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お葬式の後、夫達はそうそうにまた理沙の家に引き上げて行った。
その間際に「達雄兄さん、大変な目に遭っちゃったわねぇ。ゆっくりと温泉旅行に行きましょうよ、みんなで」
と楽しそうに温泉旅行を提案する理沙の声が耳に入った。
「呆れた人達ね」
「美咲、これからどうする?」
兄と香織さんだけが残り、心配そうに声をかけてくれた。
「兄さん、私、これから実家で暮らしてもいい? もうここには……あの人達と暮らすのは無理。離婚しようと思うの」
「そうか、それがいい」
と兄は言ってくれた。
「ねえ、美咲さん、警察から話を聞いたんでしょ? 火元の原因は何だったの?」
「電子レンジから発火したみたいで……でも誰も使ってないって言うの」
「そう」
「電子レンジ自体が古かったし、それのせいかもしれないけど……」
「そうね、それでも誰か人が家にいたら、小火ですんで愛衣ちゃんは無事だったかもしれないわね」
「香織さん……」
「ねえ、離婚問題だけどしばらく私に預けてもらえない?」
と香織さんは言った。
「あなたが有利に離婚出来るように尽力するわ」
「それがいいぞ、美咲。香織は有能な弁護士だ。きちんと片をつけて再出発しよう」
と兄も言ってくれた。
「でも、私はずっと専業主婦だったし、お金は達雄さんが管理してたから、いくらも持ってないわ。弁護士さんてお金かかるんでしょ?」
私がそう言うと兄は笑った。
「そんなの俺のポケットマネーで十分だ。いくらかかっても構わない」
「それにお釣りが来るほどぶんどってあげるわよ」
と香織さんも笑った。
私は焼けた家から自分と娘の荷物を分けた。
位牌と遺骨と少しの荷物。
台所の真上の部屋で寝ていたので、愛衣の衣服や玩具はほとんど燃えて失ってしまった。
葬式の間中、家を建て直すプランをしゃべっていた義母も、それを不謹慎だと諫めない夫も、夫にべったり貼りついていた理沙も、もうどうでも良かった。
この家には一緒に娘の死を悲しんでくれる人間すらいなかった。
義母はもともと愛衣を疎んじていた。
愛衣が生まれた時、跡継ぎである男児でなかった事が気に入らなかったようで、特に可愛がったりしてもらった記憶もない。
夫には上手い事を言うが、私には酷い罵りをした。
子供云々よりも親のない私を嫁と認めたくなかったのだろう。
確かに結婚式で親族は兄と当時彼女だった香織さんだけだった。
それでも私は夫の母だからと思って、尽くしてきたのに。
家事手伝いで日がな一日ぶらぶらしている理沙がやってきては昼食とおやつまで食べて行くし、義母と出かけたと思えば夫を呼び出し豪華なレストランで夕食を食べて戻って来る。今まで理沙が愛衣に何かプレゼントしてくれた記憶もないのに、棺に入れる洋服や玩具を買ってきたと言い、それを拒否すれば夫に平手打ちされるなんて。
「愛衣、ママと二人で暮らせる家に行こう。愛衣のおじいちゃんとおばあちゃんが残してくれた家だよ。そこで二人で暮らそうね」
その間際に「達雄兄さん、大変な目に遭っちゃったわねぇ。ゆっくりと温泉旅行に行きましょうよ、みんなで」
と楽しそうに温泉旅行を提案する理沙の声が耳に入った。
「呆れた人達ね」
「美咲、これからどうする?」
兄と香織さんだけが残り、心配そうに声をかけてくれた。
「兄さん、私、これから実家で暮らしてもいい? もうここには……あの人達と暮らすのは無理。離婚しようと思うの」
「そうか、それがいい」
と兄は言ってくれた。
「ねえ、美咲さん、警察から話を聞いたんでしょ? 火元の原因は何だったの?」
「電子レンジから発火したみたいで……でも誰も使ってないって言うの」
「そう」
「電子レンジ自体が古かったし、それのせいかもしれないけど……」
「そうね、それでも誰か人が家にいたら、小火ですんで愛衣ちゃんは無事だったかもしれないわね」
「香織さん……」
「ねえ、離婚問題だけどしばらく私に預けてもらえない?」
と香織さんは言った。
「あなたが有利に離婚出来るように尽力するわ」
「それがいいぞ、美咲。香織は有能な弁護士だ。きちんと片をつけて再出発しよう」
と兄も言ってくれた。
「でも、私はずっと専業主婦だったし、お金は達雄さんが管理してたから、いくらも持ってないわ。弁護士さんてお金かかるんでしょ?」
私がそう言うと兄は笑った。
「そんなの俺のポケットマネーで十分だ。いくらかかっても構わない」
「それにお釣りが来るほどぶんどってあげるわよ」
と香織さんも笑った。
私は焼けた家から自分と娘の荷物を分けた。
位牌と遺骨と少しの荷物。
台所の真上の部屋で寝ていたので、愛衣の衣服や玩具はほとんど燃えて失ってしまった。
葬式の間中、家を建て直すプランをしゃべっていた義母も、それを不謹慎だと諫めない夫も、夫にべったり貼りついていた理沙も、もうどうでも良かった。
この家には一緒に娘の死を悲しんでくれる人間すらいなかった。
義母はもともと愛衣を疎んじていた。
愛衣が生まれた時、跡継ぎである男児でなかった事が気に入らなかったようで、特に可愛がったりしてもらった記憶もない。
夫には上手い事を言うが、私には酷い罵りをした。
子供云々よりも親のない私を嫁と認めたくなかったのだろう。
確かに結婚式で親族は兄と当時彼女だった香織さんだけだった。
それでも私は夫の母だからと思って、尽くしてきたのに。
家事手伝いで日がな一日ぶらぶらしている理沙がやってきては昼食とおやつまで食べて行くし、義母と出かけたと思えば夫を呼び出し豪華なレストランで夕食を食べて戻って来る。今まで理沙が愛衣に何かプレゼントしてくれた記憶もないのに、棺に入れる洋服や玩具を買ってきたと言い、それを拒否すれば夫に平手打ちされるなんて。
「愛衣、ママと二人で暮らせる家に行こう。愛衣のおじいちゃんとおばあちゃんが残してくれた家だよ。そこで二人で暮らそうね」
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