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坂の上にあるいちご園に到着した。
毎年親戚がしていたいちご園だが、今年は地震の影響で開園しないらしい。
それでもいちごは育っているので、好きなように食べてきていいと言われている。
ビニールハウスに入り、いちごを選ぶ。
赤くてつやつやしたいちごは宝石のようで綺麗だ。
美味しそうだね、と諸星を見ると、彼女がショルダーバッグからなにかを取り出そうとしていた。
「ちゃんと持ってきた」
諸星がわたしに手渡したのはお弁当とかに入っている小さな魚の形をした醤油入れ。
律儀にそれを持ってきた諸星はドヤ顔をして宮本を見下ろしていた。
その顔は満点のテストを母親に渡した子供のように、褒められるのを期待している。
「わざわざ持ってきたの?」
「だって今日はそれが目的だろう?」
「醤油くらいならウチ近いから、寄ってけば良いのに」
「そんなの聞いてないし」
むっと黙った諸星は褒められなかったことに拗ねているようだ。
(案外分かりやすい)
唇を尖らせた諸星を笑うと「せっかく持ってきたのに」と溢す。
不満げな彼女に宮本は特別大きないちごを取って手渡す。
「ほら」
意外に食いしん坊の諸星だ。
それもいちご狩りをすると決めていた今日。諸星の口はすっかりいちごを欲しているだろう。
「せっかくだから最初はそのまま食べよう」
ゴクリと諸星が喉を鳴らす。
本当に分かりやすい。
ゆっくりといちごを食べる。大きないちごは一口では食べきれない。
薄い皮だからか、舌だけで潰れそうだ。
果肉を噛むと甘酸っぱいいちごの果汁が口いっぱいに広がる。
「……おいしい」
あっという間に大きないちごを食べ終えた諸星はチラチラといちごの苗木を見ていた。
「好きに取って良いって言われているから」
「うん」
分かりやすく機嫌を直した諸星は意気揚々と次のいちごを選んでいく。
手に持っていたままの醤油入れは邪魔になったらしく、ショルダーバッグに片づけた。
「試さなくても良いの?」
「……後でも試せるし」
諸星の視線はもはやいちごにしか向かっていない。
そんな諸星の態度に苦笑して、自分もいちごを取る。
「うん、おいしい」
「こんなに食べれるなんて贅沢だ」
パックのいちごなんかすぐなくなると諸星が呟く。
たしかにこの食べっぷりじゃすぐに食べ終えるだろうことは予想が付く。
夢中になって食べているからか、諸星の爪の先が赤く染まっていた。
(あとでウェットティッシュ渡すか)
そう思いながら、諸星の食べっぷりを見る。
器用にいちごを摘む諸星に「いちご狩りしたことあったの」と聞いた。
「幼い頃に何度か。でも最近はしていなかったから嬉しい」
「そっか」
「楽しみ過ぎて、昨日の夜はいちごの摘み方をネットで調べたし」
「わざわざそんなことしなくても」
わたしが教えるのに、と宮本が言う前に、諸星が続けた。
「だっていちご狩りなんか中々できないし」
こういう時、東京で育った諸星との差を感じる。
宮本にとっていちご狩りは春の通過儀礼。毎年何度かできる体験はさして特別だと感じられない。
けれど、諸星はそれを違うと言い切った。
「本当に贅沢だ」
きらきらとした目で、いちごを食べる諸星に、ここまで喜んでもらえるのなら、誘ったのは正解だったのかもしれない。
ガラではないことを自覚しながら宮本は素直にそう思ったのは、諸星の視線が今ばかりはいちごに向けられているからだろう。
毎年親戚がしていたいちご園だが、今年は地震の影響で開園しないらしい。
それでもいちごは育っているので、好きなように食べてきていいと言われている。
ビニールハウスに入り、いちごを選ぶ。
赤くてつやつやしたいちごは宝石のようで綺麗だ。
美味しそうだね、と諸星を見ると、彼女がショルダーバッグからなにかを取り出そうとしていた。
「ちゃんと持ってきた」
諸星がわたしに手渡したのはお弁当とかに入っている小さな魚の形をした醤油入れ。
律儀にそれを持ってきた諸星はドヤ顔をして宮本を見下ろしていた。
その顔は満点のテストを母親に渡した子供のように、褒められるのを期待している。
「わざわざ持ってきたの?」
「だって今日はそれが目的だろう?」
「醤油くらいならウチ近いから、寄ってけば良いのに」
「そんなの聞いてないし」
むっと黙った諸星は褒められなかったことに拗ねているようだ。
(案外分かりやすい)
唇を尖らせた諸星を笑うと「せっかく持ってきたのに」と溢す。
不満げな彼女に宮本は特別大きないちごを取って手渡す。
「ほら」
意外に食いしん坊の諸星だ。
それもいちご狩りをすると決めていた今日。諸星の口はすっかりいちごを欲しているだろう。
「せっかくだから最初はそのまま食べよう」
ゴクリと諸星が喉を鳴らす。
本当に分かりやすい。
ゆっくりといちごを食べる。大きないちごは一口では食べきれない。
薄い皮だからか、舌だけで潰れそうだ。
果肉を噛むと甘酸っぱいいちごの果汁が口いっぱいに広がる。
「……おいしい」
あっという間に大きないちごを食べ終えた諸星はチラチラといちごの苗木を見ていた。
「好きに取って良いって言われているから」
「うん」
分かりやすく機嫌を直した諸星は意気揚々と次のいちごを選んでいく。
手に持っていたままの醤油入れは邪魔になったらしく、ショルダーバッグに片づけた。
「試さなくても良いの?」
「……後でも試せるし」
諸星の視線はもはやいちごにしか向かっていない。
そんな諸星の態度に苦笑して、自分もいちごを取る。
「うん、おいしい」
「こんなに食べれるなんて贅沢だ」
パックのいちごなんかすぐなくなると諸星が呟く。
たしかにこの食べっぷりじゃすぐに食べ終えるだろうことは予想が付く。
夢中になって食べているからか、諸星の爪の先が赤く染まっていた。
(あとでウェットティッシュ渡すか)
そう思いながら、諸星の食べっぷりを見る。
器用にいちごを摘む諸星に「いちご狩りしたことあったの」と聞いた。
「幼い頃に何度か。でも最近はしていなかったから嬉しい」
「そっか」
「楽しみ過ぎて、昨日の夜はいちごの摘み方をネットで調べたし」
「わざわざそんなことしなくても」
わたしが教えるのに、と宮本が言う前に、諸星が続けた。
「だっていちご狩りなんか中々できないし」
こういう時、東京で育った諸星との差を感じる。
宮本にとっていちご狩りは春の通過儀礼。毎年何度かできる体験はさして特別だと感じられない。
けれど、諸星はそれを違うと言い切った。
「本当に贅沢だ」
きらきらとした目で、いちごを食べる諸星に、ここまで喜んでもらえるのなら、誘ったのは正解だったのかもしれない。
ガラではないことを自覚しながら宮本は素直にそう思ったのは、諸星の視線が今ばかりはいちごに向けられているからだろう。
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