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第二譚:灼銀無双の魔法譚
奴隷王、それから
しおりを挟む破壊され、数多くの瓦礫が散乱するアスキルドの大広場。
その中の大きな瓦礫のひとつに腰をかけている老人がいる。
いや、その瞳に宿る燃え滾る怒りは、老人と呼ぶには恐れ多いものがあった。
奴隷王ラヴァン・パーシヴァル。齢90を越えるアスキルドの王は、身じろぎひとつすることなく、座して報告を待っていた。
「どうした? 報告があるのであろう。」
奴隷王の言葉が響く。
その言葉は、彼の視界の端、先ほどからどう報告すべきか逡巡している年若い伝令兵に向けて放たれていた。
当たり前の話だが、正確な情報を一刻も早く報告するのが伝令兵の責務である。
その上、今回は現場の状況を迅速に王に直接報告せよという厳命までされている。
しかし、これから報告する内容を鑑みれば、憤怒に満ちたこの王に報告を迷ったことも致し方ないと言えるだろう。
「…ッ、申し上げますっ! アスキルドに仇なした賊へ向けられた騎兵1200! 奮戦にも関わらずその悉くが雷の大魔法にて全滅しました。また、アスキルドの正門もかのエミル・ハルカゼにより大きく破壊されており、復旧には多大な時間を要するものと思われます。」
報告を行なった若い兵士はぶるぶると震え、奴隷王ラヴァンの反応が恐ろしくて顔を直接見ることができずにいる。
「ふむ、それで騎兵たちの損耗状況はどうなっている。……何人が死んだ?」
「はっ! 現在確認したところだと死亡者はおりません。軍医の話ですと、重度の後遺症を残しそうな者もおらず、数日中には軍務に復帰できるだろうとのことでした。ただし、心的外傷については保証できかねるとのことです。」
「ふんっ。あの『大災害』めが。」
呪詛が込められたかのような奴隷王の呟き。
次にどのような言葉が出るのか、伝令の兵士は恐怖のあまり顔が引き攣り、失神しそうな勢いである。
「……まあいい。今回は私の失策だ。感情にまかせて我が国の兵を危険な目に合わせてしまったな。この命令を伝えよ。全兵はただちに引き上げ、治療と静養に努めよと。」
「ッ! はい! 今すぐ伝えてまいます!」
若い兵士は驚いた後すぐに、伝令へと駆けだしていく。
「さて。」
奴隷王はゆっくりと立ち上がり、周囲を見渡す。
ものの見事に破壊しつくされたアスキルドの大広場。せめてもの救いは大広場以外の場所には被害が広がっていないことだ。
大広場には大量の瓦礫とともに、魔王アゼルがばら撒いた大量の魔石が転がっている。
数秒考えるそぶりを見せた奴隷王は、すぐに側近の者に命令を下す。
「今すぐにここに散らばった魔石を集めて他国に売りさばき、その資金を国庫に入れるのだ。それを正門と大広場の復旧に当てろ。また、国庫の余剰金を兵士たちの慰安に使え。彼らにはまだまだ働いてもらわねばならんからな。」
「は! 了解いたしました。」
奴隷王の側近たちも王の言葉を受けてすぐさま動き出す。
彼らも王が今回の件で怒り狂うのではないかと、戦々恐々していたのだ。
「ふん、小僧どもに心配されるとは私もまだまだだな。」
自嘲気味に言葉を漏らす。
「一からやり直すわけでも、ゼロから始めるわけでもない。この程度の屈辱で足踏みしていては、私は何も成せずに終わってしまうわ。」
ラヴァン・パーシヴァルはおもむろに天を見上げる。
「どの国よりも我がアスキルドを繁栄させる。我が国の民が穢れ人どもに脅えずにすむ未来を築き上げる。それを成し遂げるまでは私は死ねんのだから。」
誰もが平等に暮らせる国を目指しながら、魔法使いたちを差別することに躊躇いのない王。
きっと彼は死ぬまでその矛盾を抱え続けるのだろう。
誰よりも国を愛し、誰よりも敵を憎む奴隷の王の戦いは、未だ続く。
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