僕は魔王と旅をする〜最強魔王と僕の物語〜

Sirasu

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1話

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 ーー目が覚めた。
 いつもは目覚ましなどがなくても自然と起きるのだが、今朝は一段とうるさい村の喧騒によって眠りから覚めてしまった。
 節々の痛みを堪えて体を起こし、この騒がしさの原因である村の中央へと向かう。

 正直なところ、この騒動の原因は十中八九わかっていた。
 今日は魔王に前回の”贄”を差し出してからちょうど半月。今回もその選考……という名の出来レースをしているのだろう。

……まったく長老たちも体裁だけは立派にしようとするもんだ。贄の選出など会議で既に決まっているものを、わざわざ村人の理解と自分の立場を守るために演技をを大々的に行っている。

 僕が村の中央へと近付くと会議中の役員の一人がこちらに気付き、密かに村長へ耳打ちする。どうせ予定通りなのだろう。

「……もはや悩んでいる時間は無い。出来るものなら儂が行きたいが、この村の将来を考えると村長である儂は必要不可欠……誰か自主的に出てくれるものはおらんか……」

 深刻そうな顔で村長は口にした。ちなみに、この茶番は毎度行っている、今の言葉は”このタイミングで出ろ”という合図のようなものだ。もしこのタイミングを逃すと悪役へと仕立て上げら満場一致で贄にされる。

……既に覚悟はしていた。この村の中で一番の無能は僕なんだから。

「……僕が、生贄として魔王城に行きます」

 そう僕が口にした瞬間、村長含めた村の役員全員がこちらへと振り向いた。

「おお、其方そなたが言ってくれると申すのか!儂も村長として胸が張り裂けそうな思いだが……ここは其方の心持ちを尊重すべきか、いやしかし……」

(見え見えの演技なんてしやがって……)

 村長はそう口にしながら身振りも態度も大げさに周囲の村人へとアピールし始めた。しかし、そんな話をしながらも裏では贄を送り出す準備が淡々と行われていた。

「この村のために死ねるなら本望です。加えて僕が犠牲になれば他に悲しむものがいなくて済むなんて、これ程嬉しいことはありません」

 村長の思い描くシナリオに沿うように僕も話を合わせる。どうせ結果が変わらないのなら手っ取り早く終わらせたい。

「そこまで贄を志願するのなら仕方ない…………アーレは馬車、ドーラは護衛の準備を至急済ませよ」

 さも心苦しそうにそう言い放つと、待ってましたと言わんばかりに馬車と槍を持った番兵が颯爽と登場した。

(結局、僕は何もできなかったな)

 手錠に繋がれ体の自由を拘束された状態で、僕はそんなことを考え始めていた。
 僕が生まれて間もない頃に父さんは失踪し、その数年後には母親も行方不明となった。僕自身にその時の記憶は全く無かったが、隣人曰く家庭の仲は悪く父が家に帰ってこないことは当然の事のようにあったらしい。

 両親がいなくなったあと、身寄りのない僕は森へ出て薬草や木材を集めて生計を立てていた。だが、当時15歳前後の僕には薬学の知識もなければ人一倍筋力がある訳でもなく、換金したお金は当日生きるだけでも精一杯の金額だった。
 そんな無理な生活を続けていれば病気になるのも当然だが、薬を買う金なんてある筈もなくここ最近では寝たきりで死ぬのを待つだけのような状況だった。

 もともと、僕は人のために生きる人間になりたかった。生活が貧しかろうと、他人の笑顔を見ることが出来るならそれが最大の報酬として受け取れるような人間でありたかった。
 だがそれは叶わぬ夢だった。村にで不足しているものを提供しても当然のような態度で返され、僕が人を助けることがあっても他人が僕を助けてくれることとは無かった。そんなことを続けているうちに僕は病にかかったが、動けなくなった僕を見る目は全て冷たかった。

 例え病が完治し贄として行かずに良くなったとしても以前のように献身的な人間にはなれないだろう。僕は既に富む人を憎み、喜ぶ者を妬むような奴だ、当然だろう。

「…………ああそうか。僕も、汚れていたんだ」

 走馬灯のような思考の中で出た考えは、思わず口から漏れていた。
 同時に目の前が潤む。所詮、僕の生き様なんてこんなものだったのか。

 魔王城へと向かう準備が出来たようで、護衛兼監視役に馬車へ押し込められる。村から魔王城の距離は約30キロメートル。3時間程度あれば着く距離で、それと同時に僕の命も終わるだろう。

 鞭の音が村に響き、馬車内がガタンと揺れる。外は確認できないが村を出たのだろう。馬の蹄の音が軽快になる中、僕は無心で死を待っていた。
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