魔王を倒した天才武道家ですが、ギルドの入り口で新人にカラむ仕事をしています。

筋肉コスメティック

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魔王を倒した、その後で

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比較的穏やかな港町であるイチノにいると、忘れてしまいそうになるが、
昨年の今頃は、もっと世界は陰鬱な状態だった。
正直なところ、この国はまもなく滅ぶ、と誰もが信じていた。

これまでも何度か行われてきた、魔族と人間との争い。
史上最強と言われた魔王に率いられた、魔族軍が一気に王都に迫り、王族をまとめて拉致した。

王都を抑えられたことで、命令指揮系統が一気に砕かれ、
王立軍は組織だった対処が取れなくなった。
王都以外の町や村も、同様に中央からの情報が入りづらくなり、孤立していった。

どんどん増えてくる魔物に、孤立した町や村は順番に占領されていった。
王都の精鋭でも対抗できなかった魔族軍に、人間は無力だった。

このまま、人間は、魔物に屈する、そう誰もが思った。

その時、本当に、たまたまだった、と思われるのだが。
星が、落ちた。
大きな隕石だった。

隕石は、王都を直撃し、多くの人間の被害と共に、占領中だった魔族軍の主力部隊をも一気に壊滅させた。

そして、人間に反撃の機会を与えた。
主力となったのは、命令系統が機能していない王立軍ではなく、
それまでその日暮らしの無頼の輩と思われていた、冒険者たちだった。

俺もその一人だ。
組織に属するのは苦手だったが、祖父と父親から受け継いだ頑丈な身体を、
十二分に活かして、武道家となった。

道具を使うのは苦手だったが、誰よりも早く、誰よりも多く拳を振るうことを、楽しんだ。
いつの間にか、魔族の倒し方も、少しずつわかってきて、殴られた分、殴り返すことが出来るようになった。

気がつけば、天才武道家と呼ばれていた。

同じように、各地で名を挙げていた、戦士、魔法使い、僧侶と自然と共闘する機会が増えた。
パーティというよりは、ギルド単位での共闘のようなものだった。

戦士の率いたギルドは熱く、魔法使いの率いたギルドは幅広く、僧侶の率いたギルドは相手を問わず、
そして、俺の属するギルドもその強さで、能力を遺憾なく発揮した。

結果的に、主力を潰された魔族軍に、愚連隊の集団である冒険者ギルドは、立ち向かう力を持った。
史上最強と呼ばれた魔王からすれば、想定外もいいところだっただろう。

俺たちは、それぞれのギルドを率いて、最終的に魔王に戦いを挑んだ。
戦士、魔王使い、僧侶、武道家としての個人の戦いだけでなく、ギルドの冒険者を頼りにできたのは、
とても心強かった。

だから、魔王を倒せたのは、たまたま俺たち4人の力が最後に結集したタイミングだったように見えるけれど、
実際は、冒険者みんなの力が集まってこそのものだった、ということを俺は知っている。

救い出した王が、俺たち4人を代表して表彰したことも、英雄として祭り上げたことも、
役割としては受け入れたが、本音では、自分が天才だとか英雄だとか考えたことはなかった。
あくまで、たまたまだ。

だから、褒美として望むものを、王から問われた時、俺たち4人は、ギルドの自治を求めた。
王立軍とは別に、冒険者の地位を認めさせ、冒険者として生きる人生の道筋を作った。
これで、冒険者になりたい、と思う若者が、ギルドで冒険者登録をすることで、冒険者として稼いで、
稼いだ金で冒険者として生きていくことが出来るようになった。

これで、俺は満足した。
戦士や、魔法使いや、僧侶はわからない。でも、俺は満足した。

そして、俺は、生まれ故郷のイチノの港町のギルドに戻った。
ギルドでは、戦いが終わった後に、みんなで散々酒を飲んで祝った時に、
俺の気持ちは語ったので、みな、穏やかに俺を迎え入れてくれた。

ギルド長なんかにはなりたくない。
俺は単なる運の良かった冒険者だ。
ただ、今後もギルドで、冒険者のためになるようなことはしていたいと思った。

その時、ギルド長から言われたのが、今の仕事だ。
ギルドの前で、好きなだけ、騒いで、新人にカランでくれ、と。
一体何を言ってるんだと思うよな。正気を疑うわな。

でも、結果的に、俺はその仕事を引き受けた。これが意外といい仕事なんだよ。
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