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第二章 軍属大学院 入学 編
152.悪意なき相違-Ⅰ
しおりを挟む「こんにちは。今日もお邪魔するよ」
「……こんにちはですの。邪魔をするのなら帰ってくださいまし」
緑の通路を抜け、木の窪みに腰掛けて読書をしている先客へと挨拶をすると、そんなつっけんどんな言葉が返ってきた。
まず一言目はちゃんと挨拶を返してくれる辺りがなんとも"らしい"と感じつつ、ここ数日でこの類いの冗談にも慣れたものなので二つ返事で対応する。
「そっか、じゃあ帰るね。行こっかキュウ」
『え? 帰るの?』
疑問符を浮かべるキュウを連れて、踵を返して再び緑の通路へと足を踏み入れようとしたところで、乱暴に本を閉じた音と共に慌てた様子の相手側の声が届く。
「ちょっ!? ちょっとした冗談ですの! いちいち真に受けるんじゃありませんの!」
「え? 冗談だったの?」
「そ、そうですの! 毎日のようにやっているのですからいい加減慣れなさいまし!」
「なんだ、じゃあ邪魔しても良いんだってさ。良かったなキュウ!」
『なるほどね、わかった!』
自分の意図を理解した様子のキュウが、窪みから立ち上がって数歩自分たちに近づいてきていた相手――言わずもがなメアリーへと宙を駆け接近していく。
「え? いえ、別に邪魔をして良いと言っているわけではありませんわきゅっ――!?」
勢いのついたキュウのモフモフとした腹ダイブを顔にくらったメアリーは、変な悲鳴を上げながら後ろへと倒れ込みだした。
そのまま倒れては痛いだろうと思い、メアリーの後方にポルテジオを現出させて軽い風の魔法を放ち、転倒の勢いを殺す。
すると、狙い違わずメアリーはゆっくりと尻もちをついた後、仰向けに倒れた。
「わぷっ――や、やめ――きゃっ、息がっ、プフッ――」
『わーい♪』
その体勢のままキュウに顔の上をバタバタと右往左往されているメアリーは、またもや変な悲鳴を上げているが、時折垣間見える口角が上がっているのできっと大丈夫だろう。
そんな様子を横目に通り過ぎ、この数日で自分の定位置となった“大木の窪みの中心から少し左寄り付近”へと腰を下ろす。
この場所に座ると、いくら周りが騒がしかろうと否が応にも落ち着いてくるから不思議なものである。
とりあえず座りはしたものの、メアリーにとっての勉強の様に、自分には特にこの場所でやりたいことがあるわけではない。
なのでいつも通り木漏れ日を眺めながら二人の戯れを聞き流していると、ついにメアリーが笑いながら音を上げる。
「アハハっ! ぎぶっ、ギブですの! もう降参、降参ですの~っ!」
想像以上にメアリーが笑っているので不思議に思い、そちらに目を向けてみる。
すると、メアリーはいつの間にかうつ伏せになっており、襟首からはキュウが顔をだして鼻をフンフンと鳴らしていた。
「え……? 何してるのキュウ?」
『ん? お腹とか背中とかくすぐってたの!』
「いや、何を平然と服の中にまで入ってるのさ……」
流石のキュウでも他人の服の中にまで侵入するとは思っていなかったので、驚きを禁じ得ない。
『あれ? うーん、なんか別に良い気がして……うーん……?』
キュウ自身もその行為が非常識である事は理解している様なのだが、何故無抵抗にそうしてしまったのかはわからない様で首を傾げている。
(メアリーちゃんも楽しそうだったけど、流石に今のはマズいんじゃ……?)
メアリーも年頃の女の子。
いくら相手がキュウとはいえ、笑い転げてはいたが、服の中にまで入られたのは不愉快ではなかっただろうか。
そう不安に思い再びメアリーへと目を向けると、依然として息を荒げながら恨めし気な視線を向けていた。
「あなた……精霊に何て事を仕込んでいるんですのっ……!」
――自分に。
「ええっ!? ぼ、僕が仕込んだわけじゃないよ!?」
とんだ言いがかりである。
いったいどんなもの好きが、自身の契約精霊に女の子の服の中に入って弄りまわす芸を覚えさせるというのだ。
言い逃れようもなく、ただの変態ではないか。
犯罪一歩手前どころか、もはやただの犯罪である。
「じゃあいったい誰が仕込んだと言うんですの!?」
「いや……それはキュウが勝手に……」
「言い逃れのために契約精霊を売るだなんて……」
メアリーがわざとらしい程に『信じられない』とでも言いたげな目を向けてくる。
(確かにキュウにメアリーちゃんとじゃれあう様にけしかけたのは僕だし……)
そんな目を向けられていると、何だか本当に自分がいけない事をしてしまった様な気がしてきてしまった。
「そ、その、ごめんね……?」
何に対しての謝罪なのかもよくわからず、半分混乱しながらそう述べると――
「え? 本当にけしかけたんですの……?」
――ドン引きしていた。
「ち、違うよ!? やったのはキュウの勝手だけど、確かに監督責任は僕にあったかもしれないなと思って……その……」
「何をまごまごと言い訳しているんですの! 誰が悪かったのかはっきりとおっしゃいなさいまし!」
「ぼ、僕が悪かったです……」
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