エルダーストリア-手垢まみれの魔勇譚―

秋山静夜

文字の大きさ
61 / 129
第二譚:灼銀無双の魔法譚

魔勇のタッグ

しおりを挟む


「エミルさんが戦いで楽しめたら、後は全て任せて良いんですね?」
 エミルに負わされた、決して軽くはないダメージを堪えながらイリアは改めて確認をする。


「そう言ったはずだよ。あ、接待みたいな戦い方したらそれこそタダじゃおかないけど。」


「ええ、要は使エミルさんに勝ちにいけはいいんですよね? 任せて下さい。」
 

「はん、わかってんじゃん。それじゃ行くよ!」


「ええ、もちろん。行きますよ。!」


 イリアの掛け声と同時に、彼女の頭を飛び越えてアゼルがエミルに斬りかかる。


「ふん、悪く思うなよ!」


「!?」

 突如襲ってきたアゼルに虚を突かれたエミルは大袈裟に転がりながら彼の魔剣を避ける。

 今までの華麗な回避は見る影もない。

 それはそうであろう。
 今のエミルはイリアの登場によってまったく魔力を貯められない。
 魔法の加護なしでアゼルの魔剣を受け止めるのは、さしものエミルにもできなかった。

「あー、驚いた。魔王もまだやる気あったんだね?」

 転がって十分に距離をとったエミルは土埃を払いながら起き上がる。


「当たり前だ。誰がこの程度で諦めるかよ。それはそうとイリア、俺の気配によく気付いたな。」


「私の領域の中にあって色濃く魔素を放つ存在はそういないですからね。それに、アゼルがあの程度でへこたれるなんて思いませんよ。」

 
 アゼルとイリアは並び立ってエミルと向き合った。

「おいおーい、まさか二人掛かりで攻めてくる感じ? …………勇者と魔王のタッグとかマジ?」


「アレ? エミルさん。ダメでしたか?」
 イリアは珍しく意地悪気な笑みを見せる。


「ん? そんなのもちろん、─────いいに決まってるじゃん!」

 本当に嬉しそうにエミルは答え、二人に向かって走りだす。


「チッ、舐めるなよ!」

 アゼルは真っ直ぐに攻めかかるエミルへと斬りかかる……が、来るとさえわかっていれば、エミルは魔法なしでも超絶的な技巧でアゼルの魔剣を捌き、カウンターの掌底を見舞う。

「くっ、この程度!」

 しかし、魔法の補助のない攻撃ではアゼルへの有効打には至らない。

 エミルが正面で相対するアゼルの剣戟を捌いている間に、イリアはすぐさまエミル後ろへ回り込んでエミルの脇腹へ向けて刺突を放つ。

「は!」

 完全なる挟撃をイリアが仕掛けたその瞬間、


「風纏!」

 突如エミルを中心に風が巻き起こり、アゼルとイリアを吹き飛ばす。

「な、魔法だと!? イリアがどうにかしたんじゃなかったのかよ。」


「イタタッ。……ええ、エミルさんの魔力はさっき全部吹き飛ばしましたし、私の領域内では魔力を再度溜め込むこともできないはずなんですが。」


「ははは、ホントに頭が固いねイリアは。調度良い魔力タンクがにあるんだから。魔力は溜め込めなくても、その場で生成してそのまま使いきってしまえばいい。ま、常時発動型の魔法はイリアに消されちゃうけど、瞬間的な魔法ならまだまだ使えるよ。」

 アゼルを指してエミルは語る。

 そう、先ほどの攻防では、イリアが斬りかかる瞬間にエミルはアゼルの胴体に掌底を打ち込み、それと同時に少量の魔素を吸収して魔力を生成、ノータイムで「風」の自己強化魔法を使用したのだった。


「…………どうやらアゼルのせいみたいですよ。」

「…………いやいやそんなのどうしろってんだよ。」


 発動までにタイムラグがあるという魔法最大のデメリットを、驚異的な運用効率でほぼタイムロス無しで使用する彼女はまさにチートずると呼ぶに相応しかった。


「でも、ノータイムでこの場で出せるのは風と土の魔法だけのはずです。ここには他の属性のジンの要素が見当たりませんし。もし他の属性を出すなら必ずあの黒いローブに触れた上で詠唱してきますので注意してください。」


「ちょっと~。仲間の秘密バラさないでよねー。」
 やや離れたところからエミルがブーブーと抗議してくる。


「っ、とにかく。魔法は私がキャンセルしていきますから、アゼルは遠くから魔石で援護してください。エミルさんもあれなら吸収できないみたいですし。」


「仕方ない。だが細かいコントロールは苦手だからな、間違ってお前にぶつかっても文句は言うなよ。」


「いえ、別にぶつけても良いんですよ?」
 キョトンとした顔でイリアは言う。
 

「いやいや、それは流石に俺でも気が引けるぞ。」


「いえ、気にしないで大丈夫です。……私が魔石を触るといつも勝手に壊れちゃうんですよ。────壊れちゃうんです。」

 少し悲しいことを思い出したのか、寂しそうにイリアが語る。


「ほう? ほうほう。とにかくお前には魔石の弾は効かないんだな?」

 ニヤリとアゼルは笑い、

「いくぞ魔法使い! 魔王をナメたツケ、百倍にして返してやる!!」

 アゼルの後方に大量の魔素が展開されいき、その中からひとつ、またひとつと鋭く尖った魔石が精製されていく。
 瞬く間にその数は百を超えて、その全ての照準がエミルに合わせられた。

「それじゃあイリア、行ってアイツの足止めしてこい。今までの借り全部まとめてぶち込んでやるよ。」


 流石のエミルもこれからイリアたちがとる戦略に気づいて笑顔が引き攣る。

「!? ちょっとそれはいくらなんでも、ズルいんじゃ?」


「お前には言われたくねーよ!」
「エミルさんには言われたくありません!」

 イリアとアゼルの心からの声が重なり、同時に二人が動きだした!
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...