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義母はもちろん夫も知らなかったが兄は自分で起業したセキュリティーの会社で成功を治めている。コツコツと頑張ってきた結果で今では世間でも名の通った会社だけど、兄がもの凄く努力して来たのを私は知っている。
義母と同じように親のいない若者を馬鹿にする人間は少なからずいて、そして香織さんのように励ましてくれる心ある人達もいる。
兄のおかげで私は婚家を出ても実家に住める事が出来たが、娘を失った寂しさは何にも埋められず、私はしばらく実家のマンションに篭もっていた。
いずれはまた立ち上がって歩き出さなければならないのは分かっているけれど、三日に開けず、兄と香織さんが食料を届けてくれるのを頂きながらぼんやりと過ごしていた。
ここへ来て二週間ほどたつが、夫も義母も来ない。
娘の葬儀は近所の葬祭場を借りてやったが、それっきりだ。
ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。
兄や香織さんなら合い鍵を持っているので、勝手に入って来て貰うようにしていた。
だけどチャイムは何回も鳴る。
インターフォンを確認すると、画面の向こうに元同僚が写っていた。
「秋山さん、海外で勤務していたんじゃ……」
玄関を開くと懐かしい顔があった。
彼は以前に務めていた会社の先輩で、夫の同僚だ。
「先週、帰ってきたんだ。またこちらで働くよ。それで訃報を聞いて……お線香をあげさせてもらっていいかな?」
と秋山さんは言った。
「ありがとうございます。どうぞ」
夫も義母も一度も来ないのに、昔の同僚がわざわざ来てくれるなんて。
「会社で聞いて、お宅へ伺ったんだけど、誰もいないし」
夫は忌引きで休んでいるらしいが、こちらへは来ない。
理沙の家でゆっくりしているのだろう。
私はここでひっそりと一人で初七日も済ませた。
白い小さな仏壇に小さい骨壺、と写真、お位牌があるだけだ。
秋山さんは果物を供えてくれて、お線香を焚いてくれた。
「びっくりしたよ。大変だったね」
「ええ、私が娘を置いて出かけなければ……」
「自分だけを責めちゃいけない。君が出かけてるなら、青島君が娘を見てるべきだった。3歳の娘に留守番させるなんてダメだと言ったんだけど、彼は俺を酷く嫌っているからね余計に意地を張ってしまったのかもしれない。俺が余計な事を言ったのかも」
「あの……それはいつの話ですか?」
「あの日は休日だったけど俺は海外から戻ったばかりだから、会社に出てたんだ。そしたら、青島君も会社にいて……」
「夫は会社にいたんですか? あの日、娘が眠った隙に買い物に出たと言ってたんですが」
「そう……」
秋山さんは言葉を濁した。
「夫は仕事をしていたんですか? たしかに休日出勤はよくあるんです」
夫は義母と理沙に娘を任せて仕事に行っていた?
それならば義母と理沙が娘を見ててくれていたら……夫を恨むのは間違い?
けれど秋山さんは言いにくそうに口を開いた。
「傷心の君にこんな事を言うのは辛いが……最近は休日出勤なんてほとんどないんだよ。彼は……どうも会社で……女性と会っていたようだ」
「女?」
「そうなんだ。それも初めてじゃない。何のかんのと理由をつけては休日の会社に入り込むのは問題になり始めている。それが上役の耳に入るのも時間の問題じゃないかな」
「あの!」
私は秋山さんに理沙の写真を見せた。
携帯電話の画像の中に理沙の写真がある。
消したいのだが娘が写っているので、決断出来なかった画像だ。
「秋山さん、相手を見ました? この女ですか?」
秋山さんはちらっと画像を見たが首を振った。
「違う。そもそも部外者は会社に入れない。中で逢瀬を楽しむなら、会社関係だろうと思うよ」
「そうですか……」
義母と同じように親のいない若者を馬鹿にする人間は少なからずいて、そして香織さんのように励ましてくれる心ある人達もいる。
兄のおかげで私は婚家を出ても実家に住める事が出来たが、娘を失った寂しさは何にも埋められず、私はしばらく実家のマンションに篭もっていた。
いずれはまた立ち上がって歩き出さなければならないのは分かっているけれど、三日に開けず、兄と香織さんが食料を届けてくれるのを頂きながらぼんやりと過ごしていた。
ここへ来て二週間ほどたつが、夫も義母も来ない。
娘の葬儀は近所の葬祭場を借りてやったが、それっきりだ。
ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。
兄や香織さんなら合い鍵を持っているので、勝手に入って来て貰うようにしていた。
だけどチャイムは何回も鳴る。
インターフォンを確認すると、画面の向こうに元同僚が写っていた。
「秋山さん、海外で勤務していたんじゃ……」
玄関を開くと懐かしい顔があった。
彼は以前に務めていた会社の先輩で、夫の同僚だ。
「先週、帰ってきたんだ。またこちらで働くよ。それで訃報を聞いて……お線香をあげさせてもらっていいかな?」
と秋山さんは言った。
「ありがとうございます。どうぞ」
夫も義母も一度も来ないのに、昔の同僚がわざわざ来てくれるなんて。
「会社で聞いて、お宅へ伺ったんだけど、誰もいないし」
夫は忌引きで休んでいるらしいが、こちらへは来ない。
理沙の家でゆっくりしているのだろう。
私はここでひっそりと一人で初七日も済ませた。
白い小さな仏壇に小さい骨壺、と写真、お位牌があるだけだ。
秋山さんは果物を供えてくれて、お線香を焚いてくれた。
「びっくりしたよ。大変だったね」
「ええ、私が娘を置いて出かけなければ……」
「自分だけを責めちゃいけない。君が出かけてるなら、青島君が娘を見てるべきだった。3歳の娘に留守番させるなんてダメだと言ったんだけど、彼は俺を酷く嫌っているからね余計に意地を張ってしまったのかもしれない。俺が余計な事を言ったのかも」
「あの……それはいつの話ですか?」
「あの日は休日だったけど俺は海外から戻ったばかりだから、会社に出てたんだ。そしたら、青島君も会社にいて……」
「夫は会社にいたんですか? あの日、娘が眠った隙に買い物に出たと言ってたんですが」
「そう……」
秋山さんは言葉を濁した。
「夫は仕事をしていたんですか? たしかに休日出勤はよくあるんです」
夫は義母と理沙に娘を任せて仕事に行っていた?
それならば義母と理沙が娘を見ててくれていたら……夫を恨むのは間違い?
けれど秋山さんは言いにくそうに口を開いた。
「傷心の君にこんな事を言うのは辛いが……最近は休日出勤なんてほとんどないんだよ。彼は……どうも会社で……女性と会っていたようだ」
「女?」
「そうなんだ。それも初めてじゃない。何のかんのと理由をつけては休日の会社に入り込むのは問題になり始めている。それが上役の耳に入るのも時間の問題じゃないかな」
「あの!」
私は秋山さんに理沙の写真を見せた。
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「秋山さん、相手を見ました? この女ですか?」
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