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死者に効く薬毒
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ドゥはハナの胸の傷から流れ出る血液をペロペロと舐める。
日に一度、鬼の血を舐めるだけでドゥの体力、気力、魔力ともに回復させる。
それどころか、鬼の血のせいで以前よりも数段に自分の妖力が上がった事を感じる。
その証拠は、黒猫ドゥが人型に変化出来るようになった事だ。
猫の身ではハナの世話も十分に出来ない。
無理を承知で一度、渾身の妖力を突っ込んで人型に変化してみた。その姿に驚いて身体中の毛が膨らんだような感覚だったが、身体のどこにも真っ黒い毛皮がない。
手があり、二本足で立っている。
顔はまだ若く少年のようで、手足もするりと細長い。
バランスを取っていた尾がなくなり、黒い頭髪が生えている。
人間の暮らしには鬼達よりも猫のドゥの方が詳しかったので、その姿で生活する事に苦労はなかった。
日に一度、ハナの血を貰いながらドゥは必死だった。
二日に一度は餌を取りに行くのだが、潔癖症のドゥにはどんな人間でも動物でもいいとは思えなかった。
狩るのは簡単だがどぶ臭い鼠や公園の隅にうずくまっている臭気のきつい人間を食らうのは嫌だ。贅沢を言えばまるまると太った風呂上がりの子供がいいが、そうそう見つかりもしない。
ほんの一時の休憩で公園のベンチに座り道行く人間を眺めていると、これだけたくさんの人間が歩いているのになかなか獲物を狩るのは難しい。
「あーあ」
とドゥは大きく手を伸ばして伸びをした。
今日は朝からぐずぐずした天気で今夜は月も出ていない。
季節は冬まっただ中、、厳しく寒い時期だ。
人間は木枯らしに吹かれてうつむき加減で道を急ぐ。
日が落ちれば公園には人っ子一人いなくなる。
運良く丸々と太った迷子の子供でも通らないかな、とドゥは思いながら、ベンチから立ち上がった。
そこへ、人の気配と声が近づいて来た。
三人ほどの男が少女を囲んで歩いてくる。
少女の方は小走りに明らかに嫌がっている様子だ。
「これは……いいんでないか? 餌だ、餌。にゃっほーい、あれ?」
ベンチから様子を伺うドゥは首を傾げた。
男達に絡まれている少女から妖の気配がする。
「あの娘、人間じゃねえぞ」
人間三匹と妖一匹、格好の獲物だった。
ドゥの大きな一口で一気に捕獲出来そうだ。
他に人通りがないか辺りをうかがい、そちらへ一歩踏み出そうとした瞬間、
「助けてください!」
と少女がドゥの方へ助けを求めてきた。
「へ?」
少女はくるくるした黒髪を束ね、黒いワンピースを着ている。
助けるも何も、自らの妖力で人間どもを蹴散らせばいいではないか、とドゥは思った。 どれほどの力かは知らないが、人間を脅かすくらいの力はあるだろう。
「へ、じゃねえよ。せっかく獲物をおびき寄せてやってんだ。生きのいい内に締めろ」
「お、お前、骸か!」
「おうよ。へへっ! 壱ちゃんが良いって言うからな、手伝いに来てやったぞ」
しわくちゃ不細工犬の骸がなんとも美少女に変化している事にドゥは面食らった。
「ま、話は後だ。狩っちまうぞ。こいつら、女を襲って金品強奪して素っ裸にして山に捨てるって算段してたからな。クズだ。やっちまって構わねえぞ」
「そっか、じゃあ、喰っちまうかな」
骸がドゥの背中に隠れるように逃げ込むと、追ってきた男達がげへげへと下卑た笑いをしながらドゥの胸ぐらを掴んだ。
「テメエもあり金吐き出しな!」
「あいにく、金品は持ってない」
にこっと笑ったドゥはまさしく優男で、まだ幼さも抜けない少年のようだったが、その笑顔を作る唇の端に亀裂が入った。
ミシミシと音がして唇の両端が割れ、耳元までぱっくりと開く。
その開いた口の中にはギザギザに尖った歯が何重にも生え、大きく分厚い舌が舌舐めづりをした。
「ば、化け!!」
胸ぐらを掴んだ男はセリフを最後まで言えずにぱくっとドゥの口の中だった。
首から下を飲み込みながら、ドゥは残りの二名を見た。
何の感情もない黒い瞳が人間達を見る。
残った二人は、その場に尻餅をついてガタガタと震えた。
あまりにもアンバランスだった。
あどけない笑顔の少年が巨大な口で仲間を食べてしまったのだ。
その少年の後ろに立っている美少女も、じーっと二人を見ている。
その黒い瞳の奥は深い深い闇の色だった。
不気味だ、あまりにも不気味で、二人は逃げだす事も叶わないくらい身体が硬直してしまっていた。
バキバキバキという骨を噛み砕く音に骸が、
「喰っちまっていいのか? ハナちゃんに喰わせるんだろ?」
と言った。
「ハナちゃん、人肉は喰えねえんだ、血を搾って飲ませるくらいさ」
「そっか」
「うん、上手く生き返るかどうかも分かんねえし、ハヤテさんも戻らないし」
「そうか、じゃ、手伝うぜ」
と言った骸の黒い髪の毛がざわっと揺らめき、しゅるしゅると伸びた。
身体を覆うように髪の毛は増え、そして伸びていく。
地面に座り込み凍りついたように二人を眺めている人間の方へ髪の毛は伸びていき、そして人間の腕、足、首に巻き付いた。
「うわあああ」
と声をあげるも、その口も黒髪が侵入し喉をふさがれた。
髪の毛は軽々と人間の身体を持ち上げ、そして、ぱっくりと開いた骸の大きな口の中に人間を落とした。
日に一度、鬼の血を舐めるだけでドゥの体力、気力、魔力ともに回復させる。
それどころか、鬼の血のせいで以前よりも数段に自分の妖力が上がった事を感じる。
その証拠は、黒猫ドゥが人型に変化出来るようになった事だ。
猫の身ではハナの世話も十分に出来ない。
無理を承知で一度、渾身の妖力を突っ込んで人型に変化してみた。その姿に驚いて身体中の毛が膨らんだような感覚だったが、身体のどこにも真っ黒い毛皮がない。
手があり、二本足で立っている。
顔はまだ若く少年のようで、手足もするりと細長い。
バランスを取っていた尾がなくなり、黒い頭髪が生えている。
人間の暮らしには鬼達よりも猫のドゥの方が詳しかったので、その姿で生活する事に苦労はなかった。
日に一度、ハナの血を貰いながらドゥは必死だった。
二日に一度は餌を取りに行くのだが、潔癖症のドゥにはどんな人間でも動物でもいいとは思えなかった。
狩るのは簡単だがどぶ臭い鼠や公園の隅にうずくまっている臭気のきつい人間を食らうのは嫌だ。贅沢を言えばまるまると太った風呂上がりの子供がいいが、そうそう見つかりもしない。
ほんの一時の休憩で公園のベンチに座り道行く人間を眺めていると、これだけたくさんの人間が歩いているのになかなか獲物を狩るのは難しい。
「あーあ」
とドゥは大きく手を伸ばして伸びをした。
今日は朝からぐずぐずした天気で今夜は月も出ていない。
季節は冬まっただ中、、厳しく寒い時期だ。
人間は木枯らしに吹かれてうつむき加減で道を急ぐ。
日が落ちれば公園には人っ子一人いなくなる。
運良く丸々と太った迷子の子供でも通らないかな、とドゥは思いながら、ベンチから立ち上がった。
そこへ、人の気配と声が近づいて来た。
三人ほどの男が少女を囲んで歩いてくる。
少女の方は小走りに明らかに嫌がっている様子だ。
「これは……いいんでないか? 餌だ、餌。にゃっほーい、あれ?」
ベンチから様子を伺うドゥは首を傾げた。
男達に絡まれている少女から妖の気配がする。
「あの娘、人間じゃねえぞ」
人間三匹と妖一匹、格好の獲物だった。
ドゥの大きな一口で一気に捕獲出来そうだ。
他に人通りがないか辺りをうかがい、そちらへ一歩踏み出そうとした瞬間、
「助けてください!」
と少女がドゥの方へ助けを求めてきた。
「へ?」
少女はくるくるした黒髪を束ね、黒いワンピースを着ている。
助けるも何も、自らの妖力で人間どもを蹴散らせばいいではないか、とドゥは思った。 どれほどの力かは知らないが、人間を脅かすくらいの力はあるだろう。
「へ、じゃねえよ。せっかく獲物をおびき寄せてやってんだ。生きのいい内に締めろ」
「お、お前、骸か!」
「おうよ。へへっ! 壱ちゃんが良いって言うからな、手伝いに来てやったぞ」
しわくちゃ不細工犬の骸がなんとも美少女に変化している事にドゥは面食らった。
「ま、話は後だ。狩っちまうぞ。こいつら、女を襲って金品強奪して素っ裸にして山に捨てるって算段してたからな。クズだ。やっちまって構わねえぞ」
「そっか、じゃあ、喰っちまうかな」
骸がドゥの背中に隠れるように逃げ込むと、追ってきた男達がげへげへと下卑た笑いをしながらドゥの胸ぐらを掴んだ。
「テメエもあり金吐き出しな!」
「あいにく、金品は持ってない」
にこっと笑ったドゥはまさしく優男で、まだ幼さも抜けない少年のようだったが、その笑顔を作る唇の端に亀裂が入った。
ミシミシと音がして唇の両端が割れ、耳元までぱっくりと開く。
その開いた口の中にはギザギザに尖った歯が何重にも生え、大きく分厚い舌が舌舐めづりをした。
「ば、化け!!」
胸ぐらを掴んだ男はセリフを最後まで言えずにぱくっとドゥの口の中だった。
首から下を飲み込みながら、ドゥは残りの二名を見た。
何の感情もない黒い瞳が人間達を見る。
残った二人は、その場に尻餅をついてガタガタと震えた。
あまりにもアンバランスだった。
あどけない笑顔の少年が巨大な口で仲間を食べてしまったのだ。
その少年の後ろに立っている美少女も、じーっと二人を見ている。
その黒い瞳の奥は深い深い闇の色だった。
不気味だ、あまりにも不気味で、二人は逃げだす事も叶わないくらい身体が硬直してしまっていた。
バキバキバキという骨を噛み砕く音に骸が、
「喰っちまっていいのか? ハナちゃんに喰わせるんだろ?」
と言った。
「ハナちゃん、人肉は喰えねえんだ、血を搾って飲ませるくらいさ」
「そっか」
「うん、上手く生き返るかどうかも分かんねえし、ハヤテさんも戻らないし」
「そうか、じゃ、手伝うぜ」
と言った骸の黒い髪の毛がざわっと揺らめき、しゅるしゅると伸びた。
身体を覆うように髪の毛は増え、そして伸びていく。
地面に座り込み凍りついたように二人を眺めている人間の方へ髪の毛は伸びていき、そして人間の腕、足、首に巻き付いた。
「うわあああ」
と声をあげるも、その口も黒髪が侵入し喉をふさがれた。
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