
しかしいつまでもまごついていても仕方がないと意を決し、ゆっくりとメアリーの隣へと腰を下ろした。
(ちょ、ちょっと近すぎたな……?)
人にはそれぞれパーソナルスペースと呼ばれるものがある。
相手との関係性によって変化する不快に感じない距離感の事を言うのだが、座ることに精一杯になっていた自分はその点に対する思慮に欠けており、すぐ隣――少し肘を張れば接触してしまうほど近くへと腰を下ろしてしまったのだ。
いくら何でも近すぎた事は理解しつつも、だとすればどの程度の距離感で居ればいいのかがわからず、何度か小さく座り直しながら距離を少しずつ離していく。
(このくらい離れれば流石に大丈夫かな……?)
最終的には人ひとりが間に座れる程度の距離に落ち着き一人安心していると、いつの間にかキュウによる顔舐めから解放されていたメアリーが、どこか呆れた様な視線をこちらに向けながら口を開いた。
「何をモゾモゾと動いているんですの気持ち悪い」
「い、いや、ちょっと近くに座りすぎちゃったから……」
「そもそも隣に腰掛ける事を許した覚えなどないのですけれど?」
「えっ!? だ、だめだったの!?」
自分の先ほどまでの舞い上がり様が勘違いだったのだと思った瞬間、羞恥で顔が赤くなる。
それよりも許してくれていないならば、急いでこの場所を離れなければ――
「まあ――」
慌てて立ち上がろうとしていた自分の体は、メアリーの声と共に前方から吹いてきた柔らかい風に押されて再び元の場所へと収まった。
突然の事に困惑しながらも魔法を行使した当人の方へと目を向けると――
「――ここに来た時に、この子を私にこうして撫でさせるのであれば、許してさしあげない事もないですわよ」
顔を少し背けながら、そう言ってきた。
ほんの少し、本当に少しだけ隠しきれなかったその頬は薄らと紅潮していて――
(――ああ、そうか)
今になってやっと、メアリーに棘のある言葉を使われても悪い気がしない理由がわかった。
もちろんメアリー自身に悪意がないと言うのも一因ではある。
「――そっか、うん、じゃあそうさせて貰おうかな」
別にキュウが嫌がりさえしなければいつでも好きな時に撫でてくれていいのだが、そんな野暮な事は言うまい。
だってこれは――
「またそうやってニヤニヤと……! いつか痛い目見せてやりますから覚えておきなさいまし!」
――ただの照れ隠しなのだ。
要するに自分には、メアリーの言葉遣いが背伸びをした強がりの様に感じられていたのだ。
だとすれば微笑ましさを感じこそすれ、嫌悪感など覚えるはずも無い。
「あんまり痛いのは勘弁して欲しいけど、まあ楽しみにしとくよ」
「痛い目を見せると言っているでしょう!? 楽しみになんてするんじゃありませんの!」
「そういえばさっきの尻もちで頭打っちゃってちょっと痛いんだけど?」
「人の話を最後まで聞かないあなたが悪いんですの! まったく……」
それだけ言ってメアリーは、マジックバッグから何かの本を取り出して読書をし始めた。
会話はとりあえずここまでと言うことだろう。
先ほどまでの騒がしさから一転して、辺りには木々の葉が擦れ合う音が満ちる。
たまに静かに響く本のページをめくる音もアクセントになって心地よく、しばらく聴いているとだんだんと瞼が落ちそうになっていく。
なぜか酷く懐かしい気持ちになり、眠たくなるほどにリラックスしているのに、どこか落ち着かない。
きっとまだ、この場所に慣れていないからだろう。
ぼんやりとそんな思考を浮かべている間にも、瞼はどんどんと重くなってきた。
(まあ……少しくらいなら……大丈夫かな……?)
寝ても良い。
そう妥協した瞬間、自分はゆっくりと眠りに落ちていった。
言わずもがな、特訓の再開には遅れ、ティストさんにこってりと絞られたのであった。
「も、もう、ふふっ、わかっ、わかりました! わかりましたからっ! そんなに責めないでくださいまし!」
感心している間にキュウの舐める場所が手の甲から顔に変わり、メアリーがギブアップを申し出ていた。
ちなみにキュウは別に責めている訳ではなく、ただ単に楽しくなっているだけだ。
(まあメアリーちゃんもなんだか楽しそうだし、しばらくそのままでも良いか)
そうして、いい加減自分も腰を落ち着けようと大木の根元の窪みを見た時、ある事に気がついた。
メアリーが窪みの中心より少し右にずれて座っているのだ。
窪みは詰めれば五人ほど座れそうな程に広いとはいえ、普通一人で座るつもりならばど真ん中に陣取るであろう。
それをわざわざずれてくれているという事は――
(――なんかちょっと照れるな……)
まるで自分が隣に腰掛けるのが“当然”かのように行動してくれているという事実が無性に嬉しく感じ、照れくささから逆に座るのを少しばかり躊躇してしまう。
しかしいつまでもまごついていても仕方がないと意を決し、ゆっくりとメアリーの隣へと腰を下ろした。
(ちょ、ちょっと近すぎたな……?)
人にはそれぞれパーソナルスペースと呼ばれるものがある。
相手との関係性によって変化する不快に感じない距離感の事を言うのだが、座ることに精一杯になっていた自分はその点に対する思慮に欠けており、すぐ隣――少し肘を張れば接触してしまうほど近くへと腰を下ろしてしまったのだ。
いくら何でも近すぎた事は理解しつつも、だとすればどの程度の距離感で居ればいいのかがわからず、何度か小さく座り直しながら距離を少しずつ離していく。
(このくらい離れれば流石に大丈夫かな……?)
最終的には人ひとりが間に座れる程度の距離に落ち着き一人安心していると、いつの間にかキュウによる顔舐めから解放されていたメアリーが、どこか呆れた様な視線をこちらに向けながら口を開いた。
「何をモゾモゾと動いているんですの気持ち悪い」
「い、いや、ちょっと近くに座りすぎちゃったから……」
「そもそも隣に腰掛ける事を許した覚えなどないのですけれど?」
「えっ!? だ、だめだったの!?」
自分の先ほどまでの舞い上がり様が勘違いだったのだと思った瞬間、羞恥で顔が赤くなる。
それよりも許してくれていないならば、急いでこの場所を離れなければ――
「まあ――」
慌てて立ち上がろうとしていた自分の体は、メアリーの声と共に前方から吹いてきた柔らかい風に押されて再び元の場所へと収まった。
突然の事に困惑しながらも魔法を行使した当人の方へと目を向けると――
「――ここに来た時に、この子を私にこうして撫でさせるのであれば、許してさしあげない事もないですわよ」
顔を少し背けながら、そう言ってきた。
ほんの少し、本当に少しだけ隠しきれなかったその頬は薄らと紅潮していて――
(――ああ、そうか)
今になってやっと、メアリーに棘のある言葉を使われても悪い気がしない理由がわかった。
もちろんメアリー自身に悪意がないと言うのも一因ではある。
「――そっか、うん、じゃあそうさせて貰おうかな」
別にキュウが嫌がりさえしなければいつでも好きな時に撫でてくれていいのだが、そんな野暮な事は言うまい。
だってこれは――
「またそうやってニヤニヤと……! いつか痛い目見せてやりますから覚えておきなさいまし!」
――ただの照れ隠しなのだ。
要するに自分には、メアリーの言葉遣いが背伸びをした強がりの様に感じられていたのだ。
だとすれば微笑ましさを感じこそすれ、嫌悪感など覚えるはずも無い。
「あんまり痛いのは勘弁して欲しいけど、まあ楽しみにしとくよ」
「痛い目を見せると言っているでしょう!? 楽しみになんてするんじゃありませんの!」
「そういえばさっきの尻もちで頭打っちゃってちょっと痛いんだけど?」
「人の話を最後まで聞かないあなたが悪いんですの! まったく……」
それだけ言ってメアリーは、マジックバッグから何かの本を取り出して読書をし始めた。
会話はとりあえずここまでと言うことだろう。
先ほどまでの騒がしさから一転して、辺りには木々の葉が擦れ合う音が満ちる。
たまに静かに響く本のページをめくる音もアクセントになって心地よく、しばらく聴いているとだんだんと瞼が落ちそうになっていく。
なぜか酷く懐かしい気持ちになり、眠たくなるほどにリラックスしているのに、どこか落ち着かない。
きっとまだ、この場所に慣れていないからだろう。
ぼんやりとそんな思考を浮かべている間にも、瞼はどんどんと重くなってきた。
(まあ……少しくらいなら……大丈夫かな……?)
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