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男を虜にする薬毒2
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「お姉さん、媚薬、欲しいの?」
と声がして留美子は慌てて辺りを見渡した。
すぐの塀にもたれかかり分厚いコートにフードを被った男と真っ赤な髪の毛の娘がいた。男の顔は見えなかったが、やけに身体が大きくぞっとするような印象があり、真っ赤な髪の娘の方は毒々しい派手な顔だった。繁華街でよく見るようなギャングやチンピラの類いだ。
「え、何……」
「媚薬、欲しいなら売ってあげましょうか?」
と真っ赤な髪の毛、そして見開いた瞳も赤かった。
長い爪先も真っ赤に染めて、その爪で黒い薬包を一包み掴んで留美子に見せた。
「え、媚薬は欲しいけど怪しげな薬はいらないわ」
留美子には夜の街で得体の知れないチンピラが売っているような麻薬では意味がなかった。一生、効果が続いて、一生、億万長者に愛される媚薬でなくてはならないのだ。
「そう、ならいいけど。あそこの薬毒店の半分で売ったげても良かったのに」
そう言って真っ赤な髪の娘は瑠璃子に背を向けた。
「行くよ、ガンキ」
「へい。サクラお嬢さん」
「え! 待って!! 怪しい薬じゃなくて、そこの店と同じ薬なの?」
留美子は慌てて行きかけたサクラと呼ばれた娘の肩を掴もうとして、ごつごつした大男のガンキに阻まれた。
「気安くお嬢さんに触るんじゃねえ」
「ひ!」
ごつい手で腕をつかまれれ、留美子は慌てて身を引いた。
ちらりと見えたフードの男の顔はやけにごつごつした肌で、生気のない人間、むしろ爬虫類のような肌と目だったからだ。
「同じ? むしろこちらのほうが効きがいいかも」
「え、本当に? なら欲しいんだけど。一生効果が続くような媚薬なんでしょう? 私、絶対結婚したい相手がいて」
と留美子が言った。
サクラはにやっと笑って、
「効果は一生続くわ」
と言った。
「欲しい! でも、半額でも百万でしょ? 今すぐはお金がなくて」
と言った留美子の手にサクラは黒い薬包を握らせた。
「成功報酬でいいわ。あなたの結婚がうまくいったら集金に寄らせてもらうから」
「え、いいの?」
「お幸せに。そいつを相手に飲ませてから、すぐに交尾するのよ? そうしたらもう彼は貴方の奴隷よ?」
薬包を握って駆け足で去って行く留美子を見送りながらサクラはクスッと笑った。
留美子はサクラから手に入れた媚薬を握りしめて、金持ちの三枝の元に駆けつけた。
マンションは都会の一等地、セキュリティも厳しく、ボタン一つでいつでも警備員が駆けつける。エントランスには常駐の管理人がいて、住人の出入りには目を光らせている。
エントランスの応答ボタンで三枝の部屋の番号を押す。
ピュルルと音がして、カチッと返答する音がなった。
「三枝さん、留美子だけど」
留美子の声に応えたのは三枝ではなく、若い女の声だった。
「悟さん、今、忙しいの。また後にしていただける?」
「え? ちょっと、あなた誰?」
留美子は応答のマイクに向かって問いかけた。
「ごめんなさいね、忙しいので」
カチッと応答が切れた。
「え……」
留美子は慌ててバッグから携帯電話を取り出して、三枝の番号を押す。
だが耳には無機質な声が聞こえてきて、それは留美子との関わりを遮断した。
翌日のインターネットのニュースで留美子は三枝の婚約発表を知った。
今日こそ三枝を捕まえて媚薬を飲まそうと思っていた留美子は部屋中に散乱しているブランド物の洋服の中からまだ着れらそうなましな服を探して慌てて着えた。
髪の毛のカールもほつれかかっているし、メイクも落とさすに寝てしまったので、顔も浮腫んでいる。普段ならこんな顔で三枝に会いに行けるはずもないが、そんな事にも構っていられないほど留美子は焦っていた。
留美子は洗面所の鏡に映った自分の顔を見た。
メイクは剥がれかけでほぼ素顔だが、留美子はこの自分の顔が嫌いだった。
鏡の中の顔はブスだったからだ。
広がった鼻腔に唇は平たくへの字の口、そして何より腫れぼったい一重の目。
メイク動画を見て必死に身につけたメイク術で、毎日二時間かけてメイクする。
それで安心して外を歩けるのだ。
この顔になってからキャバ嬢にもなれて、男にもモテるようになった。
そしてようやく金持ちの恋人が出来たはずだった。
後は媚薬を飲ませて結婚さえしてしまえば、と思っていた。
留美子は握りしめた携帯電話の画面で三枝と婚約したという女の情報を探した。
相手は有名テレビ局のアナウンサーだった。
有吉穂乃香という名でよい大学を出て、家柄も良さそうな女だった。
画面に現れた顔は理知的で美しかった。
と声がして留美子は慌てて辺りを見渡した。
すぐの塀にもたれかかり分厚いコートにフードを被った男と真っ赤な髪の毛の娘がいた。男の顔は見えなかったが、やけに身体が大きくぞっとするような印象があり、真っ赤な髪の娘の方は毒々しい派手な顔だった。繁華街でよく見るようなギャングやチンピラの類いだ。
「え、何……」
「媚薬、欲しいなら売ってあげましょうか?」
と真っ赤な髪の毛、そして見開いた瞳も赤かった。
長い爪先も真っ赤に染めて、その爪で黒い薬包を一包み掴んで留美子に見せた。
「え、媚薬は欲しいけど怪しげな薬はいらないわ」
留美子には夜の街で得体の知れないチンピラが売っているような麻薬では意味がなかった。一生、効果が続いて、一生、億万長者に愛される媚薬でなくてはならないのだ。
「そう、ならいいけど。あそこの薬毒店の半分で売ったげても良かったのに」
そう言って真っ赤な髪の娘は瑠璃子に背を向けた。
「行くよ、ガンキ」
「へい。サクラお嬢さん」
「え! 待って!! 怪しい薬じゃなくて、そこの店と同じ薬なの?」
留美子は慌てて行きかけたサクラと呼ばれた娘の肩を掴もうとして、ごつごつした大男のガンキに阻まれた。
「気安くお嬢さんに触るんじゃねえ」
「ひ!」
ごつい手で腕をつかまれれ、留美子は慌てて身を引いた。
ちらりと見えたフードの男の顔はやけにごつごつした肌で、生気のない人間、むしろ爬虫類のような肌と目だったからだ。
「同じ? むしろこちらのほうが効きがいいかも」
「え、本当に? なら欲しいんだけど。一生効果が続くような媚薬なんでしょう? 私、絶対結婚したい相手がいて」
と留美子が言った。
サクラはにやっと笑って、
「効果は一生続くわ」
と言った。
「欲しい! でも、半額でも百万でしょ? 今すぐはお金がなくて」
と言った留美子の手にサクラは黒い薬包を握らせた。
「成功報酬でいいわ。あなたの結婚がうまくいったら集金に寄らせてもらうから」
「え、いいの?」
「お幸せに。そいつを相手に飲ませてから、すぐに交尾するのよ? そうしたらもう彼は貴方の奴隷よ?」
薬包を握って駆け足で去って行く留美子を見送りながらサクラはクスッと笑った。
留美子はサクラから手に入れた媚薬を握りしめて、金持ちの三枝の元に駆けつけた。
マンションは都会の一等地、セキュリティも厳しく、ボタン一つでいつでも警備員が駆けつける。エントランスには常駐の管理人がいて、住人の出入りには目を光らせている。
エントランスの応答ボタンで三枝の部屋の番号を押す。
ピュルルと音がして、カチッと返答する音がなった。
「三枝さん、留美子だけど」
留美子の声に応えたのは三枝ではなく、若い女の声だった。
「悟さん、今、忙しいの。また後にしていただける?」
「え? ちょっと、あなた誰?」
留美子は応答のマイクに向かって問いかけた。
「ごめんなさいね、忙しいので」
カチッと応答が切れた。
「え……」
留美子は慌ててバッグから携帯電話を取り出して、三枝の番号を押す。
だが耳には無機質な声が聞こえてきて、それは留美子との関わりを遮断した。
翌日のインターネットのニュースで留美子は三枝の婚約発表を知った。
今日こそ三枝を捕まえて媚薬を飲まそうと思っていた留美子は部屋中に散乱しているブランド物の洋服の中からまだ着れらそうなましな服を探して慌てて着えた。
髪の毛のカールもほつれかかっているし、メイクも落とさすに寝てしまったので、顔も浮腫んでいる。普段ならこんな顔で三枝に会いに行けるはずもないが、そんな事にも構っていられないほど留美子は焦っていた。
留美子は洗面所の鏡に映った自分の顔を見た。
メイクは剥がれかけでほぼ素顔だが、留美子はこの自分の顔が嫌いだった。
鏡の中の顔はブスだったからだ。
広がった鼻腔に唇は平たくへの字の口、そして何より腫れぼったい一重の目。
メイク動画を見て必死に身につけたメイク術で、毎日二時間かけてメイクする。
それで安心して外を歩けるのだ。
この顔になってからキャバ嬢にもなれて、男にもモテるようになった。
そしてようやく金持ちの恋人が出来たはずだった。
後は媚薬を飲ませて結婚さえしてしまえば、と思っていた。
留美子は握りしめた携帯電話の画面で三枝と婚約したという女の情報を探した。
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