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男を虜にする薬毒4
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三枝は留美子の肩を引き寄せた。
留美子も三枝の身体に自分の身体を預け、腕を三枝の首に回した。
三枝の唇が留美子のそれと重なる。
その瞬間、「グゲボォ」と三枝が言った。
留美子がえ?と思う間もなく、三枝の口からおびただしい嘔吐物が吐き出され、留美子はそれを顔面で受けてしまった。
「キャー!」
腕でそれを払いのけるが、顔中に三枝の吐瀉物がかかり、腕や洋服まで汚れてしまった。
つんと鼻を刺すような匂いがする。
異様に臭く、気持ちが悪い。
留美子は急いでキッチンに走って行ってから、顔と手を洗った。
とてもではないが、顔中にかかった吐瀉物をそのままにしておけなかった。
キッチンペーパーで顔と手をぬぐうが、ブラウスやスカートまで被っており、臭気からは逃げられない。
「もー、何なのよ。三枝さん!」
様子を見にソファまで戻ると、三枝は異様に苦しんでいた。
身体は床までずり落ち、嘔吐物に塗れて苦しそうに転げ回っていた。
「きゅ、救急車……」
と携帯電話を手にしてから、留美子の手が止まった。
自分が飲ませたあの薬のせい? という考えが頭をよぎったからだ。
そうなったら自分が捕まるではないか。
知らないと言い通せるだろうか?
それとも三枝をこのままにして逃げようか?
様々な考えが留美子の頭をよぎった。
逃げるといってもロビーで管理人に顔を見られているのだから、疑われるのは間違いない。
「どうしよう……三枝さぁん……しっかりしてぇ」
留美子は半泣きで倒れて苦しんでいる三枝を揺さぶった。
三枝はうげえうげえと言いながらまだ嘔吐を続けている。
胃の中の物をあらかた吐いて、もう何も固形物がないのだろう、胃液を吐き続けている。
酸っぱい匂いが部屋中に広がり、それでも留美子はどうしていいか分からなかった。
静かにリビングのドアが開いたが留美子はそれに気がつかなかった。
婚約者の穂乃香が入ってきて、買い物袋をダイニングのテーブルの上に置く音で留美子はようやく顔を上げた。
「あ……」
「あなた、どなた? 悟さんは…?」
と言いかけてようやくソファとテーブルの間に倒れている三枝を見た。
「悟さん!!」
慌てて穂乃香が駆け寄ろうとして、視線が留美子の足下を見た。
「あなた……まさか……」
留美子は顔中くしゃくしゃにして泣いていたが、穂乃香の視線に気がついて慌ててその黒い包み紙をくしゃっと握りしめた。
「ち、違うの。あたしじゃないの」
留美子は毒を盛ったのでは? と穂乃香に疑われたと思った。
「ち、違うの」
留美子の口からはもうその言葉出てこなかった。
「そんな、まさか……どうしたらいいの」
穂乃香は長い髪をかき上げて、いらいらとしたように目玉をぐるぐると回転させた。
「とりあえず救急車よね。あなた、悟さんに何か飲ませたんでしょう?」
「え、あの、違うの」
「言い訳は結構よ。あなたが握ってるその黒い包み紙、毒薬でしょう? 悟さんが結婚するって聞いて、逆上したのね」
ふん、と穂乃香は留美子を鼻で笑った。
「警察も呼ぶわ」
「待って、そんなつもりじゃ……!!」
留美子は慌てて立ち上がり穂乃香に飛びかかった。
サイドボードから電話の受話器を取り上げる穂乃香の腕を押さえた。
「あたしじゃない、あたしじゃないの」
「やめてよ! 早く悟さんを病院につれていかなくちゃ! 死んだらどうするのよ!」
思いの外強い力で穂乃香に振り払われて、留美子は床に転げた。
「あ……」
警察に捕まるかも知れない、と言う恐怖で留美子の思考回路は壊れてしまった。
自分の持って来たワインの瓶を取り上げ、電話をしようとする穂乃香の後頭部に振り下ろした。
穂乃香は意識を失いその場に倒れ、留美子はワインの瓶を持ったまま、へなへなとその場に座り込んだ。
「ど、どうしよう……」
留美子が逃げよう、と決意するまでしばらく時間がかかった。
そろりそろりと腰を上げ、膝をついたまま玄関の方へ進み出した時、その足首を掴んだ手があった。
「え? 何?」
振り返ると、血走った目をかっと大きく見開き、吐瀉物に塗れた手で留美子の足を掴む三枝の手があった。
「さ、三枝さん……やめて……やめて!」
両方の足で三枝の手をふりほどこうと蹴るが、三枝の手はがっちりと留美子を掴んで離さない。
三枝はゆっくりゆっくりと身体を起こしながら、留美子に近づいてくる。
人間の力とは思えないほどの強さで留美子の足首をぎゅうっと握りしめており、どうしてもふりほどけない。足で腕や顔の辺りまで蹴っても三枝は意に介さない状態だ。
ただゆっくりと留美子の近づいてきて、そして留美子の右足の甲の部分に噛みついた。
「痛っ! 三枝さん!! やめて! 痛い!」
留美子の悲鳴など耳に入っておらず、三枝は留美子の足をぼりぼりと喰い始めた。
「いやああああああああああああああ!」
留美子も三枝の身体に自分の身体を預け、腕を三枝の首に回した。
三枝の唇が留美子のそれと重なる。
その瞬間、「グゲボォ」と三枝が言った。
留美子がえ?と思う間もなく、三枝の口からおびただしい嘔吐物が吐き出され、留美子はそれを顔面で受けてしまった。
「キャー!」
腕でそれを払いのけるが、顔中に三枝の吐瀉物がかかり、腕や洋服まで汚れてしまった。
つんと鼻を刺すような匂いがする。
異様に臭く、気持ちが悪い。
留美子は急いでキッチンに走って行ってから、顔と手を洗った。
とてもではないが、顔中にかかった吐瀉物をそのままにしておけなかった。
キッチンペーパーで顔と手をぬぐうが、ブラウスやスカートまで被っており、臭気からは逃げられない。
「もー、何なのよ。三枝さん!」
様子を見にソファまで戻ると、三枝は異様に苦しんでいた。
身体は床までずり落ち、嘔吐物に塗れて苦しそうに転げ回っていた。
「きゅ、救急車……」
と携帯電話を手にしてから、留美子の手が止まった。
自分が飲ませたあの薬のせい? という考えが頭をよぎったからだ。
そうなったら自分が捕まるではないか。
知らないと言い通せるだろうか?
それとも三枝をこのままにして逃げようか?
様々な考えが留美子の頭をよぎった。
逃げるといってもロビーで管理人に顔を見られているのだから、疑われるのは間違いない。
「どうしよう……三枝さぁん……しっかりしてぇ」
留美子は半泣きで倒れて苦しんでいる三枝を揺さぶった。
三枝はうげえうげえと言いながらまだ嘔吐を続けている。
胃の中の物をあらかた吐いて、もう何も固形物がないのだろう、胃液を吐き続けている。
酸っぱい匂いが部屋中に広がり、それでも留美子はどうしていいか分からなかった。
静かにリビングのドアが開いたが留美子はそれに気がつかなかった。
婚約者の穂乃香が入ってきて、買い物袋をダイニングのテーブルの上に置く音で留美子はようやく顔を上げた。
「あ……」
「あなた、どなた? 悟さんは…?」
と言いかけてようやくソファとテーブルの間に倒れている三枝を見た。
「悟さん!!」
慌てて穂乃香が駆け寄ろうとして、視線が留美子の足下を見た。
「あなた……まさか……」
留美子は顔中くしゃくしゃにして泣いていたが、穂乃香の視線に気がついて慌ててその黒い包み紙をくしゃっと握りしめた。
「ち、違うの。あたしじゃないの」
留美子は毒を盛ったのでは? と穂乃香に疑われたと思った。
「ち、違うの」
留美子の口からはもうその言葉出てこなかった。
「そんな、まさか……どうしたらいいの」
穂乃香は長い髪をかき上げて、いらいらとしたように目玉をぐるぐると回転させた。
「とりあえず救急車よね。あなた、悟さんに何か飲ませたんでしょう?」
「え、あの、違うの」
「言い訳は結構よ。あなたが握ってるその黒い包み紙、毒薬でしょう? 悟さんが結婚するって聞いて、逆上したのね」
ふん、と穂乃香は留美子を鼻で笑った。
「警察も呼ぶわ」
「待って、そんなつもりじゃ……!!」
留美子は慌てて立ち上がり穂乃香に飛びかかった。
サイドボードから電話の受話器を取り上げる穂乃香の腕を押さえた。
「あたしじゃない、あたしじゃないの」
「やめてよ! 早く悟さんを病院につれていかなくちゃ! 死んだらどうするのよ!」
思いの外強い力で穂乃香に振り払われて、留美子は床に転げた。
「あ……」
警察に捕まるかも知れない、と言う恐怖で留美子の思考回路は壊れてしまった。
自分の持って来たワインの瓶を取り上げ、電話をしようとする穂乃香の後頭部に振り下ろした。
穂乃香は意識を失いその場に倒れ、留美子はワインの瓶を持ったまま、へなへなとその場に座り込んだ。
「ど、どうしよう……」
留美子が逃げよう、と決意するまでしばらく時間がかかった。
そろりそろりと腰を上げ、膝をついたまま玄関の方へ進み出した時、その足首を掴んだ手があった。
「え? 何?」
振り返ると、血走った目をかっと大きく見開き、吐瀉物に塗れた手で留美子の足を掴む三枝の手があった。
「さ、三枝さん……やめて……やめて!」
両方の足で三枝の手をふりほどこうと蹴るが、三枝の手はがっちりと留美子を掴んで離さない。
三枝はゆっくりゆっくりと身体を起こしながら、留美子に近づいてくる。
人間の力とは思えないほどの強さで留美子の足首をぎゅうっと握りしめており、どうしてもふりほどけない。足で腕や顔の辺りまで蹴っても三枝は意に介さない状態だ。
ただゆっくりと留美子の近づいてきて、そして留美子の右足の甲の部分に噛みついた。
「痛っ! 三枝さん!! やめて! 痛い!」
留美子の悲鳴など耳に入っておらず、三枝は留美子の足をぼりぼりと喰い始めた。
「いやああああああああああああああ!」
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