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死者に効く薬毒2
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「そういや、ドゥ、客が来てたぞ。薬毒を欲しいってな」
と、骸がふと思いだしたように言った。
「客? 何の薬毒?」
「死んだ者を生き返らせる薬毒なんぞ、あるけぇ?」」
「死人?」
「うん、そんな事を言ってたな。まあ、たいして期待もしてない様子だったけどなぁ。死人を生き返らせるなんぞ、人間界じゃ魔法さ。昔昔はどこぞの偉い坊さんが反魂の術を用いて人造人間を造ったが、魂のない生き物を造り上げちまって、という話があるぞ」
と骸が言った。
「その話ならハヤテさんから聞いて知ってるよ。そこら辺に落ちてる野ざらしの人骨と草木で人間を造っちまうようなケチ坊主さ。術の最後に使う反魂丹を安い偽物で間に合わせてさ。そりゃあ、失敗するだろうさってハヤテさんも笑ってたよ。砂金一袋で本物の反魂丹を分けてやると言ってるのに渋ってたと言ってたよ」
というドゥの言葉に骸は目を丸くした。
「まさか、ハヤテの旦那がが直で商売した相手だって? 千年も昔の話だぞ?」
「そりゃ、ハヤテさんは次期の長候補だし、それくらいは生きてるだろ?」
「そいつは知らなかった、ハヤテの旦那は案外と年寄りだったんだなぁ」
と骸が言った。
「壱さんだってそんくらいは生きてるんじゃない?」
「そ、そうなのか?」
「うん。だからさ、骨から生き返らせるのは術も必要だけど、ただ死んだだけなら生き返らせる薬毒はあるよってハヤテさんが言ってた。
とドゥが話を元に戻した。
「マジか」
「うん、反魂丹からハヤテがさらに作り替えた薬毒がうちにはあるよ。けど……」
とドゥは気が進まないように言葉を濁した。
「何故だい?」
「死人を生き返らせるなんてさ、ろくな結果にならないっていつもハヤテさんが言ってたし……」
「じゃあ、売れねえな」
「うん……」
「いらっしゃ……」
ゴスロリ少女の姿の骸の言葉が止まった。
引き戸を開けて入って来たのは、先日、ドゥに話した死人を生き返らせる薬毒を買いにきた客だった。
客はまだ若い青年だった。
銀縁眼鏡に白いポロシャツで外見は真面目な大学生くらいに見える。
肩にショルダーバッグをかけている。
「あの……」
「ああ、いらっしゃい。覚えてるぜぇ。あんた死人を生き返らせる薬毒を探しに来た兄ちゃんだな」
と骸が言った。
「え、ええ。そ、そうです」
面食らったように客は答えた。
黒いドレス、黒い唇、黒髪をツインテール。店の店員はどう見てもゴスロリ少女であるのに、言葉が中年の親父のようだったからだ。
「生き返りの薬なんてないとは聞いてましたけど、もし、何か、あったらと思って」
「ねえこともねえが」
「本当ですか! 死人が生き返るという薬が?」
「だが、売れねえんだ。すまんな」
と骸は言った。
「ああ、いいですよ。まあ、普通はないですよね」
客は銀縁眼鏡をついと上げてから呆れ口調を隠そうと努力しながらそう言った。
「嘘じゃねえよ! お伽話じゃねえ、本物の反魂丹がある! うちの薬毒店の看板は本物だ!」
骸は引き出しから黒い薬包を取り出した。
薬包の在処はドゥに聞いていた。
だが売るなとは言われている。
客はカウンターの上の黒い薬包に手を伸ばしかけたが、先に黒い小さな前足がその薬包を押さえた。
「ドゥ」
気配も感じさせずにドゥが姿を現していた。
骸が猫姿のドゥを見た。
「あんたが生き返らせてやりたいのは何故死んだんだ? 事故か? 病気か?」
「び、病気です」
「ふーん、五体は満足かい?」
「は、はい」
「ふーん、まあいいけど。こいつは本物の反魂丹だ。あんたみたいな子供に扱える薬毒じゃない。第一、金を持ってんのかい?」
客は驚いたような表情でドゥを見てから、肩のバッグをしっかりとかけ直した。
「い、いくらですか」
「三包で五百万だ」
「ね、猫が……え? ご、五百?」
客はしゃべる猫と値段に驚いたようだった。
「ドゥ、売るのはまずいって言ってたじゃ……」
「……」
ドゥは迷っているような顔をした。
「まあ、このお客さんも現金を持ち歩いてなんかいねえだろうし」
少女と黒猫の会話を聞いた客が、ショルダーバッグの中から札束をつかみ出した。
「あります!」
帯のついた百万の束をばさばさと五束、客はカウンターの上に置いた。
「おお。あんた若いのに金もってんだねえ」
と、骸が言った。
「お願いします! 売ってください。本当に死人が生き返るんですよね!?」
「効果は間違いない。この薬包を白湯に溶かして、死人に飲ませるんだ。こぼさないでゆっくりと口の中に注いでやるんだ。一晩一包の三晩で終わる。全部飲ませられたらあんたの欲しい物が手に入る。あとはめでたしめでたしだ」
とドゥが言った。
「いいのかよ、ドゥ」
「おいらだって役に立てる……売っても問題ないだろう。五百万だぞ?」
ドゥは薬包を押さえていた前足をどけた。
三つの黒い薬包がある。
客の男は震える手でハンカチを取り出し三つの薬包をそれに包み込んだ。
「まいどあり」
と、骸が言い、客はうなずいて満面の笑みを骸とドゥへ向けた。
と、骸がふと思いだしたように言った。
「客? 何の薬毒?」
「死んだ者を生き返らせる薬毒なんぞ、あるけぇ?」」
「死人?」
「うん、そんな事を言ってたな。まあ、たいして期待もしてない様子だったけどなぁ。死人を生き返らせるなんぞ、人間界じゃ魔法さ。昔昔はどこぞの偉い坊さんが反魂の術を用いて人造人間を造ったが、魂のない生き物を造り上げちまって、という話があるぞ」
と骸が言った。
「その話ならハヤテさんから聞いて知ってるよ。そこら辺に落ちてる野ざらしの人骨と草木で人間を造っちまうようなケチ坊主さ。術の最後に使う反魂丹を安い偽物で間に合わせてさ。そりゃあ、失敗するだろうさってハヤテさんも笑ってたよ。砂金一袋で本物の反魂丹を分けてやると言ってるのに渋ってたと言ってたよ」
というドゥの言葉に骸は目を丸くした。
「まさか、ハヤテの旦那がが直で商売した相手だって? 千年も昔の話だぞ?」
「そりゃ、ハヤテさんは次期の長候補だし、それくらいは生きてるだろ?」
「そいつは知らなかった、ハヤテの旦那は案外と年寄りだったんだなぁ」
と骸が言った。
「壱さんだってそんくらいは生きてるんじゃない?」
「そ、そうなのか?」
「うん。だからさ、骨から生き返らせるのは術も必要だけど、ただ死んだだけなら生き返らせる薬毒はあるよってハヤテさんが言ってた。
とドゥが話を元に戻した。
「マジか」
「うん、反魂丹からハヤテがさらに作り替えた薬毒がうちにはあるよ。けど……」
とドゥは気が進まないように言葉を濁した。
「何故だい?」
「死人を生き返らせるなんてさ、ろくな結果にならないっていつもハヤテさんが言ってたし……」
「じゃあ、売れねえな」
「うん……」
「いらっしゃ……」
ゴスロリ少女の姿の骸の言葉が止まった。
引き戸を開けて入って来たのは、先日、ドゥに話した死人を生き返らせる薬毒を買いにきた客だった。
客はまだ若い青年だった。
銀縁眼鏡に白いポロシャツで外見は真面目な大学生くらいに見える。
肩にショルダーバッグをかけている。
「あの……」
「ああ、いらっしゃい。覚えてるぜぇ。あんた死人を生き返らせる薬毒を探しに来た兄ちゃんだな」
と骸が言った。
「え、ええ。そ、そうです」
面食らったように客は答えた。
黒いドレス、黒い唇、黒髪をツインテール。店の店員はどう見てもゴスロリ少女であるのに、言葉が中年の親父のようだったからだ。
「生き返りの薬なんてないとは聞いてましたけど、もし、何か、あったらと思って」
「ねえこともねえが」
「本当ですか! 死人が生き返るという薬が?」
「だが、売れねえんだ。すまんな」
と骸は言った。
「ああ、いいですよ。まあ、普通はないですよね」
客は銀縁眼鏡をついと上げてから呆れ口調を隠そうと努力しながらそう言った。
「嘘じゃねえよ! お伽話じゃねえ、本物の反魂丹がある! うちの薬毒店の看板は本物だ!」
骸は引き出しから黒い薬包を取り出した。
薬包の在処はドゥに聞いていた。
だが売るなとは言われている。
客はカウンターの上の黒い薬包に手を伸ばしかけたが、先に黒い小さな前足がその薬包を押さえた。
「ドゥ」
気配も感じさせずにドゥが姿を現していた。
骸が猫姿のドゥを見た。
「あんたが生き返らせてやりたいのは何故死んだんだ? 事故か? 病気か?」
「び、病気です」
「ふーん、五体は満足かい?」
「は、はい」
「ふーん、まあいいけど。こいつは本物の反魂丹だ。あんたみたいな子供に扱える薬毒じゃない。第一、金を持ってんのかい?」
客は驚いたような表情でドゥを見てから、肩のバッグをしっかりとかけ直した。
「い、いくらですか」
「三包で五百万だ」
「ね、猫が……え? ご、五百?」
客はしゃべる猫と値段に驚いたようだった。
「ドゥ、売るのはまずいって言ってたじゃ……」
「……」
ドゥは迷っているような顔をした。
「まあ、このお客さんも現金を持ち歩いてなんかいねえだろうし」
少女と黒猫の会話を聞いた客が、ショルダーバッグの中から札束をつかみ出した。
「あります!」
帯のついた百万の束をばさばさと五束、客はカウンターの上に置いた。
「おお。あんた若いのに金もってんだねえ」
と、骸が言った。
「お願いします! 売ってください。本当に死人が生き返るんですよね!?」
「効果は間違いない。この薬包を白湯に溶かして、死人に飲ませるんだ。こぼさないでゆっくりと口の中に注いでやるんだ。一晩一包の三晩で終わる。全部飲ませられたらあんたの欲しい物が手に入る。あとはめでたしめでたしだ」
とドゥが言った。
「いいのかよ、ドゥ」
「おいらだって役に立てる……売っても問題ないだろう。五百万だぞ?」
ドゥは薬包を押さえていた前足をどけた。
三つの黒い薬包がある。
客の男は震える手でハンカチを取り出し三つの薬包をそれに包み込んだ。
「まいどあり」
と、骸が言い、客はうなずいて満面の笑みを骸とドゥへ向けた。
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